【ロンドン人 3】樋田もとこ「地域にとけこむ日本のパン屋を」

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もとこさんと私は同世代。少し上を見ればバブル世代、下を見ればチヤホヤされる世代。 そんな中、 誰にも見向きもされなかったベビ ーブーム絶頂期世代を勝手に “狭間の世代” と名付けた。高校を中退し自らの力で大学へ進学。何をするにも己の意思で突き進まなければ手にすることが出来ないということを悟った、芯からの努力家。 そんな彼女の経緯も多様であり、アパレル業界経験あり、中国の在住歴あり。 結婚を機に渡英した後は、手作りに拘る両親の教育の影響と彼女自身のモチベーションもあり “この地で何ができるか、何をして生きていくか” という自問自答の末、 子供の頃からの趣味でもあり本人も大好きなパンの世界へ。年齢に関係なく打ち込める永遠の職であり、 まさに好きを仕事に。一度拘ると妥協なし。寝る間もなく、早朝 … ではなく夜中からパンを焼き続けた。その猪突猛進な姿は周りに感銘を与える。そしてこのロンドンという地では未知の世界 「日本のお惣菜パン」というマーケ ットにチャレンジした。そして今、その第一歩を切り開き、彼女の作る日本のパンはこのロンドンの地でたくさんの支持を得ることと なった。転んだってタダじゃ起きない、もとこさん。人生とはうまく生きることではなくどう生きるかを教えてくれる人。 (武山恵美)


樋田 もとこ「地域にとけこむ日本のパン屋を」

結婚をきっかけにロンドンへ

現在の夫が仕事で日本に来ていた時に出会い、 結婚したことがきっかけで 2006 年に移住してきました。来てすぐに仕事を探したのですが、英語が出来なかったこともあり、やれることの選択肢も限られてしまったので、自分で何か始めてみることにしたんです。何をやろうかな?と考えたときに、親と生活で使うものや食べるものを手作りしていたことを思い出し、パン作りをはじめることに。 私が幼稚園に入る前くらいから、ご飯を炊くみたいにパンを作っていたので 「私、パンが作れる!」と。子供がいてもやっていけるし、自分らしく長くできそうと思い、 始めてみることにしました。

電話注文から始めたパン屋「Happy Sky Bakery」

今と同じで、やると決めてからの行動は早かったのですが、子供もまだ生まれたばかりで、その思いを実現するのはすごく大 変でした。 まず保健所に行き、家を改造して資格を獲って、やっとの思いでデリバリー販売をスタート。当時はネットが 普及していなくて、電話で受け付けて注文をとっていました。 最初からすぐ注文が来るわけもなく、3人ほどのために、100 個ほど焼いていた事も。残りは家族で食べたり、友人に配ったりして。 お客さんが少ないからといってメニューは絞らず、できる だけ多くの種類から選べるようにこだわって作っていました。

生涯、現役で仕事をする舞台が欲しい

「70 歳、80歳になっても働きたい、一生働く舞台が欲しい」と思っていたので、 お店を持つことを目標に、ずっとやってきま した。2015 年に自分のお店をオープンする事ができたのですが、いざ開けてみると、お店の維持と子育てとの両立が本当に 大変で。 それでも必死にやってこられたのは、性格上、自分が想い描くように自由に生きていきたいというのが根底にあるか らかもしれません。私、私立の高校を退学しているんですが、その時感じたのは「自分の人生を組織に預けていると、 組織 が決断したことに従わなきゃいけない」ということ。辞めたくなかったのに、不本意な思いをした経験が強く残っていて、い つも食いぶちと場所は自分で確保しなきゃ、と思っています。

イギリスと自分らしさのバランス

開業当時、イギリスでやっていく上で大事なのは、自分が日本人だということを意識することだと思っていました。 日本人らしい丁寧さやクラフトマンシップを表に出してやりたかった。パンもハード系が主なイギリスと真逆の、 日本っぽいもちもちとした触 感にして個性を大切に作ってきました。でもやっぱり現地の人にも、もっともっと受け入れてもらいたいと思うようになり、4年前作ったのが 「トーキョーミルクロール」。 ロンドンで育った粉を使用し、工場と一緒に作った食パンです。 日本らしいもちも ちだけじゃなく、ローカルの人にも受け入れられる触感。「日本人として!」 という考えを一新して作った食パンがイギリスの 2019 年度ワールドブレッドアワードに選ばれました。現地と自分らしさのコラボが生んだ賞でした。

地域に溶け込むベーカリー

お客様は近所に住む常連さんが9割。自分が理想とする「現地に溶け込んでる、 日本人のパン屋」にどんどん近づいている 気がします。当初は甘いあんこが入ったパンが珍しかったのか「これ何?」と聞かれることが多く、 1人1人に丁寧に説明をしていました。 近頃は、あんパンや朝食用の食パンだけのために来てくれたりと、 彼らの生活の中のひとつというか、コミュニティの一員になれているなと感じる事が、本当に嬉しい。

わたしを自由にしてくれる場所

ロンドンは、年齢や国籍に関係なく自由に生きたい人にぴったりの場所。人種のるつぼということもあり、人と違うのが当たり前。自分がどう見ら れるかとか、こうあるべきだとか、関係なくいられます。実際、私も日本 にいるときは、世間のいう「普通」にとらわれていました。そういうのに縛られず、自分らしく生きたい人にはすごく良い環境だと思います。

家族でゆったり過ごせる Chiswick エリア

Chiswick はアクセスも良く、個人のお店が多く並んでいる商店街もあり、下町のような温かみを感じる場所。地に足の着いた住宅街の中にあって、東京でいう戸越銀座のような感じがします。お店の方々がとってもフレン ドリーだからファミリーで来るにもとってもいいし、地元民もいれば、ヨー ロピアンもいるミックスカルチャーで、 賑やか。近くに日本人コミュニティもあるのでとても過ごしやすいですよ。テムズ川沿いを散策しながら商店街でご飯を食べるのがお気に入りのコースです。

(インタビュー記事起こし:吉田真央)


ロンドンの好きなエリア:チズウィック

1. Foubert’s フォウバーツ
チズウィックにアイスクリーム屋は数あれど、やっぱりおじいちゃんとおばあちゃんがやってるここが、一番のお気に入り。
https://www.fouberts.co.uk/

2. Napoli on the Road  ナポリ・オン・ザ・ロード
本当にナポリの味で、ピザじゃないものもおいしいのがここ。
https://www.napoliontheroad.co.uk/

3. Le Vacherin ラ・ヴァシュラン
チズウィックでフレンチというとラ・トランペットという人が多いけど、地元民が行くのは実はこっちです。
https://www.levacherin.com/

4. Macken Brothers  マッケン・ブラザーズ
肉屋なんですけどね。1960年代から続く家族経営のナチュラル・ミートのお店。おすすめです!
http://mackenbrothers.co.uk/


樋田 もとこ Motoko Hida
パン職人 / Happy Sky Bakery オーナー。東京都出身。早稲田大学商学部卒業後、中国・北京へ留学。その後上海へ移り、日系アパレル会社勤務を経て中国でフリーランスとして独立。広告や販促物のプロデューサーとして活躍。2003年に日本に帰国後も中国と日本を行き来する生活をする。2006年渡英。出産後、2007年よりパンの製造販売を始める。2015年、西ロンドンに無添加・安心・安全をモットーにしたベーカリー「Happy Sky Bakery」をオープン。様々なメディアで取り上げられ、2017/18年連続でワールド・ブレッド・アワードを銅銀を受賞。2021年夏までにピカデリー・エリアにハイエンドなベーカリー・カフェをオープン予定。
https://www.happyskylondon.com/

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歌手でもあるデザイナーのMEG、サパークラブ「MEGUMIS」主宰の料理家、武山恵美が発起人となり、2019年にロンドンで活躍している日本人に話を聞いてコンテンツを起こす新ロンドン・ガイドブックを企画。しかし制作途中でまさかのパンデミックとなり、ブック形式の出版を一旦保留とし、取材を終えていたインタビュー・コンテンツを救うべくウェブメディア掲載へ。海外移住や海外での仕事を考えている人に刺激をもたらし、背中を押すきっかけになることを願って企画された。インタビュー起こし前半は吉田真央、後半はあぶそる〜とロンドンが手伝っている。

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