鉄道発祥の地の威信をかけて

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こんにちは。今日も鉄道に癒されてます、アーティストの赤川薫です。

10年前、スロバキア・ブラチスラバの路面電車をたまたま撮ったことで病んでいた私は癒された・・・というお話を前回しましたが、その後、子鉄(子供の鉄道ファン)が「きかんしゃトーマス」を好きになったことをきっかけに、蒸気機関車にハマってしまった。発車直後のバフッ!バフッ!という爆音、スピードに乗った時のリズミカルな走行音、沸き立つ蒸気。特に晴れて寒い日の蒸気はカメラのレンズ越しに雄弁に語りかけて来る。帰宅して髪を洗うと炭塵を含んだ黒い泡が立った日は充足感さえ覚える始末。そんな、子鉄より子供なアラフィフ・ママ鉄の蒸気機関車のお話にしばしお付き合いください。
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立ち昇る蒸気がレンズ越しに語り掛けて来る
Lancashire and Yorkshire Railway 23形サドルタンク752号機(現在は51456)

まったくもって個人的な感想だが、日本ほど鉄道ファンの層が厚いところはないように思う。見晴らしの良い駅には必ずのように鉄オタの先客がいるし、インスタグラムなどでの鉄道写真のクオリティの高さは世界随一ではないかと感じる。でも英国における蒸気機関車の保存・修復・運行に対する真剣度にも目を見張るものがある。英国の機関士や技師たちと話すと、鉄道発祥の地の威信をかけているから、日本の「蒸気機関車好き」とは少しベクトルが違うように感じる。

あまり知られていないが、英国では現在も400両以上の蒸気機関車が保存され (*1)、100以上の路線で走っている (*2)。

West Country形34092号機 City of Wells(左)とLMS Royal Scot形46100号機 Royal Scot(右)

かなり普通にほうぼうで蒸気機関車が走っているのだ。日本からの旅行や出張でロンドンを訪れる際に、ふらりと立ち寄ることのできる蒸気機関車のイベントや路線、ちょっとしたコツのような詳細は後々ゆっくり連載したいが、これだけの蒸気機関車を管理する努力は並大抵のことではない。

例えば、ロンドンから近郊列車で1時間ほどのところにあるWatercress Line Railwayという鉄道路線にインタビューしたところ、所有する蒸気機関車の修理・維持費に年間70万ポンド以上(1億円強)の予算が必要で、文化遺産宝くじ基金(HLF)の助成金やチケットなどの売り上げで賄っているという。寄付も受け付けている。同鉄道の駅舎や車庫などをめぐるツアーのガイド担当者に尋ねたところ、大口寄付者のうちの一人はスイス人らしい。

蒸気機関車の煙突を募金箱に再利用しているのはよく見かける光景
Didcot Railway Centre (左) Middleton Railway(右)

英国の鉄道駅で頻繁に見かける、現役を引退した煙突を再利用した募金箱は、実際のところどれだけ収益力があるのか不明だが、いずれも駅舎に風情を加えている。ネットで支援を受け付けている鉄道会社も多く、日本からももちろん、寄付できる。蒸気機関車の維持になぜこれだけ膨大な費用がかかるのかというお話もいずれ書いてみたい。

しかも英国全土の蒸気機関車の修復や運行に携わる人のほとんどは鉄道ファンのボランティアだと言うから驚く。例えば、前述のWatercress Line Railwayは約50名の職員に対して約400名のボランティアが働いており、今年の6月に英国女王賞のボランティア部門を受賞した (*3)。ボランティアの貢献なしでは成り立たないと言っていい。私も鉄オタとして、ボランティア活動で蒸気機関車の修復や運転、駅舎の管理ができるなんて羨ましい限りで、いつか体験してみたいことの一つだ。ボランティアに参加するための条件や活動内容などについても、これまた、いつか書きたい。「書きたい書きたい詐欺」にならないように頑張る所存。

このような蒸気機関車への情熱は「鉄道発祥の地の威信をかけて」と書いたが、実は、もう一点、英国のプライドがある。それは、蒸気機関車の世界最高速度記録を保持しているから、、、というお話は是非またの機会に。

 

*1 Cornfoot, R. (2019). Preserved steam locomotives of British Rail. Retrieved 08 05, 2022, from Geograph: http://www.geograph.org.uk/article/Preserved-steam-locomotives-of-British-Rail.

*2 About-Britain.com. (n.d.). Steam heritage railways. Retrieved 08 05, 2022, from About-Britain.com: https://about-britain.com/tourism/steam-railways.htm.

*3 The Watercress Line receives The Queen’s Award for Voluntary Service. (2022, 06 02). Alton Herald. Retrieved 08 11, 2022, from https://www.altonherald.com/news/the-watercress-line-receives-the-queens-award-for-voluntary-service-549398.

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About Author

アーティスト&鉄道ジャーナリスト。アーティストとして米・CNN、英・The Guardian、独・Deutsche Welle、英・BBC Radioなどで掲載されました | 鉄道ジャーナリストとしては日本の『旅と鉄道』『乗りものニュース』や英国の雑誌『Heritage Railway』に執筆しています。
公式インスタグラム:@kaoru_akagawa
鉄道インスタグラム:@kaoru_akagawa_railwayslways

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