英国とドイツが、速さを競ったその昔

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こんにちは。今日も鉄道に癒されてます、アーティストの赤川薫です。

すっかりご無沙汰してしまいました。
と言うのも!実は!旅行誌「旅と鉄道」に英国のトークン交換について執筆させて頂きました!
発売中の2023年1月号「世界の鉄道」という連載枠です。どうぞよろしくお願い致します!

子鉄(2歳)が夜通し寝てくれるようになった喜びで今年の5月に衝動的に始めた鉄道専用インスタグラムをきっかけに、「あぶそる~とロンドン」で連載させて頂くに至り、今度は憧れの雑誌に執筆することに。連載を読んでくださっている皆様並びにチャンスを下さった方々に感謝申し上げます。

さて、今回はちょっと英国から脱線しましてドイツの高速鉄道のお話です。今日も気まぐれなママ鉄の、脱線に継ぐ脱線のお話にお付き合いください。

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19世紀末から第二次世界大戦前のドイツの鉄道は速かった。第3回の連載に書いたように、現在の蒸気機関車の世界最高速度記録を保持しているのは英国のLNER A4形の4468号機マラード。その英国などとスピードで覇権を争ったのが高速蒸気機関車や高速ディーゼルの開発に燃えたドイツだった。

英国の伝説の鉄道設計士、サー・ハーバート・ナイジェル・グレズリー(1876–1941)が設計したA4形には二つの列車が影響していると言われている。一つ目は、フランスの自動車メーカー、ブガッティの創業者でイタリア人のエットーレ・ブガッティ(1881–1947)が生み出した流線形のレールカ―だ(*1)(*2)。このレールカ―の鉄道デザイン関しては、いつかまた書きたい。

もう一つは、1933年にグレズリーが視察旅行で訪れたドイツ(*3)で乗った(*4) DRG形 SVT 877号機フリーゲンデ・ハンブルガー(空飛ぶハンブルク人という意味)という流線形の高速ディーゼル(*5)。

1932年に撮影されたフリーゲンデ・ハンブルガー
©ドレスデン交通博物館 (Verkehrsmuseum Dresden) (*6)

フリーゲンデ・ハンブルガーは1932年に試作モデルが作られ、1935年からベルリン・ハンブルク間で定期運転を始めるが、287キロを2時間18分、平均時速125.6kmで走る当時の最速定期運行路線だった(*7)。

1932年に撮影されたフリーゲンデ・ハンブルガー
©ドレスデン交通博物館 (Verkehrsmuseum Dresden) (*8)

そもそも、19世紀末にディーゼルエンジンを開発したのはドイツ人で、その名もルドルフ・ディーゼル(1858–1913)という。ディーゼルは後に世界の輸送の大量化・高速化を揺るがす発明を成し遂げたにもかかわらず、借金苦の末、1913年にベルギーから英国へと向かう船から海へ飛び込み亡くなるのだが、当時、「ディーゼルエンジンの特許権を英国政府に売り渡そうとして抹殺された」などというスキャンダラスな見出しが躍った(*9)。真実のほどはともかく、そのような噂が立つほどに、当時のドイツと英国が輸送手段の高速化で火花を散らしていた証拠だろう。

その渦中の列車となったフリーゲンデ・ハンブルガーは現在、廃車になった車両の一部をニュルンベルク交通博物館が展示している。だが、その同型のDRG 形SVT 137号機は完全な姿のまま独・ライプツィヒ中央駅の構内、ホームの角でその余生を過ごしている。

フリーゲンデ・ハンブルガーと同型の車両

車体に記されたドイツ国営鉄道の鷲のマーク

私が訪れた時は温和な顔つきをして、だが、一目瞭然で何か歴史的な車両に違いないと思わせる風格を備えてひっそりとたたずんでいた。

ホームが24面あるライプツィヒ中央駅は欧州最大の床面積を誇る(*10)。駅舎も美しい。歴史的な建築物が並ぶ旧市街や名門オーケストラのゲヴァントハウス管弦楽団、前述のDRG 形SVT 137号機の鑑賞も含めて一度訪れる価値がある。

天井が美しいライプツィッヒ中央駅の駅舎

余談だが、ライプツィッヒ中央駅は、The Consumer Choice Centerという米国に拠点を置く消費者保護団体が発行している「消費者に優しい欧州の鉄道駅ランキング2021」の栄えある第一位に輝いている。2位はウィーンの中央駅、3位はロンドンのセントパンクラス駅だ(*11)。

ただ「欧州第一」として突出しているかと言われると首をかしげたくなる。今までライプツィッヒ中央駅で「消費者に優しいサービス」を受けた記憶はあまりない。評価項目にある「プラットフォームの混雑度合い」というのが功を奏したのだろうか。

ライプツィッヒ中央駅。欧州最大の駅とは思えないのどかさが魅力の一つ

ランキングをまとめた米国の消費者団体のサイトによると、2021年のランキングには鉄道オタクからの異論が多数寄せられたそうだ(*12)。2022年の同ランキングではライプツィッヒ中央駅は大幅に評価を下げている。異論の噴出を受けてだろうか、この消費者保護団体は欧州の駅の調査協力を一般の鉄道オタクに呼び掛けている 。ネット上で気軽にできそうなので、欧州の駅を訪れた際にはホームや店舗の数を数え、来年のランキングに一石を投じてみるのも楽しいだろう。

話が脱線してしまったが、こうして鉄道の速さで国を挙げてしのぎを削り合った英国とドイツだが、昔は速かったドイツの鉄道が現在どのような状況になっているのか、、、というお話は是非またの機会に。

*1 O’Clair, Jim. n.d. “The Great Depression forced Bugatti from road to Autorail.” Hemmings. Accessed 09 07, 2022. https://www.hemmings.com/stories/2015/10/27/the-great-depression-forced-bugatti-from-road-to-autorail.
*2 ヨーク国立鉄道博物館の展示説明より
*3 Herring, Peter. 2000. Classic British Steam Locomotives. Leicester: Abbeydale Press, 134.
*4 Cet, Mirco De. 2020. British Steam Locomotives: The Steam Trains of Great Britain Shown in 200 Photographs. London: Lorenz Books, 39.
*5 Clewer, Charles. 2016. “Art Deco on the Railways – A New Streamlined Age.” Birmingham Museum, 30 11. Accessed 08 05, 2022. https://www.birminghammuseums.org.uk/blog/posts/art-deco-on-the-railways-a-new-streamlined-age.
*6 2021. “Fotografie: sechsachsiger dieselelektrischer Doppeltriebwagen “Fliegender Hamburger” (Stirnansicht I), 1932.” museum-digital. 26 11. Accessed 09 13, 2022. https://nat.museum-digital.de/object/735316.
*7 n.d. “Fliegender Hamburger – Vt 877 Der Urahn Des Ice 1931.” DB Museum. Accessed 09 13, 2022. https://dbmuseum.de/nuernberg/fahrzeuge/fliegender-hamburger-vt877.
*8 2021. “Fotografie: sechsachsiger dieselelektrischer Doppeltriebwagen “Fliegender Hamburger” (Stirnansicht I), 1932.” museum-digital. 26 11. Accessed 09 13, 2022. https://nat.museum-digital.de/object/735318.
*9 Harford, Tim. 2016. “How Rudolf Diesel’s engine changed the world.” BBC. Accessed 08 11, 2022. https://www.bbc.co.uk/news/business-38302874.
*10 admin, cms. 2010. “Top Ten Record-Breaking Stations.” Railway Technology. 07 02. Accessed 09 15, 2022. https://www.railway-technology.com/analysis/feature76247/.
*11 Chaplia, Maria, and Tarsaidze, Tamar. n.d. “European Railway Station Index 2021.” Consumer Choice Center. Accessed 09 15, 2022. https://consumerchoicecenter.org/europe-railway-station-index-2021/.
*12 Chaplia, Maria, and Tamar Tarsaidze. n.d. “European Railway Station Index 2022.” Consumer Choice Center. Accessed 09 15, 2022. https://consumerchoicecenter.org/european-railway-station-index-2022/.

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アーティスト&鉄道ジャーナリスト。アーティストとして米・CNN、英・The Guardian、独・Deutsche Welle、英・BBC Radioなどで掲載されました | 鉄道ジャーナリストとしては日本の『旅と鉄道』『乗りものニュース』や英国の雑誌『Heritage Railway』に執筆しています。
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