こんにちは。今日も鉄道に癒されてます、アーティストの赤川薫です。
再告知になってしまいますが、現在まだ発売中の雑誌「旅と鉄道」2023年1月号の「世界の鉄道」を執筆させて頂きました! すでに読んでくださった皆様、誠にありがとうございます。私の鉄道インスタグラムにダイレクトメッセージやコメントで感想をお知らせ下さった方も多く、大変嬉しく大切に拝読いたしました。
ご多忙でまだ書店に行かれてない、あるいは地方在住で書店になかったという方は、オンラインでも買えるようですので、是非、よろしくお願いいたします!
さて、今回はまたもや、ちょっと英国から脱線しまして昔は英国と鉄道の速度で競い合ったドイツが21世紀ではどうなっているかというお話です。今日も、子鉄を寝かせた後に鉄道写真を眺めてニマニマしているママ鉄のお話にお付き合いください。
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文豪・森鴎外の「独逸日記」によると明治19年(1886年)当時、ドイツのドレスデンから首都ベルリンまで蒸気機関車で3時間15分で着いたそうだ(*1)。ドイツと言えば「時間厳守」というイメージ(*2)で、技術大国ランキングでも上位に必ず入る(*3)。だが、それは遠い昔の話。現代の遅延運転だらけのドイツ鉄道での机上の空論的な建前上の運行時間は2時間弱だが、定刻に着いた試しがない。1、2時間の遅れは日常茶飯事だから、鴎外の証言が本当かどうかなどと、つい疑ってしまう。
現に、2022年10月4日にもドレスデンからベルリンに向かう列車が故障し、駅でもないところで立往生したことがニュースになった。結局は列車は動かず、横づけにした後続の列車と乗降口同士を渡し板で繋ぎ、260名の乗客を乗り換えさせたそうだ(*4)。後続車への乗り換え作業だけで30分は要し、当然、後続車も遅れたことだろう。ちなみに、こういう状況になった場合、故障した車両の予約席は当然無効なので、新しく乗り込んだ電車では立たされる可能性が大きい。予約券の払い戻しもない。一等車だろうが容赦ない。
しかも、困ったことに、このベルリン-ドレスデン間は未だに携帯電話が通じないところが多々あるほど、鴎外が暮らしていた時代から時計があまり進んでいない。私自身も、この区間で完全缶詰め状態にされ、知人を待たせたまま連絡もできない状態を過去に多々経験した。車内の冷暖房の故障どころか、トイレの故障もたまにあるほどで、乗るのにはいつも多少の覚悟が必要だ。
21世紀もすでに四半世紀が経とうとしているとは到底思えないドイツ鉄道の状況が凝縮されているような区間だが、その分、レトロ体験もできる。現在ベルリンとドレスデンの間の列車は、実際にはドイツ北部の港湾都市ハンブルクからドイツの首都ベルリン、旧ザクセン王国の古都ドレスデン、チェコの首都プラハ、オーストリアの首都ウィーンやハンガリーの首都ブダペストなどという主要観光都市を結ぶ素晴らしい国際路線だ。
ドイツ、チェコ、オーストリア、ハンガリー、いずれも国境検査をしないシェンゲン協定に加盟しているからパスポートのチェックはない。国境を意識させるような設備も多くが撤去されたため、国際列車だと意識することもなく日本では不可能な国をまたいだ鉄道旅行ができる。
列車をけん引するのは鴎外の時代のように蒸気機関車ではさすがにないが、電気機関車だ。機関車の廃止が進む日本では電気機関車でさえレアな乗りものとなってしまった。毎日運行されているものとしては大井川鐵道井川線(静岡県)しか残っていない(*5)という。
実は2018年まで(*6)は未だにドレスデンでドイツ鉄道からチェコ鉄道へ、機関車の付け替えが行われていた。
だが、上記の写真を撮った直後に機関車の付け替えは残念ながら廃止されてしまった。碓氷峠で機関車の付け替え時間を利用して峠の釜めしを買いに走ったことがある世代にとって、機関車の付け替えは「旅情」だった。ドイツ鉄道の遅延事情に慣れっこになり、電車が定刻に走ることを最初から期待しない旅なら、なおさら、機関車の付け替えは良いエンターテイメントだったと今になって思う。
朗報もある。機関車交換は廃止されても食堂車は健在。かつてのどこか懐かしい食堂車はなくなってしまったが、私が最近旅した際には新型食堂車が付いていた。
日本では減少傾向にある食堂車での食事は風情があって良い。だが、ここまで読んですでに耳タコになっていることと思うが、食堂車の故障も多い。食堂車をあてにして乗り込むのは多少リスクを伴うというオチ付きなのが欧州の旅ならでは。鴎外の時代に戻ったつもりで、多くを求めず気長に構えて旅をしよう。
機関車の開発で英国と凌ぎを削り合ったとは到底思えない現在のドイツ鉄道の惨状を見ると、鴎外がほぼ140年前にドレスデンから首都ベルリンまで蒸気機関車で3時間15分で着いたというのがいかに驚異的か分かる。
こうして国を挙げて凌ぎを削り合った英国とドイツだが、実は蒸気機関車の基本的な構造に大きな差があり、それが現在でも英国の頭痛の種になっている、、、というお話は是非またの機会に。
*1 森, 鴎外. 2006. “独逸日記.” In 独逸日記 小倉日記 森鴎外全集13, by 鴎外 森, 92. 東京: 株式会社筑摩書房.
*2 Takano, Yuduru. 2018. “時間厳守のドイツ、サマータイムは「つらいよ」 廃止へ.” 朝日新聞. 27 10. Accessed 11 03, 2022. https://www.asahi.com/articles/ASLB47RB6LB4UHBI043.html.
*3 n.d. “Most Technologically Advanced Countries 2022.” World Population Review. Accessed 11 03, 2022. https://worldpopulationreview.com/country-rankings/most-technologically-advanced-countries.
*4 MDR SCHSEN. 2022. “Deutsche Bahn räumt Eurocity von Dresden nach Berlin auf freier Strecke .” mdr. 04 10. Accessed 10 08, 2022. https://www.mdr.de/nachrichten/sachsen/dresden/grossenhain-riesa/bahn-raumung-eurocity-zabeltitz-dresden-berlin-eurocity-100.html.
*5 Kusamachi, Yoshikazu. 2018. “機関車が引っ張る旅客列車、なぜ減った 貨物はいまも機関車メイン.” 乗りものニュース. 20 10. Accessed 11 03, 2022. https://trafficnews.jp/post/81706.
*6 JZ. 2018. “Schneller von Berlin nach Prag.” DMM. 13 06. Accessed 10 08, 2022. https://www.dmm.travel/nc/news/schneller-von-berlin-nach-prag/.