002 | 眠りのサイエンス

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疲労気味や体調不良の人にとって、休息が最善の薬になるケースは少なくないと思います。健康のメンテナンスで、わたしが個人的に優先しているのは、睡眠時間の維持。わたしたちは、空気や食事と同様に、睡眠なしで生命の維持ができません。深い休息状態のときのみに、遺伝子レベルでの修復や再生が行われるため、睡眠時間を十分にとることと、深い眠りにつくことは、健康には不可欠の要素。なので「beauty sleep(ビューティー・スリープ)」という言葉があるのにも納得です。日本だと「寝る子は育つ」といったところでしょうか?

イギリス人は睡眠不足気味?

2013年イギリス国内約5,000人を対象に行われた、スリープ・カウンシルによる睡眠調査によると、2010年から2013年の間に、平均睡眠時間が5〜6時間という人が急増したとのこと。その約40%の睡眠時間がNHS推奨の6〜9時間より短いという結果でした。イギリス人の平均就寝時間は11時15分、平均睡眠時間は6時間35分。またロンドナーの就寝時間は、全国平均よりやや遅い11時25分で、睡眠時間は6時間46分。調査が行われたイギリス国内のどの地域でも、睡眠の妨げとなる最大の原因は、心配事やストレス。そのため、よく眠れず夜中に目を覚ますという人が、平均して47%(女性54%、男性40%)(1)

これらの数値は、理想とされる眠りの状態から離れているため、現代人特有ともいえるストレス中心の生活を浮き彫りにしていると思います。加えて、特に若い世代では、ソーシャル・メディアの使用などが睡眠不足に加担しているようです。先進国では、どこで調査しても似たような結果が出るかもしれませんね。

睡眠不足はなぜ不健康?

これを読んでいる人で、寝不足を一度も体験したことがない人は、まずいないはず。なぜ不健康なのかは察しがつくと思いますが、関連の研究レポートがいくつか手元にあるので、以下簡単に紹介します。

睡眠不足と飲酒の害を比較した調査では、睡眠不足が飲酒と同じように、脳や神経に悪影響を与えると報告。またこの結果より、飲酒時同様、スピード感覚の鈍りや正確さにずれを引き起こすとし、寝不足での自動車運転や機械操作時の安全性が疑われるとしています(2)。別の調査でも、睡眠妨害や単なる寝不足、いろいろな理由による断片的な睡眠を含めた各種の睡眠不足は、どれもが脳機能低下のもとになると報告 (3)。当然ながら、脳がうまく機能しないと、からだとのコーディネーションもうまくできなくなるので、思考力が衰えるだけでなく、ネガティブな感情が強くなったり、からだの機能低下につながったりします。昨年発表されたレポートによると、睡眠時間が6時間かそれ以下の人が風邪のウイルスにさらされた際、睡眠時間7時間かそれ以上の人に比べて、4.2倍風邪をひきやすくなるとのこと。年齢、ストレス度、人種、学歴、収入や、喫煙者かどうか、ということに関わりなく影響するそうです(4)。同じく昨年の十代を対象とした調査では、寝不足が甘いものやデザートに対する欲求を引き上げると報告されています(5)。なので、減量ダイエット中の人や、甘いものが大好きという人は、ベストな睡眠がとれているかをチェックすることも、有効な対策といえるでしょう。

理想的な睡眠時間はどのくらい?

一般的に理想とされる成人の睡眠時間は8時間前後という理解でいますが、個人のベストには開きがあるので、一番体調がいいと思える就寝/睡眠時間を、各自で把握する必要があります。運動量や労働量の多い日には、いつもよりやや長めに睡眠をとると、その日の疲れ回復と翌日への充電がしっかりできるはず。

ぼくのベストは14時間、むにゃむにゃ。。。

ぼくのベストは一日計14時間、むにゃむにゃ。。。

必要な眠りが得られているかどうかは、以下の項目でチェックしてみてください(6):

  • 目覚まし時計がないと起きられない
  • 決断力の低下
  • 選択判断や決定力の低下
  • いらつきがち
  • パートナーより、枕の方が魅力的に見える
  • 頻繁に具合が悪くなる(風邪などで)
  • 記憶力や集中力の低下
  • 注意不足になりがち
  • 日中うたた寝したり、意識が遠のいたりする

これらは睡眠不足のみならず他に起因することもあるので、上に該当し異状を感じる場合には、まず医師や専門家に相談されることをお勧めします。またこれらに該当し、睡眠不足(または過剰)に起因しているかもしれないと思う人は、睡眠時間やタイミングを調整してみてはいかがでしょうか?

睡眠中の姿勢も健康に影響!?

睡眠関連の研究で特におもしろいと思ったのは、最近まで存在を知られていなかった、脳専用のデトックス・システムなる「Glymphatic pathway(グリンパティック・パスウェイ)」に関する研究です。去年発表され、業界内で話題になったのは、脳と睡眠中の姿勢を研究しているチームのレポート。グリンパティック・パスウェイは、からだの毒素や廃棄物を濾過するリンパの仕組みと似ていて、簡単に説明すると、睡眠中に脳内の特定スペースが広くなり、アルツハイマー病などに関与するアミロイドなど、害となる毒素や廃棄物を脳脊髄へ送って濾過する仕組み。覚醒時にはこの特定スペースが小さくなるため、睡眠時に比べると動きは少ないようです。グリンパティック・パスウェイが最大に機能する姿勢は、仰向きでもうつ伏せでもなく、サイドだそう(7)。これはねずみを使った実験結果をもとにしていて、研究者たちはヒトの場合でも同じ結果が出ると見込んでいますが、ヒトの脳をMRIスキャンで調査するのが、どうやら次の段階のようです。同チームのDr.ネダガードによると「人間のみならず、動物(野生も含め)が眠るときの姿勢はサイドが圧倒的に多いので、興味深い」とのこと(8)。サイドで眠っていない人は、試してみる価値があるかも!?

日々いろんなことに追われて睡眠時間を削りがちという人には、他のことを調整して、しっかり睡眠時間を確保することをお勧めします。今日の睡眠不足が明日の命を脅かす、ということはまずありませんが、慢性化すると毎日少しずつからだを弱めることになるので、ご注意を。

 

参照:

  1. Artis L (2013). “First Ever Great British Bedtime Report Launched”. Available at: http://www.sleepcouncil.org.uk/2013/03/first-ever-great-british-bedtime-report-launched/?dm_i=VOQ,3B3UB,63LC91,BU90U,1 (Accessed: 07/05/2015)
  2. Williamson AM, Feyer A (2000). “Moderate sleep deprivation produces impairments in cognitive and motor performance equivalent to legally prescribed levels of alcohol intoxication”. Occup Environ Med 2000;57:649–655
  3. McCoy J.G, Strecker R.E (2011). “The cognitive cost of sleep lost”. Neurobiol Learn Mem. 2011 November ; 96(4): 564–582. doi:10.1016/j.nlm.2011.07.004.
  4. University of California, San Francisco (2015), “Short Sleepers Are Four Times More Likely to Catch a Cold”. Available at: http://www.newswise.com/articles/view/639144? (Accessed: 03/12/2015)
  5. Simon SL, et al (2015). “Sweet/Dessert Food Are More Appealing to Adolescents after Sleep Restriction”. PLoS ONE 10(2): e0115434. doi: 10.1371/journal.pone.0115434
  6. Nine signs of sleep deprivation – Do you get enough sleep? (2015) Available at: http://www.naturalnews.com/048696_sleep_deprivation_side_effects_impairment.html (Accessed: 18/05/2015)
  7. Lee H, et al (2015). “The Effect of Body Posture on Brain Glymphatic Transport”. The Journal of Neuroscience. 5 August 2015, 35(31): 11034-11044; doi: 10.1523/JUEUROSCI.1625-15.2015
  8. Could body posture during sleep affect how your brain clears waste? (2015). Available at: http://medicalxpress.com/news/2015-08-body-posture-affect-brain.html (Accessed: 22/09/2015)

 

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About Author

徳永 ゆり子

大阪府出身、1996年よりロンドン在住。京都で8年、ロンドンで7年間グラフィック・デザイナーとして働いたのち、2004年に補完・代替療法の世界に入る。CAM(コンプリメンタリー/オルタナティブ・メディスン)プラクティショナー。CThA、BANT正規会員。ハックニー地区にあるコンプリメンタリー・ヘルス・クリニックを拠点に、ロンドン内で活動中。好きなこと:健康的でおいしいものを作って食べること、ナチュラル・ヘルス・フード・ストアでヒット商品を探すこと。好きな色:ピンク紫(夕暮れ時の空の色とか)。好きな言葉:(実現の状態を)見る前に信じること(”You’ll see it when you believe it.” by Wayne Dyer)。

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