人生の女神様に会えるカフェ

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cafevisit


先日、日本大使館に用事があったのでGreen Parkへ行った
用事が終わった後に、私の大好きな Mayfairを散歩して
その後、いつも気になっていたけれど
入ったことのなかったcaféに行くことにした

このcaféがあるのは、Mayfairの中でも凄くヴィレッジな感じがする所
ここの歴史を知ると
そのヴィレッジな雰囲気、空気感を理解出来るような気がする

1680年に、ジェームズ2世が
家畜トレードの為のマーケットを、ここで始めたそうだ
羊や鶏、牛なんかもきっといたのだろうな…
現在の、このシックで、ロンドン1高級なエリアを
数百年前の家畜の行き合う風景と交差させて想像すると、楽しい

18世紀になると
下層階級位住居地域の高級化が始まり
18世紀の中頃
建築家のエドワードシェファードが、その開発を手がける

この地区一帯を石畳の路地にして、鴨やアヒルの池を造り
そして最上階には劇場のある二階建てのマーケットを建てたのだ

観劇目的でここを訪れる人も来るようになり
家畜マーケットだったこの場所の雰囲気は大きく変化した

時代が進み1920年になると
ここはロンドンで最もヒップな人気エリアになり
作家やーアーティストが移り住むようになった
1924年に、のちにグレタ ガルボ主演で、映画化もされた 「 The Green Hat」
著者のマイケル アレンも、この一角に暮らし、その小説を執筆した

1960年代にアメリカで活躍した mamas and papasのヴォーカル担当
キャス エリオットが’74年に死亡したのもこのエリア
続いて’78年にThe Who のドラマー、キース ムーンも
キャス エリオットと同じフラットで死亡

’80には、政治家であり作家の、ジェフリー アーチャーがこの地で
コールガール、モニカと出逢った
実は、18世紀から、この辺りは高級娼婦の町としても、有名だったらしい

…という風に、とにかく18世紀中盤から
ずっと、このヴィレッジな雰囲気は受け継がれ
ちょっと変わった人達を惹きつけていたのです

メイフェアーは、ロンドンの中で、やはり別格な場所
奥深く入るほどそこには
貴族的な、排他的なムードが漂っている

でも、その中にあって
このヴィレッジにはちょっと独特な雰囲気がある

歴史がそのキャラクターを育てたのかしら?

ソーホーやコベントガーデンの裏路に漂うような
アーティーでボヘミアンな空気を、私はこのヴィレッジに
感じるのであります

さて、今回目指していたcaféに行くと
遅いランチの人達で満員だったのです

あ〜残念!

で、どうしようかな?と、思った時向かい側に

「あれ? ちょっとイイ感じ?」と、ピピッときたカフェを発見

で、早速中に入ると…

うん?
なんだかちょっとフシギなの!

th_2015-09-18 20.11.02画廊のように、彫刻が幾つかあって、先ずそれらに目を引きつけられる
そして、ドアの目の前には、真っ赤なベルベットのシェーズロング

その他に、革張りの座り心地のあまり良さそうではない
クラシックな雰囲気のソファーや、モダンなアームチェアーがある

テーブルや椅子は、華奢でエレガントでクラシックなもので
どーんとある、大きなどっしりとしたテーブルの上には
ゴージャスなアンティックの
天使の顔つきのキャンドルスタンドが、一つ置いてある

それから窓枠には
天井から床まで、まるで舞台にでもあるような
仰々しい深いワインカラーのカーテンが掛かっている

カフェの雰囲気は
アンティーク家具と美術品の、ギャラリーのような感じであって
ここに置いてある椅子とテーブルは
カフェに来たお客のため、という感じがしない

ちょっと不思議なカフェなのです

クールでモダンで、クラシックでアート
ゴージャスでドラマチックな…
よく判らないミックスマッチ!?

なんだか とにかく不思議です

そこに家具が、意味あってか、無くてかわからないけれど
配置されている

という感じ…

ま、とにかく私は大きなテーブルの端に座って、スケッチを始めた

描いているうちに
窓枠の外の景色も重要なカフェの一部なんだな、ということに気がついた
この後急用ができた私は、コーヒーを頂いてスケッチが終わると店を出た

午後の用事を済ませて家に戻っても
頭の中に、何かが引っかかっている

あのカフェの、あの不思議感はなんなのだ?
そのことが、凄く気になってしまったのでした

 

なぜか、知りたがり屋の私はどうしてもそれを確かめたくなって
二日後にもう一度カフェを訪ねた

先日来た時とは、少し違う席に座って
じっくりと、もう一度カフェを観察した

どうみても、やっぱりこのカフェは…
なんだかバラバラだ

カフェのテーマ、というものが全然見えてこない
色々な時代の家具と彫刻と大きなランプと
壁にはモノクロのキチンと額装されたエッチング

《色々な物が、ごちゃごちゃに詰まっていて、それら全体で
一つのハーモニーを作り出している世界》という部屋は素敵です

でも、ここはそういうのとはちょっとばかし違う…
物があるようで、ガランとしている部屋

ふ〜む、これは何なのだろうか…
どうして?
どういう意味で?

どうしてカフェをこんな風に設定したのだろう???

気になる気になる…

とは、言っても…

…別にこのカフェの不思議な理由について考えることなんて
意味のない事なんだし、関係ないし…

単にオーナーの趣味、という事かもしれないし
ただ単にコンセプトの無いカフェ、という事なのかもしれない

こういうテーマのない、コンセプトのないお店なんて
山ほどあるじゃない…

でも、だが、しかし、そうは言っても…

なんでそれが今回は、こんなに気になるのだろう…?

多分、他の人はこんな事全然気にならないのだと思う…

 

丁度頼んだカプチーノが来たので
とにかく、もうそんなことを考えるのを止めることにした
そして、コーヒーを飲みながら
大きな窓の外に見える18世紀にできた街並みを
ボーッと見ていた

カフェの奥からは、美しい2人の女性スタッフの話し声が聞こえる
この2人の言葉がどこの国の言葉なのか、全然判らなかったけれど
静かに話す2人の、東ヨーロッパの国だと思われる言葉は
雲の上から聞こえてくるようで、とても耳に心地好かった…

 

カプチーノを飲み終わる頃、私はある事をふっと思いついた

あの大きな窓の向こう側、それは舞台にみえる…

いろいろな人達が、右から左からどんどん出て来て、去っていく

舞台の右から、道を急ぐ人が登場
中央には立ち止まって携帯電話を見ている人がいる
左からお喋りしながらゆっくりと歩いて右へ去るマダムが、2人
工事現場で働く労働者達が、舞台の奥の方に見える、多分休憩中
その横を走って先を急ぐ若い男性

するとその時突然、コーヒーを買いに
舞台を降りてこちらへ入ってくるアメリカ人女性が登場
舞台の向こう側からこちらをじっと覗くように見ている子供達
かわいいベイビーを乗せてバギーを押しながら
右から来て左へ歩き去るシックなドレスの若い女性は
少し悲しそうな顔をしていた
大きな花束を抱えて、何があったのか嬉しそうに歩く中年男性は
左から右へ颯爽と歩いて行った
サンドイッチを食べながら、急いで歩くビジネスマンは右から左へ
携帯電話で何やら深刻そうに話す人は、舞台の上を行ったり来たりする

 

これは、昔から続いている舞台劇なのかもしれない
演じるのは、窓の外を歩く人、窓の外で仕事する人…

今日の私はこのカフェ劇場でコーヒーを頂きながら
このクラシックな椅子に座って観劇を楽しむ観客

そんな風に思ったら、このカフェがなんだかちょっと活々して来た

《人生は舞台そのもの、人はみな役者、ただ舞台で人生を演じているだけ》

そんな風に、シェークスピア先生もおっしゃっております

 

私は、カフェに座って
街行く人々のそれぞれのエピソードを鑑賞しているような気持ちになってきた

皆んな誰でも、生きてから死ぬまでの期限限定人生を
この舞台の上で毎日演じている

泣いたり、笑ったり、怒ったり、悲しんだり
ビックリしたり、呆れたり、喜んだり、踊ったり、歌ったり
仕事をしたり、恋をしたり、子供を産んだり、病気になったり、
ワインを飲んだり蟹を食べたり…

何十年かして、その契約期限が終わると、すーっと舞台からいなくなる
そして、また新人が出てきて、舞台劇は、ずっとその後もまた続く

 

ここが、もし18世紀からこの辺りに住み着いている
舞台の女神様が、悪戯にお創りなったカフェだとしたら?

こんな風に考えると
よく判らない、と思っていたこのカフェのコンセプトが
なんとなくわかるような気もした

ブロンズの彫刻や、壁の絵や、クラシックなテーブルと椅子とランプと
大きすぎる真っ赤な長椅子に仰々しいカーテンと唐突な感じの
ゴージャスなキャンドルスタンド…

このカフェは、観客席であり舞台裏の道具小屋
そして、ここにある物は
昔から大勢の役者たちが使い続けている、舞台の小道具だ

このカフェは観客席でもあるけれど
時に舞台で演じる役者をサポートする舞台裏

役者が困った時、人生で何をするか迷った時

ここに来れば
舞台の女神様が、一杯のお茶を持って優しく迎えてくれる

昔からずっと使われてきた小道具に座って…
この真っ赤な長椅子に寝っ転がって…

大きな窓の向こう側の舞台で繰り広げられる
みんなの人生を観ながら、自分の人生と役作りを、ジックリと見つめ直す

そうしたら、忘れていた自分の役割が、何だったのかに気がつくのかも…

 

 

という事か…

勝手に悩んで勝手に想像して
そして、勝手にカフェのテーマを創った私は
あの不思議さから解放され、スッキリとしてカフェを出た

ここは、舞台
私が死ぬまで演じるところ

時々疲れたら、またカフェに座ってボーッと
窓の外の舞台を、他の役者の演技を鑑賞することにしたらいい

この不思議なカフェとの出会いは
私に又元気をくれたような気がする

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【きょうのヒント】
ロンドンの日本大使館の裏手に
このシックでボヘミアンでアーティーな裏路地ヴィレッジはある
人生に迷ったら、役作りに疲れたら
素敵なお花屋さんの近くにあって
心地良い声でお喋りしている女神様達のいらっしゃる
このふしぎなカフェへ向かうべし!

大昔から続く人間ドラマの中の
今日の自分を楽しく演じながら

ぜひお散歩ロンドンしてみてね!

【前回のこたえ】
Piccalilli Caff
Surrey Docks Farm
Rotherhithe St, London SE16 5ET
Opening hours: 10:00 – 16:00 Tue-Sun

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About Author

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東京生まれ、ロンドン在住の絵本作家。高校卒業してすぐに渡米。その後、パリ、南仏に暮らし、ロンドンへ。ロンドンでセシルコリン氏に師事、絵や陶芸などを学ぶ。1984年からイギリス人の夫と2人の子供と暮らしながら東京で20年以上イラストレーターとして活躍、その間、「レイジーメイドの不思議な世界」(中経出版)の他、「ある日」「ダダ」「パパのたんじょうび」(架空社)といった絵本を出版。再渡英後はエジンバラに在住後、ロンドンへ。本の表紙、ジャムのラベル、広告、お店の看板絵なども手がけている。現在はロンドンのアトリエに籠って静かに絵を描いたりお話を創る毎日。生み出した代表的なキャラに、レイジーメード、ダイルクロコダイル氏などがいる。あぶそる〜とロンドンにはロンドンのカフェ・イラスト・シリーズを連載。好きなものはお茶、散歩、空想、友達とのお喋り、読書、ワイン、料理、インテリア、自転車、スコーン、海・樹を見ること、旅行、石(特にハート型)、飛行場etc etc...

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