クリスマス ストーリー 幻のカフェ

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cafevisit


数年前のちょうどこの時期

クリスマス前の最後の週末で
街は人で溢れている土曜日の午後のこと

私は、チェルシーのとあるエリアでショッピングをしていました

その日はとても寒い日で
手荷物は増えるし
午後の間、ずっと歩いていてクタクタに疲れてしまった私は

「帰る前に、どこか素敵なカフェに寄って、紅茶を一杯頂きましょう」

と、駅前の広場のカフェに寄ることにしました

しかし、数件並んでいる表通りのお洒落なカフェは
どこも、満員で入れません

「あー、悔しいな…」

そう思ったら
疲れていたのに、なんだか意識が変わっちゃって

「絶対に、いいカフェを見つけるんだ!」

と、あっちこっち歩き始めてしまったのでした

そして、見たこともない、裏通りにある小さな路を見つけました

この辺りは私が大好きなエリアだし、お気に入りのお店もあるので
何百回というほど、来ているはずなのに…

ちょっと入ったところにある
この小路に、私はずっと気がつかないで、いたのです

そして、ここにカフェがあることも知りませんでした

そうです、私の探していたカフェは
その小路の中央あたりにありました

夕闇の小路の中で
優しい光がカフェの中から、溢れ出て
そこだけが、暖かく輝いているようでした

小さな店内は人で一杯、そして
とても楽しそうな、幸せな雰囲気に満ちていました

奥に見えたクリスマスツリーは、なんだかろうそくの光の中で
浮き上がっているようにも見えました

「あった!ここに入りたい!!!」

「でも、ダメだろうなー、ここもいっぱいだろうな…」

「だけど、とりあえず、覗いてみましょう…」

そんなことを思って、ドアを開けて中に入ると

コーヒーのよい香りとホッとするクリスマスの香りがしました

中は人でいっぱい
だけど、よく見ると、一番奥に、ポツンと一つだけ空いている席が
私を待っていてくれました

狭いところで、コートを脱いで、沢山の荷物を置いて座ると

私は、今時珍しいオーソドックスな制服を着た給仕さんに
クリスマスのお菓子、ミンツパイとダージリンティーを頼みました

やっと、落ち着ける場所を見つけて
ホッとした私は、いつものように
店内の観察を始めました

「懐かしい…」

その言葉がまたここでも、私の心に浮かびました

この懐かしい気持ちとは?

それは私の子供時代の想い出、想像の世界を垣間見た時に
感じる気持ちです

当時作り上げていた、幻想だった憧れの外国を
私は、ロンドンで時々発見することがあるのです

そして、その時に、感じるのが

「懐かしい…」

とい言葉

そう、このカフェには
子供時代に創りあげていた、幻想の世界があったのです

*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *

店内に漂うクラシックな雰囲気は
私の大好きだった、お話
ピーターパンの一場面に出てきそうです

クリスマスツリーには、とても古そうなオーナメントが沢山
ぶら下がっています
多分、オーナーのお祖母様から譲り受けたものなのでしょう

ツリーの下には、常連さんからのプレゼントが沢山!

そしてここに集うお客様たちには、この土地柄が現れていて

ジャケットをきちんと着て、首にはタイの代わりにスカーフをしている
ジェントルマンや、美しくシックに決めたマダムたち
そして、彼らが連れてきている子供達もが、きちんとした服装で
美味しそうに、ケーキをほうばっています

みんな、クリスマスの買い物がやっと全部終わって
ホッとしている様子です

多分、明日の午前中には
沢山のプレゼントをバッグに詰め込んで
早めに田舎へ行くのでしょう

そして、家族全員揃って田舎の屋敷でクリスマスを過ごします…

th_Christmas

*********    *********    *********

またいつものように、みんなの楽しそうにしている様子を見ていたら
いつの間にか、想像の世界に入ってしまいました

香りの良いダージリンティーと、滅多に出会うことのない
本当に美味しいミンツパイを頂いて、お勘定を済ませた私は

「ライオンみたいだね」

と、ときどき言われてしまうムートンのロングコートを着て
増えてしまったショッピングバッグを持って
暖かくて、幸せいっぱいのカフェのドアを開けました

外に出ると、冷たい風が頬に突き刺さり、そしてどこからか
蒔きが燃える匂いが鼻腔に入り

「あぁー、クリスマス…」

と、呟いてしまいました

ロンドンでは、【良き古き時代】を彷彿させる世界を
パブでたまに見つけることができるけれど、こんなカフェには
滅多に出会えることがない

「このカフェの発見は、私のクリスマスプレゼント!」

「また、絶対にこのカフェに来よう、今度は友達と一緒に来てみよう」

こんなことを、思いながら
私は心も身も温まり、足取り軽く駅へ向かいました

あれから、チェルシーのあの界隈に幾度となく戻っているのだけれど
ちょっと外れたあの小路に、中々足を伸ばすチャンスがなく
ずるずると、時が過ぎてしまいました

そして、今年のクリスマス、私は

「絶対にあのカフェに行って
スケッチして、あぶそるーとにアップしよう!」

そう思って、先日スケッチブックを抱えて、意気込んで
カフェに行きました

「あら?この路だったわよね?」

「あれ?」

なんということでしょう、あの私の見つけた
私のクリスマスプレゼントだったカフェがありませんでした

そこにあるのは、とても明るくてカラフルな、新しいカフェ

「あー、もっと早く来ておけば良かった!」
「なんで、来なかったのだろう…」

悔しい悔しい、と思いながら私は
そのカフェには入らないで、表通りに並んでいる
おしゃれなカフェの一つに、入って気を休めることに…

クリスマス時期のロンドンには、どうもマジカルなパワーがあるような気がします

もう真っ暗な夕方の時間
イルミネーションの光の中を歩いていると
あちこちから、クリスマスキャロルが聴こえてきます

そんな時、私はふっと
19世紀にでもタイムトリップしてしまったように感じることがあります

あの日、このカフェを見つけた時も
私はもしかしたら、疲れてしまった時に
ある境界線を超えてしまい

一時、タイムトリップして
昔々のカフェに飛んで行ってしまったのかもしれません

もしかしたら、あれは幻想のカフェだったのかもしれない

そうなのか、そうだったのね…

私だけの幻のカフェとして
ずっと心に残っていくのだと思うと

2度と、もう行くことが出来なくなり
さっきまであんなに、悔しく思った気持ちが消えて

クリスマスのマジカルなストーリーを
見つけたような気がしました

そして、私の心の中には
あのカフェで感じた

幸せで暖かくて楽しいクリスマスが広がっていきました

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【今日のヒント】
今回のヒントは

チェルシー、裏の小路

そう、これだけです

実はね、今回のカフェ
今思うと、あれが本当に実在していたかどうか
よくわからなくなってしまったの

もしかしたら、本当にあれは幻のカフェだったのかも…

そう思ったらね、色々納得することができました

そこに集う人々の様子に加えて
あの忘れられない、おばあちゃまの味のような
絶品ミンツパイとか、最高級の香り豊かなダージリンティーとか

あれは幻想の世界に私が入ってしまって
私が創り上げた世界だったのかもしれない
一時の夢の物語…

やっぱり、クリスマスの時期のロンドンは
何かマジカルなエネルギーが渦巻いている

貴方も是非、幻のクリスマスプレゼントを
ロンドンの裏路地で探してみてね

きっと、探し回って、足がクタクタに疲れた時に
ふっと、目の前にそれが現れるから

【前回のこたえ】
Candid Café
3 Torrens Street
, London EC1V 1NQ
Opening hours: Mon-Sat 12.00-22.00, Sun 12.00-17.00

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About Author

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東京生まれ、ロンドン在住の絵本作家。高校卒業してすぐに渡米。その後、パリ、南仏に暮らし、ロンドンへ。ロンドンでセシルコリン氏に師事、絵や陶芸などを学ぶ。1984年からイギリス人の夫と2人の子供と暮らしながら東京で20年以上イラストレーターとして活躍、その間、「レイジーメイドの不思議な世界」(中経出版)の他、「ある日」「ダダ」「パパのたんじょうび」(架空社)といった絵本を出版。再渡英後はエジンバラに在住後、ロンドンへ。本の表紙、ジャムのラベル、広告、お店の看板絵なども手がけている。現在はロンドンのアトリエに籠って静かに絵を描いたりお話を創る毎日。生み出した代表的なキャラに、レイジーメード、ダイルクロコダイル氏などがいる。あぶそる〜とロンドンにはロンドンのカフェ・イラスト・シリーズを連載。好きなものはお茶、散歩、空想、友達とのお喋り、読書、ワイン、料理、インテリア、自転車、スコーン、海・樹を見ること、旅行、石(特にハート型)、飛行場etc etc...

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