リッキー・ジャヴェイス「After Life」に重ねる人生の秘密

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英国日本人会のZoom講演の締めでお話ししたのは、「結局、誰もが自分の日常の中で幸せになりたいだけ。まさに自分や家族と同じように」ということでした。

誰もが同じように歳を重ね、同じ年齢を経験します。誰一人として18歳をスキップできないし、多くの人が52歳を経験するでしょう。ということは、皆が等しく同じであるということだと、私は理解しています。人は皆、自分がいる場所で、世代を問わずできるだけ幸せになりたいと思っている。あなたと価値観が違う人も、あなたと同じように、自分なりに幸せになりたいと思っている。それは変わりません。そして、等しく幸せになる権利があります。

先日Netflixで 英国ドラマ「After Life」を観たのですが、まさにそんな思いをうまく描いてくれているなと思ったので、紹介しますね。

 

After Life / アフター・ライフ」はコメディアンのRicky Gervais / リッキー・ジャヴェイスが脚本から監督、制作までを手がけるドラマ。2019年から2022年にかけて放送され、つい先日最終シリーズとなるシリーズ3がリリースされ、一気見してしまいました^^

主人公はトニー・ジョンソン。愛妻を乳がんで亡くしたばかりで、彼女がいない世界にはもういたくないという理由で自殺したいと周囲に喚き散らしている地域新聞の記者。言いたいことを言う毒舌家だと周囲には見られているけれど、人情があり、同僚などには包容力のある気遣いを見せることができるので、シリーズ後半では面倒見が良い社内の重鎮的な役割を担っています。

個性の強いキャラ揃いで、様々な人間関係あり。ジャベイスらしい際どいブラック・ジョークを炸裂させつつ英国地方都市の日常をユーモアたっぷりに描き出していく中で、トニーの亡き愛妻との思い出が生前に撮られた動画で語られ、強い絆と愛が視聴者の涙を誘います。

トニーが勤める地域新聞では、地域住民があらゆるネタを売り込んできます。微笑ましいものや軽犯罪がらみのネタだけでなく、8割方が一人よがりのこじつけネタ。トニーは変わり者のようにも描かれるのですが、実は彼以外のキャラの方がよっぽどクセが強い。取材先での反応は、トニーが一番まともな感じがします(笑)。

ここに描かれている住人たちは、皆が自分の世界に住んでいます。だから他人との比較もあまりないし、自分が思っていることをきっちり口に出して言うドラマに仕上がっていて、個人的にはすごく気持ちいいw  互いの気持ちを隠して心理ゲームみたいなことをするお話よりも、好感がもてます。

回を追うごとにトニーは愛妻を亡くして弱っている自分を周囲が助けてくれていることに気づき、自分も大切な人を大切にしないといけないと気づき始める。もちろん彼流のやり方で。良いことをすることで、周囲がよくなることを彼は自ら信じ、それを実行していくところが素敵なのです。毒舌の中に真実の響きを忍ばせて。

このドラマの中では、ホームレスから娼婦、郵便配達員から未亡人、新聞社の富豪オーナーまで、誰もが一人ではない。へんなヤツだと遠巻きにしたりせず、相手を蔑んだり反対に自分をおとしめたりすることなく、相手の個性的なキャラを受け入れ、とてもいい調和を保っているんですよね。そこが一番印象的でした。誰もが関係性の中に身をおいているのです。言いたいことを言ってもそのキャラを受け入れてもらえ、問題を助け合うことができる相互扶助の社会です。

シリーズ3最終話の最後のシーンは少し考えさせられました。

ネタバレしちゃうと「結局トニーはこの世からいなくなっちゃうの?」と言う感じなんです。

自殺を思いとどまり、皆との関係性の中で自分を再確立していくと同時に、最終的には皆の救世主として生きることになった。でもその先に唯一あるものが、亡き妻への愛なのです。シリーズ中、ある看護師との淡い恋も描かれるものの、決して恋人同士にはならない。これはかなり示唆的。「After Life」と言うタイトルそのものの意味も考えてしまいます。結局トニーにとって、妻が亡くなった後の世界は生きながら「After Life」なのかもしれない・・・。

皆さんもお時間あれば是非ご覧になってみてください。それぞれ感想が違ってくると思います^^

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このドラマを観た後で興味が沸いたのでリッキー・ジャベイスについてちょっと調べてみました。彼、40年来一緒にいるパートナーの女性がいるんですね。彼のスタンダップを見ても、その彼女の話がよく登場します。それで確信しました。このドラマは、パートナーさんへのビッグ・ラブレターなのだと。

シリーズを通して、「神はいるか? 天国はあるか?」と言うテーマが描かれます。

主人公のトニー・ジョンソンは、演じるリッキー・ジャベイスと同様、無神論者で神はいないというのですが、脚本ではトニーと交流のある年上の女性にこう語らせています。

「実は天使はいるのよ。それはあなたの周りにいる恋人や同僚や親や子供や友達なの。そう言う人の形をしているだけ。」

つまり神は助けないが、自分の身近にいる人たちが、あなたを助けてくれると言うことです。これには同感。あなたの人生を手助けしてくれるのは神のような曖昧な存在ではなくて、あなたの周りにいる人たちだと。トニーは妻を亡くしたことで、その秘密に気づいたのです。

最終話の最終シーンは、もしかするとリッキー・ジャベイスもその先をどう描けばいいかわからなかったから、曖昧にしているのかな?などと感じてしまいました。 彼もまだ、死については考察の途上なのかもしれません。

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架空の街タンブリーはイギリスの地方都市と言う設定で、うんと郊外の街で撮影していると思いきや、ハムステッドのパーラメント・ヒルがでてきた時にハッとしました。調べてみるとロンドン外のへメル・ハムステッドで大方は撮影されたらしいですが、リッキー・ジャベイスがパートナーと一緒に住んでいるハムステッドもたくさん登場しているようです^^

そうだ、一点だけ脚本に物言い。

トニー・ジョンソンの妻、リサ・ジョンソンが乳がんで死んじゃう筋書きですが、本当に愛し愛され、生活を楽しみ幸せな人は本来はガンになったりしないので、ちょっと脚本に無理があるなと思いました。(ガンは心因性のものが多い。)

ガンになるほど何か思い詰めているか、結婚生活で何かを我慢していたか(笑)、いろんなケースがありますが・・・。描かれていないストーリーが、背後にありそうですよ^^

 

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岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系制作会社にて数多くの日本語プロジェクトに関わった後、2009年からフリーランス、各種媒体に寄稿中。2014年にイギリス情報サイト「あぶそる~とロンドン」を立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房) 『ロンドンでしたい100のこと』『イギリスの飾らないのに豊かな暮らし 365日』『コッツウォルズ』(自由国民社)。NHK文化センター名古屋教室「江國まゆのイギリス便り」講師。MUSIC BIRDのラジオ番組「ガウラジ」に月一でゲスト出演。チャネリングをベースとしたヒーラー「エウリーナ」としても活動中(保江邦夫氏との共著『シリウス宇宙連合アシュター司令官 vs.保江邦夫緊急指令対談』もある)。Instagram: @ekumayu

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