ロンドンはなぜ今「Omakase」なのか?

0


ロンドンのレストラン業界には今、空前の「Omakase」ブームが巻き起こっている。日本人にはおなじみ、寿司の「おまかせ」のことだ。

コースはたいていOmakase experience(おまかせ体験)と呼ばれ、腕に覚えのある数々の日本食レストランが現在、しのぎを削っている。例えばこちらのSquareMealのページでリストアップされているよう強豪たちだ。今年3月末の記事なので、超高級店から比較的リーズナブルな店まで、おまかせ体験ができる新旧日本食レストランがある程度網羅されているので参考にされると良いだろう。

グルメな和食好きロンドナーたちが今「おまかせ」に大注目する理由はいくつかある。一つは「ライブ感あふれるカウンター席でシェフの職人技を目の当たりにする」ユニーク体験ができること。それが「旬の食材を知り尽くしたプロが創り出すクラフト」であること。そして「シェフの個性」に触れられること。

日本ならその先に「職人と客人とのつながりが生まれる」という道筋があるわけだが、ここロンドンでは、最初に挙げたポイント、すなわち「大いなる食のエンターテインメント」として好まれる側面が強い。シェフ主導のエンターテインメントなので、職人はスター的な存在となる。それほどまでに寿司を好むロンドナーは多く、また寿司の味がわかるロンドナーが増えてきているとも言えると思う。これが「おまかせブーム」の背景なのである。

そんな中、つい先日の日曜日にストーク・ニューイントンにある和食タパス・レストラン、Aunのイベントに参加してきた。「Aun Omakase Experience」と銘打った一夜限りのイベントだ。

準備万端!

純和風の美しい佇まい。Aunは食器のセンスも抜群♡

オーナー店長の馬形倫太郎さんによると、こういった本格的な食イベントを開催するのはオープンから6年で初めてとのこと。初めての限定イベントにつき、どう集客するかを考え、とりあえず最初の一歩として1枚の告知チラシを作ってお店のフロントに貼り出したところ……なんとなんと、それだけで即完売。いかに「おまかせ」への関心が高いか、おわかりいただけると思う。もちろん、Aunへの注目度の高さがその根底にあることは言わずもがなだ。

この記念すべきイベントは日本酒とのペアリングで提供され、結果的に大成功を収めた。お客さんとシェフ、スタッフが一体となって創り上げた美味しく温かい「おまかせ」イベントを、ぜひここで紹介させて欲しい。ロンドンの地域コミュニティのあるべき交流の姿も、そこに見え隠れしているから。

お客様を迎える根津シェフ。

このイベントが可能となったのは、先日も弊サイトでレビューさせていただいた通り、現料理長の根津雅玄 / Masato Nezuさんの存在がある。根津さんはご実家がお寿司屋さんであることもあり、この世界に入るべくして入った生粋の職人。その根津シェフにとっても、今回は初めてのチャレンジ。満席御礼の大人数に対して、一晩中ネタを丁寧にさばいて寿司を握り続けることになるのだから……。

根津シェフが提供する「おまかせ」体験、スタート!

まずはのっけからボリューム感のある温菜が登場♪  Aunの定番コース料理でもおなじみ、タラほほ肉のムニエルだ。ジェノベーゼ味噌ソースでいただく濃厚な一品には、少し濁りのあるフルーティーな微発泡酒、山形の出羽桜「とび六」がよく合う。酵母が生み出す自然の微炭酸はスッキリとしたドライな口当たりで、油を中和してくれるのだ。

タラのジュノベーゼ味噌ソース。

こちらで!

おまかせ料理のペアリングをしてくださったのは「ワールド酒インポート」の田阪麻徴 / Asami Tasakaさん。まさに情熱のSake伝道師♡  ロンドンはまだまだ日本酒マーケットは狭く、今ようやく正しい知識を持つ伝道師たちがあちこちで活躍し始めたばかり。今夜は彼女のペアリング技に頼り切っちゃう。

ワールド酒インポートの田阪麻微さん。

今回のおまかせでは、9カンの握りと手巻き1本をいただく構成♪  シェフが選りすぐった新鮮食材が待っていました♡

今回のおまかせでは、9カンの握りと手巻き1本をいただく構成♪  最初の3カンに合わせたのがこちらのお酒です。アルコール度12%。すっと飲めちゃう銘酒は長野の真澄「白砂(しろ)」。純米吟醸の柔らかで軽快な口当たり。

次なるコースは炙りサーモン、牡蠣のバーニャカウダ風、穴子。新潟の酒蔵から旨味の強い越乃寒梅・純米吟醸「灑(さい)」を合わせ、繊細な味わいを引き立てる。

こちらは最初のにごり酒の写真です^^

このトリオ美味しすぎる。お酒とグッドマッチ。

最後の3カンをいただく前に、カダイフで巻いたアンコウの唐揚げを。パリッと揚げて魚の旨みを閉じ込めた最高のおつまみなのだ。合わせるのは、ふたたび山形の出羽桜「泉十段」。辛口吟醸で、少し空気に触れるとまろやかな印象に。

最後の握りは、イカ、シメサバ、アワビ。もう最高! 蒸しアワビの握りを私は初めていただいたのだが、こんなに美味しいものだとはっ。これはまた食べたいなぁ。シェフの目利きと技術が光る3カンでもあった。こちらは広島の賀茂泉「朱泉」と合わせて。古酒のような強さがあり、淡い黄金色をした液体は「しいたけのような旨味」がある。ぬるめのお燗もいいね♪

うまうまトリオ♡ アワビやわらか〜い。

締めは鱒子の手巻きと厚焼き玉子、そして赤だし。五臓六腑に沁みます♡

デザートは桜に見立てた練り切り。深町陽蕗 / Hiro Fukamachiさんが真心で作り上げた和菓子です♡

そしてこの夜のベース・トーンを作り上げていたのが、我らがギタリスト、武本英之さん♡  英さんの奏でる優しく時に情熱的なギターの音色が和食としっかりとコラボし、お客さんの心を緩ませていた。こんな夜はやっぱり、アコースティックがいい。

こうして大盛況のうちにイベントの幕が閉じた。この日のお客さんたちはきっと、次のおまかせを待っている。そう思えてならない極上の日曜日の夜だった。

今回はテーブル席にお皿を運ぶ「おまかせ」だったが、いつか根津シェフのカウンター越しの「おまかせ」をいただける日を、心待ちにしている。

Aunの食イベントは、今後もまた折に触れて開催される予定だ。次回もすぐに満席になっちゃうんだろうなぁ・・・素敵な夜を、本当にありがとうございました!

Share.

About Author

アバター画像

岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系制作会社にて数多くの日本語プロジェクトに関わった後、2009年からフリーランス、各種媒体に寄稿中。2014年にイギリス情報サイト「あぶそる~とロンドン」を立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房) 『ロンドンでしたい100のこと』『イギリスの飾らないのに豊かな暮らし 365日』『コッツウォルズ』(自由国民社)。NHK文化センター名古屋教室「江國まゆのイギリス便り」講師。MUSIC BIRDのラジオ番組「ガウラジ」に月一でゲスト出演。チャネリングをベースとしたヒーラー「エウリーナ」としても活動中(保江邦夫氏との共著『シリウス宇宙連合アシュター司令官 vs.保江邦夫緊急指令対談』もある)。Instagram: @ekumayu

ウェブサイト

Leave A Reply

CAPTCHA