第10話 モノはなぜ増えるの?Part2

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Chapter1.10
モノはなぜ増えるの?Part2

前回ではモノが増える表面上の理由について触れました。今回はもう1つの大切な理由について。 それは「足りない」という気持ち。

私たちは子どもの頃から「もっといい生活、素敵なもの、便利なもの、輝かしい自分を手に入れよう」といったメッセージをテレビや広告や雑誌等を通じて日々受け取っています(詳しくは前回)。
そしてそのメッセージはその広告が売ろうとしている商品と結びついています。トレンドの服やピカピカの車、あこがれのマイホーム、インテリアとぴったりマッチする家具、可愛い&便利な雑貨、新しいゲーム機器、 新機能コスメに便利なベビー用品、効果抜群のメタボ&ダイエット用サプリメント…

これらの広告がアピールする「これを買って改善しよう、便利になろう、楽しくなろう、理想の生活を手に入れよう!」というメッセージの裏には、もう1つの言葉が秘められています。それは「あなたの生活はもっと改善できます」、つまり「今のあなたは十分に持っていません」というもの。

自分には男らしさや女らしさ、いい人らしさ、便利さ、スタイリッシュさ、若さ、知性、美しさ、体験、充実感などが足りないと感じさせ、その商品でそれを改善したいと思わせるのは広告の役割の1つ。
人のコンプレックスや向上心に働きかけるといってもいいかもしれません。
もっと一般的な言い回しで言えば「夢を売っている」ということ。

たとえば有名タレントが化粧品キャンペーンのモデルになっていて、その写真がとても素敵だったら「私もキレイになれるかな、買ってみようかな…」とちょっと心が踊るもの。

子どもがお気に入りアニメキャラのおもちゃCMを見た途端、それまでそんなものがあるって知らなかったとしても、もう欲しくてたまらない。絶対必要なものになってしまうってこと。

それが広告の役割。当たり前といえば当たり前のことなんですけどね。

それ自体は悪いことではありません。でも「広告とは本来そういうものなのだ」という認識があると世界の見え方はずいぶん変わってきます。
それに、様々なアイデアがこらされたクリエイティブな広告を見るのは楽しいもの。
実際、日本に帰国した際に広告写真やコピーなどを見てイギリスとの違いを比べるのは、オタクかもしれないけど私の楽しみの1つです。

また「足りない」という気持ちは広告から生まれるだけでなく、私たちの生活や、ときには生い立ちにまで深く関わっています。「夢のスーツケース」の回で触れた「人生何となく満たされない」感も同じこと。

愛情が足りない、お金が足りない、時間が足りない、喜びが足りない… はっきり意識している訳ではないけどどこかで感じているこの「不足感」「欠乏感」を埋めるためにモノを買い込んでしまうことってよくあります。

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イラスト Ayako Nemoto

でも、その幸せ期間(というか買い物ハイの期間)はとっても短いもの。

また、手に入れたモノは足りなかった気持ちの代用でしかないので真の「満たされ感」は得られず、また同じことを繰り返してしまいます。

そして上には上が。これはモノに限らず交友関係や行きつけのお店、ライフスタイル等も含めてです。
あれがあれば。こんなマンションに住めれば。この能力やスキルがあれば。あの人たちとお付き合いできれば。
でも、それが叶っても「その上」というのは常にあるので、いつまでたっても足りない感は続きます。格付け社会、マウンティングの世界に頭までどっぷりはまっているうちは、いつまでたっても「あと1つ」を追い求め続けるというループを逃れることができないのです。

私は専門家ではないけれど、買い物やギャンブル依存症、摂食障害などにもこの「足りないキモチ」が関わっているんじゃないかという気がしています。

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About Author

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写真家&ライター。東京で広告制作・編集と撮影の仕事を経て2003年渡英。フリーランスで活動中のアーティスト。ロンドンをベースにアーティストや作家をモデルにした絵画的なテイストを持つポートレート制作などを行う。英国をベースとしたエキシビションを開催。日常系ミニマリズム研究家。「あぶそる〜とロンドン」編集長、江國まゆ氏と共に2018年に『ロンドンでしたい100のこと(自由国民社)』(執筆&撮影)、そして2020年には『レス・イズ・モア 夢見るミニマリストでいこう。』を出版。

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