庭のキツネたち、その後。

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4月の投稿で、庭の物置小屋に住んでいた狐の親子の話をしましたが、その続きです。

お隣の奥さんの見事な働きで庭の雑草や灌木が取り払われ、隠れていた物置小屋は丸見えになりました。天気の良い日は物置小屋の壁の穴から頭を覗かせて眠りこけている小狐の姿が見えることもありました。日が落ちて薄暗くなってくると、小狐たちは庭中を走り回って遊んでおりました。小狐たちは周囲の危険には全く無頓着なのですが、お母さん狐はいつも私を見つけるとピタッと動くのをやめて険しい目で私を睨みつけていました。

草木を取り払ってから、庭は長いことそのまま放置されていました。このままではまた雑草が生い茂って元に戻るのも時間の問題かしら、と思う一方で、今のうちに小狐たちが独り立ちできるほど成長しますように、と複雑な気持ちで毎日庭を見下ろしていました。

ある日いくら数えても小狐が5匹しかいないことに気がつきました。人の出したゴミを食べて、具合が悪くても獣医に見てもらえることもなく、自分の力で生き抜いていく野生動物の狐。お母さん狐のように大人になるまで成長するのは、そしてなおも生き抜いていくのはどんなにか大変なことなのでしょう。小狐たちは体もだんだんひょろ長くなってきて、私の姿を見つけると石のように動かなくなって、母ギツネのようにじっと私を凝視するようになりました。

それからまた数週間が経った頃、わたくしは用事があったので出かけていたのですが、帰宅してみるとなんと物置小屋の壁は剥がされて、骨組みだけになっておりました。お母さん狐はもちろん小狐の姿は全く見当たりません。

以前ここの庭は、お隣に飼われている4匹の猫たちがもう一つの物置小屋の屋根に毎日のんびりと寝そべっていました。ところが狐の親子が住み着くようになってから、4匹の猫たちは庭に全く足を踏み入れなくなりました。物置小屋が解体された数日後、お隣の猫の1匹が物置小屋の立っていた場所の地面のにおいを注意深く嗅ぎ回っている姿を目にしましたが、猫たちは前のように庭に戻ってくる様子がありません。

一週間が経ちましたが、庭は野鳩数羽が時折地面をついばんでいる姿を見るだけです。花一つ咲いていない空っぽの庭を寂しい気持ちで見下ろしていると、誰かが私の部屋のドアをノックしています。

「最近狐を見るかい?」

そこに立っていたのは大家さんでした。私は大家さんは狐の親子に気がついていないだろうと決めつけていて、見つかったらすぐに狐の親子を追い出すに違いなだろうと勝手に思い込んでいたものですから、一瞬口ごもってしまいました。

「6月になったら小狐たちもずいぶん育つだろうと思ってね、物置小屋を壊すのを取り止めていたんだ」

大家さんは、自分たちの猫を心配したお隣の奥さんから狐の親子を撮ったビデオを見せられていて、きっと早く狐の親子を追い出すようにと言われていたのではないでしょうか。ところが大家さんはすぐに追い出すどころか、小狐が乳離れをするまでの間、庭の片付けを中断して充分に成長するまで待っていたのでした。狐のお母さんは、なんと物置小屋の床を掘ってトンネルを作り地中深くに巣を作っていたのだそうです。狐たちは物置小屋を壊している最中に、死に物狂いでどこかに逃げ去ったそうです。

「小狐は7匹いたみたいだね」とおっしゃるので、いいえ最初は10匹で最後は5匹になりました。ビデオをご覧になりますか? と申し上げたら大変驚かれて、是非ご覧になりたいとおっしゃいます。わたくしは「ここに巣を作ってよかったんだね」と狐のお母さんに心の中でつぶやきました。

家に閉じこもりのロックダウンだったからこそ見ることのできた出来事です。わたくしにとってはかけがえのない思い出になることでしょう。

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洋画とグラフィックデザインを専攻したのち、イラストの道へ。縁あって英高級紙「The Times」の挿絵イラストを担当。同紙から数多くの依頼を受け、新聞のタイトル欄にエリザベス女王と並んでイラストが印刷される。児童福祉に関わる団体をはじめ、クライアント・ベースの仕事をするフリーランスのイラストレーター。4年に渡ってロンドン動物園で週に一度ボランティア活動にいそしんだ経験があり、動物イラストは本物からのインスピレーション。

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