落ちてなお美しき

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ロンドンには椿(Camellia)がとても多いです。

葉が盛大に生い茂り、景気良く花が咲き乱れるので、フロントガーデンに植えておられる方がとても多いです。フロントガーデンに植えられた、美しく咲き乱れる花は散歩中に目を楽しませてくれるのですが、私にとっては日本の椿とこちらの椿はなんだか様相が違って見えます。

竹宮恵子の「変奏曲」をご存知でしょうか。

私はホルバート・メチェック氏が住んでいた「椿荘(カメリア館)」が強く印象に残っていて、「カメリア」と聞くと派手に開花した大ぶりの花を思い浮かべます。

そして「椿」と聞くと「椿山荘」という言葉が即座に連想されて、和風の様相をした奥ゆかしい花が思い浮かぶのです。

椿の花は盛りを過ぎると丸ごとボトッと木からもげ落ちます。和の椿は憂いを残して儚く落下し、イギリスのカメリアは陽気にドバッと咲き乱れて、半笑いを浮かべたまま落花するというイメージがあります。

椿の花粉は花の真ん中に密集しています。椿は鳥が受粉をするのですが、花粉のついている正面から鳥がくちばしを突っ込んで、花びらの隙間から蜜を吸えないようにくっついているのだそうです。なので花びらが一枚ずつチューリップのようには落ちず、丸ごと落花するのです。

椿は日本原産の花なのですが、全部で30,000の品種があるのだそうで、それだけの数があれば、日本の椿とこちらのカメリアの違いの差にも不思議はないのでしょうが、やはりそれぞれの国に住む人の好みの違いもあるのでしょう。

今年は去年と比べると、まだセータを着ていても心地よいくらい冷え込む毎日が続いています。しかし、ロックダウンが緩くなったとロンドンをはしゃいで歩いている若者たちは、ヘソを出したりすね毛を出したりして闊歩しています。時計は既に夏時間ですから、寒くたって彼らにとっては夏なんでしょう。

「何年こちらに住んでも、私は日本の椿」なんてつぶやきながら、日がほとんど暮れて刺すように冷たく感じる夜気の中をショールをぐるぐる巻きつけて帰宅しました。

あっ、美しく咲き誇っている椿じゃないですよ。
ボトッと落ちて茶色くゴワゴワしかかっているやつです。

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洋画とグラフィックデザインを専攻したのち、イラストの道へ。縁あって英高級紙「The Times」の挿絵イラストを担当。同紙から数多くの依頼を受け、新聞のタイトル欄にエリザベス女王と並んでイラストが印刷される。児童福祉に関わる団体をはじめ、クライアント・ベースの仕事をするフリーランスのイラストレーター。4年に渡ってロンドン動物園で週に一度ボランティア活動にいそしんだ経験があり、動物イラストは本物からのインスピレーション。

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