038 | 重荷のゆくえ #1 ストレスの良し悪し?

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その後、積極的に「ミー・タイム」を取り入れて、気分も体調もいい状態を保っていますか? 前号に続き、今号もストレス関連のトピックです。ストレスは、受け止め方次第で、ありとあらゆるところに存在するもの。自分に合う有効な対策法をツールボックスにいくつか揃え、それらを使いこなしましょう。より健康でしあわせな人生に導くはず。

自然に逆らうことに対するツケ

技術の発展などとともに、いろんなことが便利になっている反面、わたしたちの生活は、年々自然とシンクロすることから離れる方向に進んでいます。自然に逆らって生きることを選び、新しい環境への適応を待たずにテクノロジーが進んでいること自体、心理的ストレスよりも何よりも、わたしたちが背負うことを強いられている最大級のストレスなのでは、と思います。

日没後でも電気が煌々と部屋を照らし(光が脳を活性化)、世界中のニュースが即座に入手でき(プロセス仕切れない情報との接触)、地球の反対側からやってくるシーズン外れな野菜や果物を食べ(バナナの育たないイギリスで、真冬にバナナを毎日のように食べるなど)、 徒歩10分で行けるスーパーに車で買い物に行き(運動不足に加え、排気ガスによる汚染)…。連ね始めるときりがありません。どれもこれも、便利ですよね。これらの「普通」に思えることが、体内時計や代謝機能を狂わせるなど、小さな負担となってのしかかります。同時に、排気ガスや工業廃棄物による大気汚染や、Wifiなどの電磁界や非電離放射線による目に見えない汚染など、わたしたちは毎日一定量の環境によるストレスにさらされています。これらの上に、心理的なストレスが上乗せとなるわけですが、先人達とは違い、ベースラインが決してゼロ付近ではないことを念頭に置くべきでしょう。

ストレスの種類と、反応を司る神経系

ストレス反応は、交感神経優位のもとに働く機能。自律神経には交感神経と副交感神経があり、相反する両者が必要に応じて入れ替わり機能します。例えば、大気汚染なら、空気中の薬品や重金属の吸引が炎症を促せば、体は炎症モードに入り、ストレス反応を起こします。心理的なストレスの場合、脳が目の前にある状況をストレスだと判断すれば、副腎にストレス・ホルモンを分泌するよう指令を出し、体内の環境が変化します。このメカニズムは、基本的に非常時用(=通常モードではない)の機能であるため、継続するとからだへの負担となり、病気のプロセスを加速する原因にもなります(1)。ちなみにわたしの理解では、デフォルト状態に相当するのが副交感神経。

心の平穏は大切

心理的ストレスにもいろいろと種類があるようで、その内容と影響についても各種の研究がなされています。ストレスとアロスタティック・ロードに関する長年の研究で知られる、ブルース・マッキューエン(Bruce McEwen)博士の取りまとめによると、「良いストレス(健全)」「耐えうるストレス」「悪いストレス(有害) 」と、3つのカテゴリーに分類されるようです (2):

◎良いストレス(健全)
仕事の面接や大きな会場での演説など、自分がやりたと思うことへのチャレンジが例に挙げられ、成功を収めた際には達成感が得られるもの。交感神経優位でからだは緊張状態となり、心拍が早くなったり冷や汗をかいたりもしますが、ストレス反応はチャレンジ時のみに起き、終了後は元に戻ります。

◎耐えうるストレス
例えば、何か悪いことが起きた場合に当てはまるもので、職を失うことや愛する人との別離などがこのカテゴリーに入ります。この状況下では、ストレス反応のスイッチが入ったままになるか、オンとオフの繰り返しが続きます。慢性化もしくは長期で連続した場合には、循環器系/免疫系/代謝の機能制御がきかなくなり、健康のバランスを崩し始めます。ちなみに、周りからのサポートや、個人がストレス対策のツールボックスに何を持っているかが、リカバリーを左右する決め手になるようです。

◎悪いストレス(有害)、またはストレス過剰*
状況的には「耐えうるストレス」と同じですが、このタイプは状況への適応に必要な栄養素などに加え、生活環境にサポート・システムが欠如している場合。うまく適応できないため、状況のコントロールに対する喪失感を生じます。その結果、慢性化が進み、代謝の調節不良を伴う「アロスタティック・ロード」や「アロスタティック・オーバーロード」と呼ばれる状況に陥ります(これらについては、次号で取り上げます)。時間の経過につれて、心身ともの不調が増す一方となり、リカバリーとは反対の方向へ進みます。

*ちなみに、マッキューエン博士は別の研究紙で、一般的に使われている「悪いストレス(bad stress)」という表現よりも「ストレス過剰(stressed out)」と呼ぶ方が慢性的で思わしくない状況に忠実なため、個人的には後者を取りたいとコメントしていました(3)。心理的ストレスには、受け止め方で良くも悪くも変化する幅がかなりあるので、彼のコメントには納得です。

ミトコンドリアとの関係

「生きている人」と生命体の宿らない「体」を分ける基準は、ミトコンドリアの機能により、エネルギーが体に流れているかどうかということ(4)。毎日休むことなくエネルギーを供給し、細胞内の機能や代謝に勤めているのです。ミトコンドリアは各細胞内に存在し、体の一部とみなされていますが(ヒトの遺伝子ではなく)唯一独自の遺伝子(mtDNA)を持っているユニークな存在。(わたしの頭には、細胞自体が小宇宙のようなもので、ミトコンドリアはそこに住む生き物的なイメージがあります。)

最近の研究では、このミトコンドリアがストレス反応の鍵を握るものの一つとしても、明らかになってきているようです。例えば、ストレスによるミドコンドリアへのダメージは、組織別に特有の形で機能低下を起こすなど。具体的には、心理的ストレスや感情が脳のミトコンドリアに影響した場合、神経の病気や記憶低下に促進し、肝臓や心臓のミトコンドリアの場合には、臓器の代謝不良となるかもしれないということです。(4) 細胞内にダメージを受けたミトコンドリアが増えすぎると細胞死を促し(5)、老化のプロセスが進みます(4,6)。当然ながら、どこで機能低下が起きても、細胞内のエネルギーが不足することには変わりないので、病気からのリカバリーや健康維持が難しくなります(6)。

パワー不足は全ての問題の根源となるため、病気や症状に対処する前に、ミトコンドリアの健康回復からスタートすることが、リカバリーにつながるケースも少なくありません。その間、心理的なストレス対策を取り入れることはもちろん、ライフスタイルの見直しに加え、環境によるストレスのベースラインを可能な限り下げることが理想的です。
*心理的なストレスや対策法については、015017018号をご覧ください。

次号では、今号分の内容をベースに「アロスタティック・オーバーロード(allostatic overload)」と呼ばれる状況について、取り上げる予定です。

参照:

  1. McEwen, B. (2000). ‘Allostasis and Allostatic Load: Implications for Neuropsychopharmacology’, Neuropsychopharmacology, vol.22, no.2, pp.108
  2. Picard M, McEwen B, Epel ES, Sandi C. (2018). ‘An energetic view of stress: Focus on mitochondria’, Frontiers in Neuroendocrinology, 49 (2018), pp.73. https://doi.org/10.1016/jfrne.2018.01.001
  3. McEwen, B. (2005). ‘Stressed or stressed out: What is the difference?’, Journal of Psychiatry & Neuroscience, vol.30, no.5, pp.315
  4. Picard M, McEwen B. (2018). ‘Psychological Stress and Mitochondria: A Systemic review’, Psycosom Med, vol.80, no.2 pp.141-153. doi:10.1097/PSY.0000000000545
  5. Seo AY, Joseph AM, Dutta D, Hwang JCY, Aris JP, Leeuwenburgh C. (2010). ‘New insights into the role of mitochondria in aging: mitochondrial dynamics and more’, Journal of Cell Science, vol.123, no. 15, pp.2534, doi:10.1242/jcs.070490
  6. Naviaux, R. (2019). ‘Incomplete Healing as a Cause of Aging: The Role of Mitochondria and the Cell Danger Response’, Biology, vol.8, no.27, doi:10.3390/biology802002
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About Author

徳永 ゆり子

大阪府出身、1996年よりロンドン在住。京都で8年、ロンドンで7年間グラフィック・デザイナーとして働いたのち、2004年に転職。ナチュロパス、ニュートリショナル・セラピスト、ホリスティック・プラクティショナー。CThA、BANT正規会員。ハックニー地区にあるコンプリメンタリー・ヘルス・クリニックを拠点に、ロンドン内で活動中。好きなこと:健康的でおいしいものを作って食べること、ナチュラル・ヘルス・フード・ストアでヒット商品を探すこと。好きな色:ピンク紫(夕暮れ時の空の色とか)。好きな言葉:(実現の状態を)見る前に信じること(”You’ll see it when you believe it.” by Wayne Dyer)。

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