イギリスの田舎コッツウォルズ地方では、まるで夏のような日々が続いています。梅雨のないイギリスでは、春から夏へジャンプして、いきなり暑くなることがあるのです。
アーユルヴェーダの生活習慣を実践しているので、わたしは夏でも冷たいものを避けて、ふだんはお白湯を水筒に常備してます。でも、さすがに快晴の(イギリスとしては)うだるような陽気が数週間も続くと、ちょっと冷たく、さわやかな飲みものが恋しくなります。
日本の夏の風物詩、さわやかな飲み物といえば、わたしが子供時代を過ごした昭和では、カルピスでした。今はもっと選択肢があるから、そうでも無いのでしょうか?
たいして、イギリスの夏のガーデン・パーティでの定番といえば、エルダーフラワー・コーディアル。水や炭酸水でうすめて飲むのはカルピスと同じです。
6月から7月にかけて咲く白いエルダーの花を摘んでシロップ漬けにしたものを保存食とするのが、イギリスでは昔からの伝統です。冷蔵庫のない時代に保存性を高めるために、かな〜り砂糖が入っていますが、科学的な合成保存料よりはマシだと、個人的には考えています。
昔は各家庭で手作りされていたコーディアルも、もちろん最近では商業的に普通スーパーマーケットで買うことができますので、在英の方はご存知なのではないでしょうか。
ちなみにこのエルダーの木は、花以外の各部分が食用・薬用に使われるのでエルダーのことを昔は「家庭の薬棚」と呼んだそうです。魔除けの意味もあって、教会や門前にも植えられることが多かったそうです。
たとえば、実。
夏の終わりから秋になるとエルダーベリーという紫色の実がなります。エルダーベリーは免疫機能や呼吸器を助ける効用が有名です。
有機ハーブ・ティーをイギリスで生産するパッカ・ティー(Pukka Tea)の創始者セバスチャン・ポールはアーユルヴェーダ・ハーバリストで、世界のハーブやスパイスも取り合わせて「そう来るか!」というおもしろい組み合わせのお茶をいろいろ提案しています。
こちらの「エルダーベリー&エキナセア」は、エルダーの実を、エキナセアの葉や根などとブレンドした紫の美しいハーブティー。
ヨーロッパ伝統のエルダーベリーと、おなじく免疫に効くとされる北米原産の薬草で、ネイティブ・アメリカンが伝統的に使用していたエキナセアという2つを上手く合わせたのですね。エキナセア・ティンクチュア単体だと、舌が痺れるような味なのですが、こちらは免疫機能を刺激し、風邪やインフルエンザのひき始めに集中して使うのが一般的。
エルダーベリー・シロップについては、自然療法は眉唾だと思っているうちの家族ですが、コロナ禍が始まったころ、じぶんから進んで毎日飲むようになりましたよ(笑)。これも「門前の小僧」でしょうか。
秋に実が収穫できたら、免疫を助けるエルダーベリー・シロップを今年も作ります。そちらのコラムもお楽しみに。
話を初夏に戻します。
6月になると、まるでジューンブライドのベールのように、エルダーフラワーが田舎のあちこちに咲きはじめます。小さな白い花が集まって枝の先に咲くその形は、写真のように打上げ花火のような形とでもいいましょうか。木は5〜10メートルくらいの灌木で、自然に林にも生えていますし、生け垣もよく使われます。
エルダーフラワーの香りは、ふくいくとして優しい甘酸っぱい香りです。華やかだけど控えめで、さわやか。わたしにとっては、そしてたぶん多くの英国人にとっても、心おどる初夏の香りです。
エルダー、とくに花の効用は発汗作用です。それにより、身体を冷やすので夏にはピッタリというわけなんですね。同じ理由で、風邪やインフルエンザのひき始めにも効くのです。
もっとも一般的にエルダーフラワーといえば、冒頭でご紹介したコーディアルです。
エルダーの花と酸味と砂糖で作るのが代表的ですが、今回は少しひねりを効かせて、ミント入りレシピを試してみました。
エルダーフラワーコーディアル レモンミント風味
【材料】
エルダーフラワー 10本
水 花がかぶるくらい
生のミント 2〜3茎くらい
レモン汁と皮 2個分
てんさい糖(または好みの砂糖)量は作り方を参照
【作りかた】
鍋にエルダーフラワーを入れ、かぶるくらい水を入れてゆっくり沸騰させる。
沸騰したらミントとおろしレモンの皮を入れて蓋をし、火を止めて1時間そのまま置く。
鍋にレモン汁を加えたら、エルダーフラワー液からゴミなどを取り除くために、さらしやガーゼをしいた濾し器し器で濾す。
3の分量をはかり、500mlに対して砂糖400gを入れて沸騰しないように煮溶かす。
消毒した瓶に入れて、できあがり。
保存料としてクエン酸を加えるレシピが多い中、これは砂糖が保存料がわりなので、甘めのレシピとなっています。
◆エルダーフラワー・コーディアルの楽しみかた
コーディアルは、お好みの甘さに加減して水や炭酸水で割ります。目安としては8〜10倍でしょうか。飲むとき水で割っただけでは酸味が足りないな、甘すぎるなと感じたら、水を足したりレモンを絞ったりしてお好みの味に調整してください。真夏は冷蔵庫で保存し、それ以外の季節でも、瓶を開封したら冷蔵してお早めに。未開封なら半年は保存できます。
その他の使いかたとしては、シロップ原液をそのままヨーグルトやアイスクリームにかけて楽しむこともできますよ。お手軽にスイーツを手作りしたいときにオススメ。
大人向けのカクテル3種
Elder G&T
甘くないカクテルがお好みの方に。
コーディアル20ml+ジン20mlを炭酸水で割り、レモンまたはライム汁を絞る。
English Garden
コーディアル20ml+ラム50ml+りんごジュース50ml、ライム薄切りとミントを飾る。
Bright & Sunny
コーディアル15ml+ラム60ml+ジンジャーエール好みの量で割って、ライムとミントを飾る(Belvoirフルーツ農場サイトより)。
どれも夏の食前酒によろしいと思います。
エルダーの実の効用は知っていたものの、この記事を書くために、今回改めてエルダーフラワーについて調べて「なるほど」と感じたことがあります。
それは、ただの嗜好品だと思っていたエルダーフラワー・コーディアルにも発汗作用があり、暑い時期に飲みたくなるのは、やはり理由があったこと。季節や天候と人間の身体は、たがいに影響しあっているんだなあ、と再確認しました。
毎日ほんの数分でも、ぼーっとしたり、身体の声を聴いたりする習慣を身につけると、自然と「今・ここ、この季節」に必要なものが選べるようになってきます。
「何を食べるべき?」と頭で考えるより、「どんなものが今の自分に必要?」と感じられるようになる。それが「まるごとセルフケア」の第一歩です。
さて、イギリスではどこのスーパーでも普通に買えるエルダーフラワーコーディアル。手作りするもよし、既製品を買うもよし。
イギリス初夏の味を、どうぞお試しくださいね。
追記:なんと日本にも輸入されているようです。
有機コーディアル エルダーフラワー