ディシュームはロンドンのインド料理をどう刷新したか。

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Dishoom Carnaby  ディシューム カーナビー店

先日インド・ブラッセリー「Dishoom / ディシューム」のカーナビー店に行ってきた。オープンから8年。いまだに保ち続ける独特のカリスマには心底驚かされる。実はカーナビー店のオープンをつい数年前と勘違いしていた私は、後2年で10年選手になろうかという定番店に対して無意識レベルで非礼を働いていたというわけ。今日はそのお詫びも込めて、ディシューム愛を語ってみたいと思う。

ディシュームは2010年にコベント・ガーデンで産声をあげた。植民地時代からインド料理と縁の深いイギリスでは、どこに行ってもそれなりのインド料理にありつくことができるが、ディシュームはその伝統の味とスタイルにモノ申した新コンセプトのレストランだった。言い換えると、ロンドンにおけるインド料理は、2010年創業のディシューム前、そして後に、かっきり分かれると思っている。

ノスタルジーを感じる21世紀のモダン・インディアン

 

ロンドナーたちが当時、ディシュームに飛びついた理由はいくつかあるが、まずインドのストリート・フードを元にしたカジュアルで飽きのこない新しい味をロンドンに持ち込んだこと。例えばルビー・カレーや新鮮なサラダ、新感覚チャートなどだ。またヴィーガン層にアピールすることも忘れなかった。

それからレトロ・スタイリッシュなインテリア。「古き良きボンベイ生まれのペルシャ風カフェ」をコンセプトに、バーを併設することで若いロンドナーが好む賑やかな空間を創出した。また2010年代前半に流行った「予約を取らない店」の筆頭であり、常に行列ができることでも人々の興味を引いた。

そしてお値段のお手軽感。カテゴリーとしてはまさにインディアン・ブラッセリー。高級店と安食堂の間にすっぽりと収まったのだ。このお洒落なカジュアル・インディアンに、ロンドナーたちは夢中になった。その人気は継続し、現在はロンドン市内に6店舗、エディンバラ、バーミンガム、マンチェスターなどの地方都市にも展開する小規模チェーンに成長。ディシュームの成功後、GymkhanaTandoor Chop HouseKricketなどの似たコンセプトの人気店が次々と生まれた。ディシュームの影響力をお判りいただけると思う。

カーナビー・ストリートに並行して走るキングリー・ストリート沿い。

カーナビー店が「比較的新しい店舗」だと勘違いしていた理由は、いつも外に人が溢れ出るほどに盛況だから! ちょうどOxford Circus駅を出て、Sohoの奥深くへと歩いていく道すがらにあり、店の中を覗き込むと常に人・人・人。

入り口付近のバーエリア。夕方6時頃。

今回初めて訪れてみて、その奥行きのある空間にも驚かされた。広い!カラフル!楽しい!

いくつかの部屋に分かれていて、ここは最も明るいテラス席。

インド料理屋さんに来るとなぜかアルコールよりも珍しいソフトドリンクに惹かれてしまうのだが、その点、ディシュームはよりどりみどりだ。ラッシー・メニューもユニーク。「Rose & Cardamon」「CBD Bhang」を頼んでみたのだが、これが風味豊かで爽やかで、実に好みの味だった。濃厚すぎるラッシーが苦手な皆さんには特におすすめ。

おつまみには、私がディシュームでいつも頼んでしまうオクラのフライを。このオクラ・フライのスパイスは、ついクセになってしまう^^

オクラの食べ方としてはかなり好き。

サラダとして豆と野菜をライム・ドレッシングでいただくKala Chanaを注文。これもさっぱりとしていてカレーやグリル料理のお供として最適だ。そしてディシューム名物のルビー・カレーからは、今回はインド・チーズのパニールのカレーを。まろやかでコクがあり、ハズレなしの美味しさなのだ。

カーラ・チャーナ。

パニールのルビー・マレー・ソース。

グリル料理からは、エビ! マサラ・プロウンを。大ぶりで上質のエビが香ばしく炭火グリル器の端っこで火通しされ、ジューシーに仕上がっている。マサラ・スパイスはフレッシュなイタリアン・パセリと一緒にいただくとさらに旨味がアップ。一皿に7尾程度は載っているので、前菜的にシェアするのもおすすめだ。

そして! ディシュームでは各店舗ならではのスペシャルな1品を用意しているので、それをお目当てで訪れる人もいるほどだ。カーナビー店では「Salli Boti」と呼ばれるラム肉の煮込みがそれ。柔らかいラム肉を濃厚で風味豊かなグレービーソースで煮込み、「サリ」と呼ばれるカリカリのポテトスナックをトッピング。バターを塗った「ルマリ」と呼ばれる繊細なロティを添えていただくのだが、このハーモニーは絶品。

ハーフサイズと大盛りの2種類を選べる。こちらはハーフサイズ。

インドの伝統料理で言うローガン・ジョッシュに似ているのだが、ペルシャからインドに亡命したゾロアスター教徒、パールシーたちが好んだ料理なのだとか。このレシピは、20世紀初めに登場したムンバイのペルシャ・カフェ「Britannia & Co」の人気メニューにちなんでいるのだそうだ。

こちらはバーの隣にある別のお部屋。ムーティーな感じ。

このメニュー同様、ディシュームでは各店舗に個別の創業ストーリーを持たせていることも面白い取り組み。今回訪れたカーナビー店は、1960 年代にボンベイからロンドンにやって来たイラン人が創業者という設定なのだとか。会計や法律などを勉強するために渡英した男性が、60年代のヒッピー・ムーブメントで魂が自由になり、歌やダンスの日々を送流。そこへ故国から「父逝く」の電報を受け取り帰国。その後に(おそらく父の遺産を受け取り)ロンドンに舞い戻ってSohoにムンバイ風のペルシャ・カフェをオープンするというストーリー。芸が細かいw  いかにも実在しそうな人物像であるところがミソ。

地下には職人さんがナンをはじめとしたフラットブレッドを作るカウンターも。左はチョコレート・チャイ!

デザートにチョコレートなら、このフォンダンを! クルフィも数種類あります。

ディシュームがなぜ愛されるのか。それはおそらく、創業メンバーがディシュームを愛しているからなのだと思う。

つい最近オープンしたカナリー・ワーフ店以外のロンドン支店の全てに行ったことがあるが、インテリアのセンスにはいつもいつも圧倒される。そこには上記で綴ったようなストーリーを裏付けする、完全な世界観が存在している。

このカーナビー店のためにムンバイから150 点以上のアンティーク家具や装飾品を調達し、丁寧に修復したそうだ。1960年代後半にインド人デザイナー、ジョティ・ボーミックがヒールズのために作った生地が一部の家具に使用されているほか、床のパターンにはカーナビー・ストリートが1973年に歩行者天国になった際に導入された幾何学デザインを参考にしているのだという。

すぐにでもチェーン展開できそうなシステムでありながら、少しずつ場所を決めて、しっかりコンセプトを作りながら一歩一歩進んでいる創業チームの思いは、そのまま企業精神にも繋がっている。

ディシュームは働く環境に関していうとかなりの優良企業で、アワードも受賞しているらしい。ゲスト、働く人、全員のウェルビーイングが保たれることで良い企業文化が生まれ、ビジネスも盛り上がっていく。

その根底にあるのは、「Seva」の哲学なのだそうだ。セヴァとはヒンドゥー語で「無私の奉仕」という意味。ゲストを大切にするだけでなく、チームが幸せに働けるように会社としてサポートし、結果として、最大限に能力を発揮できるようになる。チームが最高の環境で幸せに働くと、自然に実績も良くなるというわけ。まったくもって理に適っている。チャリティー活動などにも力を入れており、十分な食べ物をもらえない子ども達のために、毎年何万食という朝食を提供する活動も行っているそう。ここにもセヴァの精神がある。

ディシュームはどの時間帯に来ても楽しい。ベーコン・ナン・ロールなどのボンベイ風ブレックファストを目当てに立ち寄るもよし、カレーとロティで軽くランチ、チャイと小皿で小腹を満たすもよし。個人的には4名程度で好き放題に食べたいものを注文するのがおすすめ。きっとお腹は幸せな満腹状態となり、お財布にも優しい結果になること請け合い。

キングリー・ストリートの夜は更けていく・・・ユニオンジャック・カラー^^

この記事を書いている先から、ディシュームに行きたくなってしまった^^

22 Kingly Street, London W1B 5QP

店名Dishoom Carnaby
最寄り駅Oxford Circus
住所22 Kingly Street, London W1B 5QP
電話番号020 7420 9322
営業時間月〜木 8:00 – 23:00 金 8:00 – 24:00土 9:00 – 24:00 日9:00 – 23:00
URLhttps://www.dishoom.com/carnaby/
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岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系制作会社にて数多くの日本語プロジェクトに関わった後、2009年からフリーランス、各種媒体に寄稿中。2014年にイギリス情報サイト「あぶそる~とロンドン」を立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房) 『ロンドンでしたい100のこと』『イギリスの飾らないのに豊かな暮らし 365日』『コッツウォルズ』(自由国民社)。NHK文化センター名古屋教室「江國まゆのイギリス便り」講師。MUSIC BIRDのラジオ番組「ガウラジ」に月一でゲスト出演。チャネリングをベースとしたヒーラー「エウリーナ」としても活動中(保江邦夫氏との共著『シリウス宇宙連合アシュター司令官 vs.保江邦夫緊急指令対談』もある)。Instagram: @ekumayu

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