その後、深呼吸の時間を作って腹式呼吸をマスターしましたか? 個人の健康ツールが一つ増えたところで、 わたしたちの健康を環境という大きいスケールで見てみましょう。今号では、飲料水や食品のプラスチック容器などに使われている、BPA(ビーピーエー=ビスフェノール・エー)に焦点をあてます。多少なりともみんなが関わっているスケールの大きい問題なので、一人残らず何らかの形で取り組むべきだと思っています。簡単にできることから実行してくださいね。
プラネット・プラスチックへようこそ
1900年代初頭にプラスチック製品の大量生産が始まって以来、推測8,300万トンが生産され、そのうち3/4はゴミとして捨てられ、現在のところ毎年800万トンが海に漂う始末。その数は数え切れないものになっています。(1) この現象は、地球が「プラネット・アース」から「プラネット・プラスチック」に変化していると表現するのが適当かもしれません。とのころ、環境に入り込んだプラスチックの害を取りあげる記事やレポートが目につきます。概要と対策法などを以下にまとめました。大まかなところを把握していただければ何よりです。
地球はエストロゲン化している?
もう何年も前から、プラスチックの食品容器や缶/瓶詰食品の容器に「BPA free(ビーピーエー・フリー )」と表示されたものが出回っているのにお気づきですか? それとなくBPAフリーの方が安全といった感じでしたが、問題のグローバル化と同時に、BPAをはじめとするプラスチックの害は無視できないレベルに到達しています(2)。BPAは体内に吸収されると、ホルモン同様の反応を起こすのが、大きな問題の一つ。乳がんなどホルモン代謝に関係する病気や症状を促す、エストロゲン過剰の原因にもなります。乳がんは女性だけの問題ではなく、数は女性に比べると圧倒的に少ないものの、イギリスでは毎年約350人の男性が乳がんと診断されています(3)。ホルモン的作用以外では、免疫システムにも悪影響を与えるため、近年に見られる自己免疫疾患急増との関係(4)や、神経細胞へのダメージによる脳への悪影響、胎児の神経系発育の妨げとなることなども懸念されています(5)。
当然ながら、人間だけではなく自然界に住む動物たちも影響を受け、その他の環境汚染と合わせて健康な次世代へとつなげることが困難になるばかり。もちろんプラスチックのせいだけではありませんが、ここ数十年のうちに各種の生物が大幅に減っていることとは、切り離せない関係にあるようです。(6)
ペットボトル飲料
ミネラル・ウォーターのプラスチック・ボトルを持ち回る人が多い昨今、案外知られていないのは、ボトルから直接飲むたびに少量のBPAが体内に入るということと、ボトル内の水にも溶け込んでいるということ。
今年に発表されたレポートには、世界各地のミネラル・ウォーター商品に含まれるプラスチック微粒子の量を調べたものがあります。イギリスがサンプリングの国に入っていないので、チェックの対象となった11ブランドのうち馴染のあるものは、エヴィアンとサン・ペレグリーノの2種。この2つはその他の商品より比較的汚染度が低く、バッチによっては汚染なしもあった模様。平均して最も検出量が多かったのは、ネスレのピュア・ライフ。同レポートによると、ミネラル・ウォーターにはボトルそのものからプラスチック成分が溶け込んでいるだけではなく、その前段階で少量が混入している可能性も高いとしています。(7) ちなみに、酸性で着色料や合成の香料を使用しているソーダ類は、汚染度が高いと聞いています。
011号でも取りあげていますが、安全な飲料水には、濾過率の高いウォーター・フィルターの使用がお勧めです。キッチンだけでなくバス・ルームなど、家全体にフィルター・ウォーターをとおすのが理想的ですが、引越しの可能性がある人や予算の問題等でとりあえずのものを検討するなら、こちらが参考になると思います。
最近の動き
イギリスにはRefill(リフィル)という団体が存在し、国内ペットボトル消費量を減らそうとしています。ロンドン内のお店や企業などがリフィルの活動に参加し、今年前半には、ロンドン市とテムズ・ウォーターのサポートが加わって、リフィル・ロンドンが誕生しました。現在ロンドン内にはカフェなどを含め、水道水のリフィル・ポイントが700か所以上あります。ちなみにイギリス国内全体では、5,700か所。リフィルによると、ロンドナーが1年間に消費するペットボトル飲料の数は平均して一人あたり175本、イギリス全体では77億本なのだそう。(8) 今までペットボトルに頼っていた人が、半分の量をリフィルするだけでも、かなり減りますよね。
2〜3年前に仕事の関係で、テムズ・ウォーターの水道水について調べたことがあります。その際、フッ素が含まれていないのと水質が思ったほど悪くなかったことを確認。少し安心しましたが、水道水には水道管やテムズ・ウォーターではろ過できない処方箋のホルモン薬(主には経口避妊薬、こちらもエストロゲン)など、その他各種の問題がつきまといます。個人的には、フィルター・ウォーターをガラスかステンレスの容器に入れて持ち回るか、ガラス瓶入りの飲み物購入をお勧めします。
リフィルのアイデアは、ペットボトル汚染対策としてはすばらしいと思うので、まだ何も実行していない人は、まずガラスかステンレスのマイ・ボトルを持ち回ることからスタートしてみてはいかがでしょう?
仕事でヘルスフード・ストアの商品を毎週のようにチェックしていますが、このところの動きはプラスチック等の「使い捨て」から「代用品を洗ってまた使う」スタイルに移行しています。数か月前には、ステンレス製のストローと掃除用ブラシのセットが商品棚に登場。ロンドン内では、紙製や竹製のストローに切り替えたカフェやバーが増えてきているようです。テイク・アウェイの飲み物用に作られた再利用目的の容器なら、食器なども扱っている大きめスーパーでも購入可。ただし、これらは今のところプラスチック製のものが圧倒的に多く、BPAフリーやBPS(BPAの代用品となるもの)であってもその安全性は、今のところ怪しいもの。ちなみにテイク・アウェイ紙コップのフタ(プラスチック製)にもBPAが使われているようなので、中の飲み物はフタを外して飲む方が安全と思われます。
食品容器もプラスチック
スーパーやテイク・アウェイのお店に並ぶおかず類/サラダ・ボックスやスープなど食品の容器も、プラスチックが大多数を占めています。食品中の油脂分や酸、また熱が加わることによって、容器のプラスチックがさらに食品に溶け込みます。スクラッチから作る「ホームメイドの食べ物」が理想的ですが、容器からそのまま食べられる出来合いのものでも、可能な限り陶器やガラスの食器に移してから食べましょう。もちろん、テイク・アウェイ用のプラスチック製フォークやナイフも避けたいものです。もし、レンジ(各種の理由により、レンジの使用は避けるのが一番)やオーブンに入れるだけの食品を使用するなら、中身を陶器や耐熱性のガラス容器に移してから調理する方が安全です。
意外なところにも使われている
BPAは、感熱系のレシート用紙のコーティングにも使用されています。皮膚から即体内に吸収されるため(9)、 買い物の際にレシートの受け取りを断るか、ショッピング・バッグに買ったものと一緒に入れてもらうなどして、必要以上に触り回さないようにしてください。特に、仕事で常に感熱紙のレシートを扱う環境にいる人は、エストロゲン代謝を最良の状態に保つようお勧めします。(例えば、レシート以外で避けられるものを避けると同時に、体内環境を整えることは大いに有効です。もし便秘気味なら、使用済みエストロゲンを含む毒素が大腸から再びシステムに戻るため、改善は必須。エストロゲン代謝に必要な酵素やビタミンなどのバランスが崩れている場合も問題。また、解毒やホルモン代謝系のテストで自分の弱い部分を把握して、予防&強化対策を図ることも可能です。)
その他では、油・調味料の容器(主にはガラス容器を選びましょう)、缶の内側や瓶詰食品のフタ部分(使用は最小限に)、子どものおもちゃ、歯磨きのマイクロビーズや、化粧品の容器など。もはやプラスチックなしでは生活できないほど、いたるところに使われているのです。完璧に避けることはまず不可能ですが、現実的なレベルで対処できることはたくさんあるので、追って紹介していきますね。ということで、次号のトピックにはBPAの親戚、フタレート(Phthalate)を予定しています。
参照:
- Irwin A. (2018). Fixing planet plastic: How we’ll really solve our waste problem. New Scientist. [Online]. Available at: https://www.newscientist.com/article/mg23831780-100-fixing-pla (Accessed: 27 May 2018).
- Tyree C, Morrison D. (2018). PLUS PLASTIC – Microplactics found in global bottled water. [Online]. Available at: https://orbmedia.org/stories/plus-plastic/ (Accessed: 19 August 2018).
- Cancer Research UK. (2015). Men with high oestrogen levels could be at greater risk of breast cancer. [Online]. Available at: https://www.cancerresearchuk.org/about-us/cancer-news/press-release/2015-05-11-men-with-high-oestrogen-levels-could-be-at-greater-risk-of-breast-cancer (Accessed: 19 August 2018).
- Kharrazian D, Vojdani A. (2016). Correlation between antibodies to bisphenol A, its target enzyme protein disulfide isomerase and antibodies to neuron-specific antigens. Journal of Applied Toxicology. 2017; 37: pp.479–484 doi: 10.1002/jat.3383
- Kharrazian D. (2014). The Potential Roles of Bisphenol A (BPA) Pathogenesis in Autoimmunity. Autoimmune Diseases. Vol. 2014, Article ID 743616, http://dx.doi.org/10.1155/2014/743616
- Euling SY, Sonawane BR. (2005). A Cross-Species Mode of Action Information Assessment: A Case Study of Bisphenol A. U.S. Environmental Protection Agency Washington, DC.
- Mason SA, Welch V, Neratko J. (2018). SYNTHETIC POLYMER CONTAMINATION IN BOTTLED WATER. Fredonia Department of Geology & Environmental Sciences. State University of New York
- Refill. (2018). London Joins the Refill Movement. [Online]. Available at: https://www.refill.org.uk/london-joins-refill-movement/ (Accessed: 19 August 2018).
- Bernier MR, Vandenberg LN. (2017). Handling of thermal paper: Implications for dermal exposure to bisphenol A and its alternatives. PLoS ONE. 12(6): e0178449. https://doi.org/10.1371/ journal.pone.0178449