前号からかなりの時間が経ってしまいましたが、その後、何らかの形でプラスチック対策を実行していますか? まだの方は、できることを一つ見つけて、今日から取りかかりましょう。さて、今号ではプラスチックやビニールをソフトで柔軟なものにするフタレートというケミカルのお話です。
(注:フタレートはPhthalateと綴り、発音は/ˈθɑːleɪts/。最初の「Ph」は無音なので、歯の間に軽く舌を置いた「th」発音の「サ」(日本語にはない音なので厳しい部分)で、「サーレイトまたはサーレイツ」の方が実際の音に近いかも。日本式に「フタレート」と言っても、英人には理解されないと思います。苦笑)
フタレートは何に使われている?
フタレートにはいろいろと種類があり、分子重量の違いで大きくは2つのグループに分かれます。分子重量の高いものは、主にチューブやビニールなど柔らかめのプラスチック製品などに使われ、分子重量の低いものは、溶剤・合成香料を使用した洗剤や化粧品などに使われています。合成繊維の衣料品はもちろん、殺虫剤やプリンターのインクなどにも含まれるほか、錠剤(薬やサプリメント)のコーティングなど、思わぬところにも使われています。さらには、建築材、インテリア(合成繊維のカーペット、プラスチック製のブラインド、ビニール製の床/壁紙、合成皮革のソファー、ビニール製のシャワー・カーテンなど)、プラスチック製のパイプ、医療用品/機器など。(1,2)
体内に吸収される主なルートは、プラスチックの食品容器/ラップや製造の工程で汚染された食品と、合成の香りがついた商品全般。フタレートは脂溶性なため、食品の場合、乳製品全般をはじめ、マーガリン・調理油・肉の脂身などの高脂肪食品から、高濃度が検出されているようです(3,4)。ソフト・プラスチック製のおもちゃなど、乳幼児が口に入れるようなものや哺乳器にも使われていましたが、こどもの発育に影響することが問題となり、現在では乳幼児向けの製品に使用が禁止されているものもあります(2)。
ご覧のように、生活用品や環境のあらゆるところに溢れています。フタレートとの接触がない生活は、不可能といっても過言ではないでしょう 。
人体に与える問題
フタレートの多くは、BPAと同様に、体内でホルモンとして認識される環境ホルモン。汚染された食品の摂取・呼吸・静脈注射・皮膚からの吸収など、各種の経路で体内に入ります(2)。主には、プラスチック容器や袋などに入っている食品の摂取、フタレートを含む内装や家具がある部屋のほこり吸引、または、フタレート使用製品との接触などによって体内に入ります。大きなスケールでは、部屋の内装や香料などから屋内の空気中に漂ったフタレートが、外気に流れ出て雨水に混じれば、最終的には河川や土壌の汚染ということにもなります(=人間以外も汚染の影響を受ける)。
人体への影響は、まだ全貌が明らかではありませんが、DEHPというタイプのフタレートは、内分泌系の働きを妨げ、発がん性があるとされています。その他のタイプでは、ヒトの生殖機能や発育に影響を与えると懸念されるものもあります。(5)
環境に与える問題
ここまできて、環境へのダメージが避けることのできない構造になっていることにお気づきでしょうか。環境ホルモンの害は、もちろん人間以外にも及んでいます。プラスチックは基本的には構造を変えずに、小さな粒子となって水や土壌などの環境に混入するらしいので、自然体系のバランスを崩す引き金の一つとなっていることには間違いがなさそう。去年のある時、イヴニング・スタンダードに「河口近くでとれたカキなどが、マイクロビーズ系のプラスチックに汚染されている」という内容の記事を見つけました。「カキは好物ではないし、食べなくてもいいから大丈夫」と一瞬思ったのですが、同時にプラスチックが環境に与える規模の大きさを改めて考えさせられました。自然界の生き物は、お互いが影響しあって共存しているため、一つ崩れるとドミノ式に他にも影響を及ぼすことは避けられません。すでに小動物の雌化が進んでいるようなので、このままでいると、この地球上に暮らす生物全体の生存に関わる問題につながるのでは?
わたしたちにできること?
対策法は、単純にフタレートに汚染されていないものを選んで、汚染度の高いものを避けること。完璧に実行するのはほぼ不可能なので、身の回りの簡単なものから、一つずつ変えていくことをお勧めします。自分たちの汚染度を低くすることは、商品供給側の体制を左右する決め手となるため、環境へのダメージも少なくなる方向へと導きます。第一段階では、消費者レベルでの正しい情報収集と前向きな取り組みが必要だと思います。
食品群で最も汚染度が低いのは、オーガニックの野菜や果物など、農薬等の使用が規制されているもので、さらには加工されていないもの。逆に汚染度の高いものは、オーガニックではない動物の脂肪分とバター、クリーム、チーズなどの高脂肪乳製品(動物自体の汚染に加えて、搾乳機からミルクを通すチューブなどによる汚染)や調理油 (2) 。加工食品は、質の悪い調理油が使われている可能性が高いため、積極的に避ける必要がありそうです。油脂分の多い食品とフタレート使用の食品容器との接触も汚染の原因なので、可能な限り使用を避けたいところ。また、これらの容器等は加熱により汚染度がさらに高くなるので、食品は鍋や陶器/耐熱性ガラスの器に移して温めることをお勧めします。
洗剤や化粧品などは、合成の香料(原材料のリストに’fragrance’や’perfume’と表示されている)にはほぼ間違いなくフタレートが使われているため、フレグランス・フリーか、エッセンシャル・オイルなど天然由来の香りを使った商品を選ぶことが最善策となります。化粧品類など肌につけるものは、特に注意が必要です。
最近発表された、ネイル・ポリッシュ(マネキュア)と健康への害を調べたレポートでは、甲状腺や妊娠・出産の問題など、内分泌系への悪影響を明らかにする結果が出ています。この場合、皮膚や呼吸による吸収が主なルートで、フタレートの付着している容器やテーブルなどとの皮膚接触に加え、周りのほこりに付着することやネイル・ポリッシュそのものの揮発性も体内のフタレート値を上げる要因となっています。害のあるケミカルを使用しないネイル・ポリッシュも各種出回っていますが、この研究チームが調べた商品40点のうち数点から、フタレートやトルエン不使用の商品表示にもかかわらず、これらのケミカルが検出されています。(6)
その他では、最近よく聞く屋内の空気汚染にも関係します。例えば、ビニール製のフローリングや、プラスチック製のブラインドがある部屋での呼吸や、エア・フレッシュナーの使用なども問題(7)。可能であれば、これらを安全なものに取り替えるのが一番ですが、無理な場合にはヘパ・フィルターなど、クオリティの高い空気清浄機の購入も有効な対策法です。そうでなければ、こまめに掃除をして、フタレートの付着したほこりが最低限になるよう心がけてください。
どこに行き着くかを意識すべし
便利な世の中の、便利さに甘んじている場合ではなくなっているのが現状です。対象が何であれ、コンシャス・ショッピングを実行するよう心がけましょう。大手スーパーではWaitroseが、コーヒー・カップやプラスチック・バッグ対策などで、今のところ先頭を切ってエコ問題に取り組んでいます。007号でも提案していますが、わたしたち消費者レベルでは、ショッピングの際、購入の商品に一票投票していると思って商品を選ぶことが、大きくは世界レベルでの環境改善につながるアクションとなります。わたしの身の回りにも、変えたいものはまだまだたくさんありますが、根気よく一つずつ入れ替えているところです。他人事とは思わずに、できることから取り組んでくださいね。
参照:
- Schettl, T. (2006). Human exposure to phthalates via consumer products. International journal of andrology. vol.29 pp.134–139. doi:10.1111/j.1365-2605.2005.00567.x
- Rodgers K, Rudel R, Just A. (2014). Toxicants in Food Packaging and Household Plastics. – Chapter 2, Phthalates in Food Packaging, Consumer Products, and Indoor Environments. Molecular and Integrative Toxicology. pp.31-50. doi: 10.1007/978-1-4471-6500-2_2
- Serrano S, at al. (2014). Phthalates and Diet: a review of the food monitoring and epidemiology data. Environmental Health. 13:43
- MAFF (Ministry of Agriculture Fisheries and Food) UK. (1996). Food Surveillance Information Sheet, Number 82. Phthalates in food.
- U.S. National Library of Medicine. (2017). Phthalates: Your Environment, Your Health. Available at: http://www.toxtown.nih.gov/chemicals-and-contaminants/pthalates (Accessed: 26 August 2018).
- Young A, et al. (2018). Phthalate and Organophosphate Plasticizers in Nail Polish: Evaluation of Labels and Ingredients. Environmental Science & Technology. doi:1021/acs.est.8b04495
- Steinemann, A. (2015). Volatile emissions from common consumer products. Air Quality, Atmosphere & Health. doi:10.1007/s11869-015-0327-6