040 | ペットのいる暮らしと健康

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しばらくストレス関連の内容が続きましたが、今回はちょっと方向を変えて犬や猫のお話です。ペットによる和みパワーは、誰もが認めることだと思いますが、サイエンスの世界ではどういう位置にあるのでしょう?最新情報も含めて、ペットと健康の関係を調べてみました。

犬は仕事好き?

牧場で羊の管理を手伝うボーダー・コリーは、仕事に励んで走り回ることが生きがいなのだと思います。そのため、都会の環境に住みその知性と運動力を活かせるタスクがなくなると、ストレスがたまるようです。また、薬物や特定の人を嗅ぎつける仕事に励む犬もいますが、その優れた嗅覚に頼る癌スクリーニングなどは、注目を集め調査が進んでいる領域です(1,2,3)。もちろん、彼らは時間をかけて訓練を受け、訓練を受けたすべての犬が高確率で癌やその他の病気を嗅ぎわけるわけではありませんが(犬種による性質/向き不向きと、やる気のない犬もいるため)、興味深いと思いませんか?

一般レベルでは、オフィスのマスコット的存在で「和み大使」として飼い主と一緒に出勤する犬もちらほら。新聞などに、写真付きで紹介されている記事を見つけるだけでも、和むものです。先日、仕事で使っているラボに問い合わせの電話した際、電話の向こうで犬の声が聞こえたので、つい会話を途切らせて「あれ?オフィスに犬がいるの?」と質問。答えはもちろん「イエス」で、同僚が連れてくる犬がいるとのこと。ただ犬がそこいるだけではなく、オフィスの一員として可愛がられている様子が伺えました。犬にとっても、人のいる環境の方が、家に置き去りにされるストレスがなくていいのでは、と思いました。

猫は気まぐれ?

一般的に、犬は飼い主に忠実で、サービス精神旺盛に愛嬌を振りまき、猫は勝手気ままと思われがち。実際のところ猫はそれほど気まぐれでもないことが、先月に発表された猫とそのオーナーとのボンディング調べたリサーチでも確認されています(4)。それでふと頭に浮かんだのは、しばらくうちに滞在した友人の猫フガと、猫にまつわる実話が2016年に映画化された「“A Street Cat Named Bob”(邦題:ボブという名の猫 幸せのハイタッチ)」のボブ。飼い主のジェームズ・ボーエンによる同タイトルの本がこの映画の原作(2010年)で、映画には本物のボブが出演。ボブは猫の中でもとりわけ特殊なタイプだと思うのですが、相棒となるジェームズの肩に乗ってロンドンを移動し、街角でバスキングする彼のお供をして一躍有名に。このペアには、特別なつながりがあるようです。うちにフガが来た際、日ごとに距離感が狭まっていくのがよくわかりました。当然ながら猫も人を識別しますが、ボブにしても、フガにしても、何か特殊なセンサーのようなものが機能して、彼らから見た飼い主(または、世話をする人)との距離に相応する関係を築いているのでは?と思わされました。直球型の犬とはアプローチが異なるものの、相手を認識してボンディングを築くことには変わりない、という結論に至っています。

床でゴロゴロして、くつろぐフガ。

フガとの2か月

数年前、友達のホリデー中に彼女の猫(フガ)を1ヶ月ほど預かることが2度ありました。フガがうちに来た当初は新しい環境に困惑した様子で、しばらく本棚とその前にかけていたコートの間に隠れたまま。しばらくして慣れてくると、床の上でのびのびしながら寝転がってくつろぐようになり、そのうちに仕事から帰ってドアを開けると、走ってドアまで来るように。そして、コンピュータに向かえば、机にジャンプして画面の前に立ちはだかり、キッチンに立つと足元にすり寄ってくるようにもなりました。フガのお気に入りは、レーザー光線が出るキーホルダー。そのキーホルダーのチェーンが動いて「チャリ」と音がすれば、はりきって光の動きを追うために構えます。なんだか犬みたい…。フガは、猫の中でもどちらかというと犬みたいな性格なのかもしれません。(でも犬とは違い、猫好きの友人親子がうちに遊びに来た時には、再びコートの裏に隠れて出てきませんでした。)猫を飼っている人に言わせると普通らしいのですが、わたしにとっては新たな発見。「忠犬ハチ公」でも知られるような犬の忠誠心と、実家に犬がいたこともあって、わたしはどちらかというと犬派でしたが、心地よい適度な距離感を保つフガとの暮らしで、うちに猫がいるっていいなと思いました。フガの滞在中には、人同様に話しかけたり、一緒に遊んだりしていたので、以下に挙げる効果の各種を体験したように思います。

ペットと過ごす時間が、健康を促進

ずいぶん前に「親切はなぜいいのか」ということを議題にしたセミナーに出席したことがあります。人に親切にすればオキシトシン値だけでなく、その他のホルモンや神経の状態を整えて、人も自分もハッピーになるという内容でした。講師のデイヴィッド・ハミルトン氏が、このセミナー中に「犬と30分ほど過ごせば、オキシトシン値が上がる」と話していた記憶があります。オキシトシンは、母親と新生児のボンディングを助けるホルモンとしても知られ、心を落ち着つけ不安を和らげて、気分を良くするもの(5)。足りないと荒んだ気持ちになるので、ストレス度が比較的高い都会人には欠乏気味のホルモンかもしれません。

ペット関連の研究やデータ関連を調べてみたところ、ペットと過ごす時間はオキシトシン値を上げる(5,6)だけではなく、冠状動脈性疾患や心筋梗塞など、循環器系の問題にも有効としています(7)。また、ペットにはストレス緩和の効果もあるため、鬱やこころの病を患う人たちにとって、大きな精神的サポートとなっているようです(8)。ペットとこころの健康に関する調査に、動物各種(犬、猫、ハムスター、小鳥)のオーナーたちのインタビューも記載されているレポートを見つけました。それによると、インタビューを受けた人たちが、それぞれのペットに対して「人間よりも信頼できる」「オープンに話ができる」「辛い気分の時には、何も言わなくてもそっとそばに来てくれる」などとコメントしていました(9)。どれも、よくわかるような気がします。犬(特に中型〜大型)と暮らす場合には毎日の散歩が必須で、猫のように「勝手に外に出て、適当に戻って来る」というわけにはいきません。日頃運動をしない人には、外に出て歩く習慣がつくため、基礎体力の向上や代謝の改善にも有効です。また、運動による爽快感も得られるので、さらなる効果が期待できそう。

ペットと暮らしている人たちは、いろんな面でペットに癒されていることになるようです。彼らは「コンパニオン・アニマル」とも呼ばれ、飼い主のサポートに頼る立場にあるので、可能な限り愛情を注いで癒しパワーのお返しをしましょう。

 

参照:

  1. Junqueira H, Quinn T, Biringer R, Hussein M, Smeriglio C, Barrueto L, Finizio J, Huang XY. (2019). ‘Accuracy of Canine Scent Detection of Non–Small Cell Lung Cancer in Blood Serum’, JAm Osteopath Assoc, vol.119, no.7, pp.413-418. doi:10.7556/jaoa.2019.077
  2. Guerrero-Flores et al. (2017). ‘A non-invasive tool for detecting cervical cancer odor by trained scent dogs’, BMC Cancer, vo.17, no.79. doi: 10.1186/s12885-016-2996-4
  3. Fischer-Tenhagen C, Johnen D, Nehls I, Becker R. (2018). ‘A Proof of Concept: Are Detection Dogs a Useful Tool to Verify Potential Biomarkers for Lung Cancer?’ Front. Vet. Sci. vol.5, no.52. doi: 10.3389/fvets.2018.00052
  4. Vitale K, Behnke A, Udell M. (2019). ‘Attachment bonds between domestic cats and humans’, Current Biology, 29, R859–R865. https://doi. org/10.1016/j.cub.2019.08.036.
  5. Pickering, T. (2003). ‘Men Are From Mars, Women Are From Venus: Stress, Pets, and Oxytocin’, The Journal of Clinical Hypertention, vol4, no.1, pp.86-88
  6. Andrea Beetz A, Uvnäs-Moberg K, Julius H, Kotrschal K. (2012). ‘Psychosocial and psychophysiological effects of human-animal interactions: the possible role of oxytocin’, Frontiers in Psychology, vol.3, Article 234, doi: 10.3389/fpsyg.2012.00234
  7. Schreiner, P. (2016). ‘Emerging Cardiovascular Risk Research: Impact of Pets on Cardiovascular Risk Prevention’, Curr Cardiovasc Risk Rep. vol.10, no.2. doi:10.1007/s12170-016-0489-2
  8. Brooks H, Rushton K, Lovell K, Bee P, Walker L, Grant L, Rogers A. (2018). ‘The power of support from companion animals for people living with mental health problems: a systematic review and narrative synthesis of the evidence’, BMC Psychiatry, vol.18:, no.31, doi: 10.1186/s12888-018-1613-2
  9. Brooks H, Kelly Rushton K, Lovell K, et al. (2019). ‘‘He’s my mate you see’: a critical discourse analysis of the therapeutic role of companion animals in the social networks of people with a diagnosis of severe mental illness’, Med Humanit, vol.45, pp.326–334. doi:10.1136/medhum-2018-011633
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About Author

大阪府出身、1996年よりロンドン在住。ナチュロパス、ファンクショナル・メディスン・プラクティショナー、ニュートリショナル・セラピスト(mCMA, mBANT, CNHCreg, CFMP)。ハックニー地区にあるコンプリメンタリー・ヘルス・クリニックと並行して、オンライン・クリニックでも活動中。好きなこと:健康的でおいしいものを作って食べること、ナチュラル・ヘルス・フード・ストアでヒット商品を探すこと。好きな色:ピンク紫(夕暮れ時の空の色とか)。好きな言葉:(実現の状態を)見る前に信じること(”You’ll see it when you believe it.” by Wayne Dyer)。

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