メンズ・カーディガン革命

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7月に入ったといいうのに、ここロンドンは相変わらず冷たい風が吹いている。お日様が雲の合間から顔を出してほっとしたのも束の間、雨が降り出すという典型的なイギリスの夏。数週間前に温度計が30度となり冬物を洗濯して綺麗に片付けたものの、この寒さに負けて薄手のカーディガンを最近引っ張り出した、私。

英国ではメンズ・カーディガンはリタイアしたじいさんが着ているイメージが根深く染み付いている(いた)。英国に来た90年代始め、この事実にちょっとしたカルチャーショック。初めて日本でユニクロに行ったとき、元夫へのお土産にカシミアカーディガンを買って帰ったのだが、喜んだ様子が見えず、? そういえば、確かに日本の田舎にいた当時は学校の先生や市役所/県庁の男性職員がよく身に着けていたアイテムかな、と。

その後東京で暮らしだすと、それがそうでもない事がわかった。アイビーファッションの草分けVANを大学生や、おしゃれなサラリーマンが着こなしていた。まぁ、アメカジですね。しかしここは伝統の国、英国。アメリカの文化は、はすにかまえる感じ。そんな中でアメリカの大ヒットコメディ「Seinfeld」「Friends」や「Frasier」が80’s後半から90’sがもしかしたらこの流れを少しずつ変えて行ったのではないかと私は睨んでいる。

遡るところ2019年、NirvanaのリードボーカルKurt Cobainが ‘MTV Unplugged’ で着用していた鼠色のモヘアのカーディガンがオークションで$334,000(4千500万円ほど2023年現在)で落札された。史上最高額のニットウエアということだ。

 

近いところではNetflixドラマ「Beef」の中で、George役のJoseph Leeは花柄やアンゴラ素材のソフトなイメージのチャンキーなニットウエアを着ている。昨今のメンズファッションの流れとして、この、ソフトなイメージというのがキーワードになっているように見えるよねぇ。

その他ではメンズの真珠のジュエリーもちらほら見るしさ。多くの人たちは、真珠って女性がつけるものというイメージがあるよね。日本は冠婚葬祭、ここ英国では以前は、ミドルクラスの叔母さんがつけているイメージ(亡エリザベス女王もプライベートな写真とかではよく見かけた)だったけど。でも、歴史的には16世紀キング・チャールズ1世の肖像画には、片耳だけ大粒の真珠のイアリングをしているし、18世紀に入って、インドのマハラジャがジャラジャラ身に纏っているじゃないか。そう、真珠は富と権力の象徴だったのだよ。

なんでも、アストロジーの世界では木星と土星の位置関係で社会の流れがガラリと変わっていくらしいわ。事実、昭和世代の私。今は十代の私が想像もしなかった未来になっているよなあぁ。(1999年でこの世の終わりが来るとノストラダムスの大予言が大層話題になったしさ)

このようにファッション一つを取ってみても、あらゆる物/事の境界線が薄らいでいる実感があるよね。ピンストライプ・スーツからモヘア・カーディガンへ。ポリティカルからコミュニティへ。

‘Kate effect’ (英国王室、キャサリン后妃の地味だけど確実に人の心を鷲掴みにしちゃう影響力)という言葉がある。義理の妹メガン公爵夫人と、とても対照的な立ち位置。多分人によっては、パッシブ・アグレッシブ(直接、不満や怒り、攻撃性を相手に示すのではなく、表面的にはやわらかい物腰で、暗に怒りや抵抗を表現して相手を攻撃すること)と、取られる可能性もあるけどね。

世の中は確実に ‘SOFT POWER’ の方に軍配が上がっているようだ。だから「上手く立ち回れ」と私が言っているなんて、ゆめゆめ思うなかれ!

いつも心に太陽を!
温かくってモヘアのカーディガンみたいにふわっと、人を包み込むようなやさしい気持ちで日々を過ごしたい!
忘れんなよぅ、自分!
今日も混みっこみのバスに乗り、仕事へ向かうのだ。

アディオス!

 

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鳥取県出身。芸術家、通訳者。日本、米国、ジャマイカ生活を経てロンドン暮らし、ほぼ30年。国内外で旅行、広告会社勤務の後、ロンドンで子育てをしながらアートの学士と修士号を取得。芸術活動、通訳、講師の傍、大学院でネパール行きの奨学金を賞与されたのをきっかけに、社会的企業「Studio23」を2008年に立ち上げ、ネパール山岳地帯の伝統テキスタイルの持続と環境保護の活動をしている。ここ5〜6年はチベット仏教と瞑想を通して、身体で感じる世界を模索中。

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