【新連載】鉄子の始まり。鉄道に癒されて

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初めまして。アーティストの赤川薫です。ここではちょっとアートは封印致しまして、私の「鉄子」(女性の鉄道ファン)としての連載にどうぞお付き合いください。

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鉄子になる予定は全くなかった。鉄道ファンだった甥っ子(当時3歳)に欧州の電車の写真でも送ってあげようかなと何気なく撮ったのが私の最初の鉄道写真だ。直前にデジタル一眼レフを衝動買いしたにもかかわらず、特に撮りたい被写体がなかったのも一因だったかも知れない。たまたま訪れていたスロヴァキアの首都ブラチスラバの街角に繰り出し、予備知識もないまま路面電車を試しに撮ってみた。

ブラチスラバ(スロバキア)の路面電車

思えば、それはタトラ社製の古い路面電車だった。それまで路面電車をじっくり観察してみたことがなかったが、石畳の交差点の角からタトラの車体が丸い顔をひょっこり出した途端にその可愛らしい表情に恋をした。憎いタトラは、もたついている私を尻目にムカデのようにうねうねとお尻を振りスキール音を立てながらあっという間に視界から消えていった。その間、私は、無心にシャッターを切り続けていた。

ピンクの塗装がますます可愛いタトラ社製の路面電車

正直に言うと、当時の私は病んでいた。これは本業のアーティストの方でもオープンにしていることなので、ここでも赤裸々に記すと、当時、私は自然妊娠と流産を繰り返していて、ショックで筆が握れず、友人に会う気力もなく空白の時間を過ごしていた。

そこへやってきたのがブラチスラバの路面電車だったのだ。すれ違う電車に翻弄され、右往左往しているうちに流産のことも、意見の相違に悩んでいた夫のことも、価値観の押し付けに反発していた両親のことも忘れて、ただただ鉄道の写真を撮っていた。電車が通り過ぎるまでのたった数十秒の無心の時間が孤独と喪失感にむしばまれていた私を救ってくれたのだ。

気が付けば夕方まで撮っていた

それから10年。すっかり鉄子になってしまった。

今、何かに悩み苦しい時を過ごしている人がいたら、携帯電話で良いので試しに最寄り駅で鉄道の写真を撮ってみて欲しい。人が住む場所には距離と頻度の差こそあれ、鉄道が走っていることが多い。鉄道が頻繁に通る場所では忙殺され、鉄道の本数が少ないところでは今か今かと待つワクワクに時を忘れる。余談だが、この時に撮った写真の大半は甥っ子に「パンタグラフが写ってない」と一蹴された。今回掲載した写真は、パンタグラフに厳しい甥っ子に及第点をもらった当時の数少ない生き残りだ。

幸いにも、その後、超絶高齢出産で子鉄(子供の鉄道ファン)に恵まれた。ヨチヨチ歩きの子鉄が「きかんしゃトーマス」にはまったのをきっかけに路面電車だけでなく蒸気機関車へと被写体を広げた、、、というお話は是非またの機会に。

 

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About Author

アーティスト&鉄道ジャーナリスト。アーティストとして米・CNN、英・The Guardian、独・Deutsche Welle、英・BBC Radioなどで掲載されました | 鉄道ジャーナリストとしては日本の『旅と鉄道』『乗りものニュース』や英国の雑誌『Heritage Railway』に執筆しています。
公式インスタグラム:@kaoru_akagawa
鉄道インスタグラム:@kaoru_akagawa_railwayslways

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