マラード:世界で一番速い蒸気機関車は「ドラえもんブルー」

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こんにちは。今日も鉄道に癒されてます、アーティストの赤川薫です。

私事ですが、この度、「第4回 タムロン鉄道風景Instagramコンテスト 2022」に応募総数約9000点の中から20点の入選作品に滑り込むことができました。今年の5月に子鉄が夜8時には寝てくれるようになり、夜が自由になった喜びから衝動的に始めた鉄子インスタグラムのおかげで「あぶそる~とロンドン」で鉄道の連載をさせて頂くことになり、コンテストに入選できたので、大変嬉しい次第です。今後ともお引き立てのほどお願い申し上げます。

さて、繰り返す流産の心の穴を鉄道写真で埋めるうちにすっかり鉄子になり、その後、奇跡的に授かった子鉄の影響で蒸気機関車にハマってしまった・・・というのが前回までのお話でしたが、今回は蒸気機関車の世界最高速度記録のお話です。夜な夜な鉄道図鑑で眺めていたその蒸気機関車は、実際に会いに行ってみたら、想像していたロイヤルブルーではなく「ドラえもんブルー」でした。それでテンションがさらに上がってしまう、ドラえもん世代のアラフィフ・ママ鉄のお話に今日もお付き合いください。

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夢の速さを体現した輝かしい経歴に似つかわしい「ドラえもんブルー」
国立ヨーク鉄道博物館、LNER A4形の4468号機マラード(Mallard)

シュッシュッポッポという擬音語からして遅いイメージを抱きがちだが、実際には蒸気機関車はかなり速い。世界最高速度の記録は驚きの時速203km(*1)なのだ(時速201kmしか出ていなかったという説もある(*2)が、いずれにしても時速200km越えは確実)。第二次世界大戦前の1938年7月3日にその偉業を達成(*3)したのは、英国の伝説の機関車設計士、サー・ハーバート・ナイジェル・グレズリー(Sir Herbert Nigel Gresley, 1876–1941)が設計したLNER A4 形4468号機マラード(Mallard)。一般的な蒸気機関車のイメージとは一線を画す、しなやかな流線形の蒸気機関車だ。

ほぼ30年後の1964年10月1日、新幹線ひかりが開業した際の最高速度が210kmだった(*4)ことを考えると、マラードの速さが際立つ。

国立ヨーク鉄道博物館でマラードと同じホールに展示されている新幹線0系

ただ、新幹線の名誉のために付け加えておくと、マラードは記録達成時にあまりの熱で部品(中央シリンダー連結棒のビッグエンドのベアリングメタル)が溶けた(*5)。さらに、新幹線は開業前のテスト走行で最高時速256kmの記録を残しているが、全長42キロしかない試験用区間での運行だったため、それ以上の加速ができなかったそうだ(*6)。マラードのようにパーツが溶けるまで頑張った時の新幹線ひかりの記録がどこまで伸びたのか、今となっては夢物語だが気になるところだ。

前回の連載で現代の英国の蒸気機関車への情熱は「鉄道発祥の地の威信」と「世界最高速度記録を保持しているプライド」に支えられていると書いたが、なぜ、そのような高速蒸気機関車が開発されたのか。

1920年代初頭から(*7) 1930年代末までアメリカ、ドイツ、そしてイギリスが蒸気機関車のスピード競争で火花を散らした(*8)ことに関してはまたいつか書きたいが、その国際競争の背景には自動車や飛行機の普及で旅行客の鉄道離れが起こり、主要都市を結ぶ高速鉄道の整備が急務だった(*9)という事情もあるらしい。この件に関しても、いずれまた書きたい。

LNER A4形のポスター © The Board of Trustees of the Science Museum

最終的に世界最高速度記録をたたき出したマラードを含むA4形の蒸気機関車はもともと、イギリス王ジョージ5世(在位1910–1936)の戴冠25周年を記念して、ロンドンとイングランド北東部ニューキャッスル間(約500km)を4時間(*10)で運行するために開発された (*11)。ちなみに、しつこいようだが、1964年に新幹線ひかりが開業した際の東京 – 新大阪間(約500km)の運行時間も4時間だ(*12)。

ニューキャッスルと言えば、私、鉄子にとっては、鉄道図鑑の冒頭に必ずと言ってよいほど大きく載っている、蒸気機関車の創成期を代表するロケット号が開発された街を意味する。

国立ヨーク鉄道博物館で展示されるロケット号のレプリカ

特に英国の鉄道図鑑では旅客鉄道史におけるエポックメイキングな蒸気機関車として紹介されている(*13) (*14) (*15)。ニューキャッスル市議会のホームページはロケット号を開発した製作所があったことを理由に「鉄道発祥の地(Where Railways were Born)」とうたう(*16)。「イギリスが誇る大都市ロンドンと鉄道発祥の地、ニューキャッスルをジョージ5世の戴冠25周年記念にあわせて高速蒸気機関車で結ぶ」、さぞかし盛大なプロジェクトだっただろう。1964年の東京オリンピック直前に開業した「夢の超特急」新幹線(*17)が国の威信をかけた大事業だったのに事情が似ているように思う。もちろん、アラフィフ・ママ鉄が子鉄に鉄道図鑑を読み聞かせながら勝手に妄想した説なので、お手柔らかに願いたい。

いずれにしても、イングランド北部ヨークの国立鉄道博物館に所蔵されているその姿を見れば、マラードが英国の誇りなのはよく分かる。

マラードのボディ側面で燦然と輝く世界最高速度記録(時速126マイル)保持のしるし

ボディ側面には、世界最高速度記録を誇る金色のエンブレム(プラーク)が燦然と輝いている。どのくらい立派かというと、空気抵抗を少なくするマラードの美しい流線形(*18)の効果を台無しにするほどに分厚く、ポッコリと飛び出ている。世界最高速度記録に沸き立った勢いでプラークを意気揚々と貼ってしまう英国の愛すべき無邪気さが垣間見える。

「4468」という形式番号も金・赤・黒・白の四色で塗り上げられていて、他の機関車とは別格感が漂う。

細密に四色で塗られた形式番号「4468」(左)と
モヒカンのようなマラードの二重煙突(右)

マラードの頭上にかかる木製の橋に上ると、当時、世界で初めて導入されたという二重煙突(*19)を見下ろせる。二本の煙突が束ねられて一つの楕円形の煙突になっている。

マラードの側面

私の見たところによると、橋の役目は二重煙突を見せるため以外にもう一つある。実は、橋の下に薄い黄色の光を発するスポットライトが一つ隠してあり(上の写真の上部中央参照)、ボディ側面のエンブレムや形式番号の金色がより一層ピカリと輝くように工夫されている。こういうエンターテイメント性のある演出はさすが英国とうなるポイントだ。マラードへのプライドがこの隠しスポットライトに詰まっている。

個人的な鉄道写真ポリシーとして、私はなるべく走っている列車を撮るようにしている。しかしながらマラードは残念にも現時点で定期運行はしていない。

マラードの運転室。ふたたび釜が炊かれる日が待ち遠しい

現在は火室にひびがあるということだ。火室の修理の大変さについては英国の技師たちから幾度も話を聞いた。しかしながらイベント好きな英国のことだ。世界最高速度記録の100周年にあたる2038年に向けてまた修理するのではないかと密かに期待している。16年後だが、今、間違いなく最も期待している鉄道イベントだ。英国各地どころか、世界中から蒸気機関車ファンが押し寄せると思われる。日本からもわざわざ足を運ぶ価値のある走りを披露してくれることだろう。過去には世界最高速度記録の50周年にあたる1988年に向けて1986年に修繕され、その後、しばらく走っていたというファクトもある。

それまでA4形の走りを見る機会はないのか。そんな鉄道ファンに朗報なのは、マラードの「兄弟」と言えるA4が時折、イベントなどで現役で走っており、実際に乗ることができる、、、というお話は是非またの機会に。

*1 2015. The Train Book: The Definitive Visual History. London: Dorling Kindersley Ltd, 148.
*2 Cet, Mirco De. 2020. British Steam Locomotives: The Steam Trains of Great Britain Shown in 200 Photographs. London: Lorenz Books, 43.
*3 2015. The Train Book: The Definitive Visual History. London: Dorling Kindersley Ltd, 148.
*4 Schreiber, Mark. 2014. “Shinkansen at 50: fast track to the future.” The Japan Times. Accessed 08 05, 2022. https://www.japantimes.co.jp/life/2014/09/27/lifestyle/shinkansen-50-fast-track-future/.
*5 2015. The Train Book: The Definitive Visual History. London: Dorling Kindersley Ltd, 153.
*6 Oyama, Fumie. 2014. 夢の超特急 誕生支えた“侍魂” 東海道新幹線のテスト運転士. 30 11. Accessed 09 04, 2022. https://www.sankei.com/photo/story/news/141130/sty1411300003-n1.html.
*7 2015. The Train Book: The Definitive Visual History. London: Dorling Kindersley Ltd, 134.
*8 Herring, Peter. 2000. Classic British Steam Locomotives. Leicester: Abbeydale Press, 134.
*9 Cet, Mirco De. 2020. British Steam Locomotives: The Steam Trains of Great Britain Shown in 200 Photographs. London: Lorenz Books, 38.
*10 Science Museum Group. Poster, The Silver Jubilee. 1975-8398Science Museum Group Collection Online. Accessed September 4, 2022. https://collection.sciencemuseumgroup.org.uk/objects/co483996/poster-the-silver-jubilee-poster.
*11 Cet, Mirco De. 2020. British Steam Locomotives: The Steam Trains of Great Britain Shown in 200 Photographs. London: Lorenz Books, 39.
*12 日本経済新聞. 2012. “東海道新幹線 開業は1964年.” 日本経済新聞. Accessed 09 04, 2022. https://www.nikkei.com/article/DGXNZO38972340R20C12A2CC0000/.
*13 Gifford, Clive. 2015. Cars, Trains, Ships & Planes A Visual Encyclopedia of Every Vehicle. London: Darling Kindersley Limited, 126-127.
*14 Herring, Peter. 2000. Classic British Steam Locomotives. Leicester: Abbeydale Press, 12-13.
*15 2015. The Train Book: The Definitive Visual History. London: Dorling Kindersley Ltd, 18-19.
*16 Newcastle City Council. n.d. History and heritage . Accessed 09 04, 2022. https://www.newcastle.gov.uk/our-city/history-and-heritage.
*17 Gifford, Clive. 2015. Cars, Trains, Ships & Planes A Visual Encyclopedia of Every Vehicle. London: Darling Kindersley Limited, 144.
*18 Herring, Peter. 2000. Classic British Steam Locomotives. Leicester: Abbeydale Press, 134.
*19 2015. The Train Book: The Definitive Visual History. London: Dorling Kindersley Ltd, 152.

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About Author

アーティスト&鉄道ジャーナリスト。アーティストとして米・CNN、英・The Guardian、独・Deutsche Welle、英・BBC Radioなどで掲載されました | 鉄道ジャーナリストとしては日本の『旅と鉄道』『乗りものニュース』や英国の雑誌『Heritage Railway』に執筆しています。
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