第59話 Parkin ~パーキン~

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okashi


< Parkin パーキン>

日も極端に短くなり、朝晩の冷え込みが厳しくなる11月初旬、イギリスではそこかしこで寒空に花火が鳴り響きます。日本では花火と言えば夏ですが、イギリスの花火の季節は11月。11月5日の「Guy Fawkes Day(ガイフォークスデイ)」を祝って打ち上げるのです。
このGuy Fawkesとは1605年、弾圧されていたカトリック教徒による国会議事堂爆破、およびジェームズ1世暗殺未遂事件の実行犯の一人のこと。この計画自体は実行直前に発覚し、議事堂の地下室に大量の爆薬と共に潜んでいたガイ・フォークスが発見されることとなるのですが、この陰謀の失敗と国王の無事を祝って行われるようになったのがガイ・フォークスデイなのです。
どんな風に祝うのかと言うと~今は地域単位でイベント的に行うことが多いのですが、広場に大きな篝火(かがりび)を焚き、大きな炎を眺め温まりながら、夜空に上がる打ち上げ花火を楽しみます。子供たちはその篝火にぼろ布などで作ったガイ・フォークスの人形を投げ込んだり、屋台のトフィーアップル(りんご飴)やキャンディーフロス(わた飴)を買ってもらってご機嫌。時には移動遊園地が来ることもあるので、子供たちにとってはかなり楽しみなイベントです。

11月5日は冬のお楽しみ「ガイフォークスデイ」☆

11月5日は冬のお楽しみ「ガイフォークスデイ」☆

さて、前置きが長くなりましたが、このガイ・フォークスデイのお菓子として有名なのが「パーキン」。オートミールとブラックトリークルで作るジンジャーブレッドの一種です。
ビスケットタイプからケーキタイプまで、とにかくイギリス各地に星の数ほどあるジンジャーブレッドですが、パーキンはオーツをよく食べるイングランド北部で生まれたジンジャーブレッド。特にヨークシャーのものが有名なので「ヨークシャーパーキン」と呼ばれることもあります。細かめに挽いたオーツに大量のブラックトリークル(モラセス)、少量の卵とバター(あるいはラード)を加えて作るケーキで、焼いてから数日置くことにより、しっとりと美味しくなります。新鮮なオーツで作るとより美味しくできると言われるため、オーツの収穫がちょうど終わった11月の1週目によく作られていたというのも、この時期多く行われる宗教や農業などに関わる行事やお祭りのお菓子として定着した理由のひとつなのでしょう。

たっぷりのブラックトリークルが味に深みとしっとりテクスチャーを生み出します☆

たっぷりのブラックトリークルが味に深みとしっとりテクスチャーを生み出します☆

OEDによると「パーキン」が文献に最初に登場するのは詩人のウイリアム・ワーズワースの妹ドロシーが書いた1800年の日記の中に登場する ’ I was baking bread, dinner, and parkins.’という記述だということですが、実際にはその大分前から存在していたと言われています。ただしそれ以前はブラックトリークルの代わりに蜂蜜が用いられていたり、各家庭にまだオーブンが普及していなかったため、グリドル(鉄板)の上で焼かれていたりと大分姿かたちは今のものとは違うようです。
パーキンのような簡単に出来て、あまりに生活に根付いているようなケーキはあえてレシピ本などに載せることも少ないのか、その出生を辿るのがかえって難しいようです。その名前の由来も定かではないのですが、恐らくヨークシャー方面でよくみられるParkin(Perkinと綴ることも)という苗字から来ているのではないかと言われています。
「その昔、ヨークシャーに住むミセス・パーキンの作るオーツのケーキが美味しくて評判になり、いつしかそのお菓子は『パーキン』と呼ばれるように~」的なよくある話しが頭に浮かびますね(笑)。

イングランド北部だけでも、地域や家庭ごとにそれぞれ違ったレシピがあると言うパーキン、ヨークシャーにあるWest Riding では11月最初の日曜日はParkin Sundayと呼ばれ、家族でパーキンを食べる習慣があるそうです。子供の頃の楽しい思い出と結びついたお菓子。大人になって生まれた土地を離れても、パーキンを見る度に故郷を思い出しそうですね。

スパイスの効いた味、見た目ともにかなりシックなパーキンです☆

スパイスの効いた味、見た目ともにかなりシックなパーキンです☆

ところで、ガイ・フォークスデイのまたの名を「Bonfire night(ボンファイアーナイト)」と言うのですが、もうひとつ忘れてはならないその名も「ボンファイアートフィー」と言うお菓子があります。
パーキン同様イングランド北部の家庭で昔から作られてきたお菓子で、ブラックトリークルやゴールデンシロップ、茶色のお砂糖と少しのバターを140℃まで煮詰めて固めるだけというシンプルなキャンディー。バットなどで大きく固めて、好みのサイズにカットします。もしくはこういったハードタイプのトフィー用に「トフィーハンマー」なる小さなかわいらしいハンマーがあるので、それで叩いて砕いたりすることも。1830~1900年にかけて特にヨークシャーで非常に人気があったそうです。今でも大きなガラスのジャーに入ったキャンディーが並ぶ昔ながらのスイーツショップに行けば、見つけることができるかもしれません。

ボンファイアートフィーは懐かしい黒飴の味がします☆

ボンファイアートフィーは懐かしい黒飴の味がします☆

こうしてガイフォークス・デイに関連するお菓子を眺めてみると、皮肉にもガイ・フォークスが生まれ育ったヨークシャー生まれのお菓子が多いことに気づきます。幼い頃フォークスが食べていたお菓子は一体どんな味だったのでしょう。

Remember, remember the fifth of November,
Gunpowder treason and plot,
I see no reason why gunpowder treason
Should ever be forgot.
Guy Fawkes, Guy Fawkes, t’was his intent
To blow up the King and Parliament
・・・・・
覚えておいて 覚えておいて 11月5日のことを
火薬陰謀事件のことを
あの反逆事件を
忘れていい訳がない
ガイフォークス ガイフォークス 彼の目的は
王と議事堂を吹き飛ばすこと
・・・・・
イギリスのナーサリーライム(マザーグース)より

 

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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