第67話 French fancy /Fondant fancy~フレンチファンシー/フォンダンファンシー~

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okashi


<French fancy / Fondant fancy  フレンチファンシー/フォンダンファンシー>

あら、なんて小さくて可愛らしい~なんて軽く手を伸ばすと、その強烈な甘さにひとつでノックアウト☆キュートな見た目に反して相当手ごわい「フレンチファンシー」はイギリスの大定番お菓子。小さくカットされたスポンジの上にポチョッと絞られたバタークリーム。その上を甘~いカラフルなフォンダンが覆っています。数種ありますが、メインカラーは日本ではあまり見かけないような元気なピンク色でストロベリー味。上にはホワイトチョコレートが細く絞りかけられています。あとは黄色のレモン味と、茶色のチョコレート味、これらが一つ一つ薄い紙のケースに入れられて箱にお行儀よく並んでいます。これはどこのスーパーにも必ずと言っていいほど並んでいる市販のお菓子。イギリス人なら誰もがちょっとしたノスタルジーと共に「Mr. Kipling」という名がすぐに頭に浮かぶことでしょう。french fancy1

ちなみに「フレンチファンシー」なんて名前ですが、フランス由来のお菓子ではありません。おそらく、ふた口大でお上品に食べられるそのサイズとデコレーションから、エレガントなフランスのプチフールを想像してもらいたい~ということでつけられたのであろうイギリス生まれのイギリススイーツ。その誕生は1976年。女性たちが外に仕事を持つようになり、家でケーキを焼く時間がなくなり、街のベイカリーでパイやケーキを買うようになってきた時代。そんな時に発売されたのが「Mr. Kipling」ブランドのケーキたち。バッテンバーグベイクウェルタルトビクトリアスポンジトリークルタルト。それらは箱に入ってスーパーの棚には並んでいるものの、「Exceedingly good cakes」というキャッチフレーズと共にいかにもミスターキップリングという名のベイカリーで手作りされているような雰囲気を漂わせ、時代のニーズとも相まって店頭に並ぶや否や爆発的な人気となります。20種のラインナップからスタートしたミスターキップリングブランドですが、その当時から不動の人気を保ち続けているのが今日のお菓子「フレンチファンシー」。カラフルな見た目は子供たちのバースデーパーティーから、日々のティータイムのお供にと40年間イギリス家庭のテーブルを彩り続けています。もはやある一定層にはゆるぎない地位を築きながらも、日夜トレンドの動向に目を光らせているスーパーのオウンブランドにも負けまいと、パッケージも数年に一度のペースで代えてくる、商売熱心なミスターキップリング。クリスマスには真っ白の、ハロウィンにはオレンジ色や真っ黒のスペシャルエディションを出し、2012年のダイヤモンドジュビリーにはもちろん、赤白青のユニオンジャックカラーを、2008年からはなんと巨大なバースデーケーキサイズのど迫力フレンチファンシーまで発売しています。ちなみに去年の夏限定のスペシャルエディションはその名も「カクテルファンシー」。 なんでも、メーカーが調べてみたところ、意外にもワインやシャンパンなどと共にフレンチファンシーを楽しむ人が多かったとかで(本当に??)、大胆にも「ピニャコラーダ味、ラズベリーダイキリ味、ピーチベリーニ味」を作ってしまったのでした。そんな今の時代の流れにもフレキシブルに対応するミスターキップリングとは一体どんな人物なの?あるいはどこの町のどんな小さなベーカリーからこんな有名ブランドを作り上げたの?とちょっと気になりますよね。ですが実のところ~ 彼は存在しないのです。Mr. KiplingはRank Hovis Mcdougallという巨大企業が作り出した架空の人物。スーパーでケーキやパイを買うことにまだ慣れていない当時の人たちに、手作り感と親しみを持たせるためにとった戦略だったのです。この戦略はすばらしく功を奏しました。Mr.Kilpingは10年後にはイギリス中で最も大きなケーキブランドとなっていたのですから。イギリスには今でもMr. Kiplingというおじいちゃんが実在すると思っている人も少なくないようですが~。スーパーの棚でにっこり笑っている「Uncle Ben」も、美味しいケーキ作りを手助けしてくれる「Betty Crocker」だって、モデルはいるにしてもやはり販売戦略のための架空の人物、なんだそうです(^^;)。しかしそうは言ってもメーカー側もウイットを効かせ楽しませてくれます。CMにMr.Kiplingの奥さんが登場したり、ホームページのQ&Aコーナーにはこんな質問も。Q:「キップリングさんに会えますか?あるいは写真を見ることができますか?」A:「ミスターキップリングはものすご~くカメラが苦手な上に、今は新商品の開発に忙しくて無理なんです~」。

定番から新しい味まで揃うMr.Kippling シリーズ☆

定番から新しい味まで揃うMr.Kipling シリーズ☆

さてここまで「フレンチファンシー」についてお話してきましたが、これはあくまでMr.Kipkingの商品名。同じように、小さなスポンジケーキをフォンダンでカバーしたケーキはイギリスでは「フォンダンファンシー」と呼ばれます。可愛らしいデコレーションのカップケーキがイギリスで大ブームを起こして以来、カラフルなアイシングを施したビスケットやフォンダンファンシーのようなデコレーションをたっぷり施したキュートなお菓子をよりたくさん見かけるようになりました。歯がき~んとするほど甘いものが大半ですが、それでもまた食べたいなと思うのはヨークシャーにあるティールームBettys のフォンダンファンシー。スポンジの間にはバタークリームとジャムがサンドしてあり、さらにマジパンをのせた上にフォンダンがけなので甘さでは他所のものに引けをとらないのですが、あの可愛らしさについ手を伸ばしたくなるのです。パステルカラーのフォンダンに小花のデコレーション、なんとも優しい雰囲気なものですから。

優しい雰囲気のBettys のフォンダンファンシー☆

優しい雰囲気のBettys のフォンダンファンシー☆

今日もイギリスではきっと沢山のカラフルで可愛らしいケーキたちが飛ぶように売れていっていることでしょう。基本、素朴系ルックスの多いイギリス菓子、その中で目立ってアピールしてくるカラフルスイーツたち。今のイギリス、このメイクたっぷり厚化粧スイーツの甘~いトラップにかからないよう歩くのは結構至難の業かもしれません☆

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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