第70話 Lardy cake / Dripping cake~ラーディーケーキ/ドリッピングケーキ~

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okashi


<Lardy cake/Dripping cake ラーディーケーキ/ドリッピングケーキ>

風変わりな名前のものも多いイギリススイーツの中で『そそられない名前トップ3』 に必ず入ると思われるのが今日ご紹介する「ラーディーケーキ」~ラードのケーキです。名前を聞いただけで、血中脂肪が増えそうな気がしてしまう名前ですがご心配なく、別にバタークリームの代わりにラードクリームがこってりデコレーションされたようなケーキでもなければ、罰ゲーム的なゲテモノでもありません。現地ではお茶のお供に、時には食事にと長い間非常に愛されている存在です。「時には食事にも~」と言ったのはこれがケーキと名はつくものの、見た目も材料もイーストで膨らませた「パン」だから。言ってみればバターの代わりにラードを折り込んだ大きなデニッシュペストリーのようなもの。プレーンなイースト生地を長方形にのばして、ラードを塗りひろげ、ドライフルーツとお砂糖をたっぷり散らして折りたたみます。これを数回繰り返して型に入れて大きく焼き上げるのですが、途中オーブンの中でお砂糖とラードが熱せられてキャラメル化し、その甘いスティッキーなシロップがパン生地に染み込んでいきます。作り手によっては焼きあがってすぐにひっくり返して冷ますと、さらに全体にシロップがまわっておいしくなるのだとか、、、そう考えてみると、あれ、何か美味しそう?なんて思いませんか?それともいかにものハイカロリーぶりにさらにひいてしまっているかもしれませんが(笑)。でもこのハイカロリーと言うのがこのケーキの生い立ちとしては大事なところ。

名前と材料を忘れて食べれば甘くて美味しいデニッシュのよう☆

名前と材料を忘れて食べれば甘くて美味しいデニッシュのよう☆

このラーディーケーキ、都会ではほとんど見かけません。見つけることができるのはイギリスでも限られた地域。Northumberland や Hampshire、そして一番有名なのはなんと言ってもイギリス南西部のWiltshire のもの。というのも理由は明快。ラード=豚の脂、つまり豚の飼育が非常に盛んなところだから。ウイルトシャーは今も良質のハムが作られることで知られていますが、昔は大規模な養豚場に限らず、一般家庭でも豚が飼われており、春夏の間はせっせとえさを与えて太らせ、秋になると、お肉だけではなく、腸から血まで余すところなく加工し、厳しい冬に備えていたそうです。そしてラードは大切な油脂として調理にはもちろんこうしてケーキやパンにも使用していたのです。ラードをたっぷり使ったラーディーケーキは一日中農作業に養豚に体力を使うウイルトシャーの人々の大事なエネルギー源だったのです。ただし、お砂糖もドライフルーツもまだまだ貴重品だった頃は、ラーディーケーキはお祭りごとの際に作られる特別のご馳走、普段はバター代わりにラードをたっぷり塗ったトーストを食べることも多かったのだとか。ちょうどイギリスのノスタルジックフードのひとつ、「Bread and dripping」と似たようなもの。ドリッピング(dripping )とはお肉をローストする際に流れ出る脂のこと。これを溜めておいて、マーガリンのようにパンに分厚く塗っておやつに夕食に食べるのが「ブレッド&ドリッピング」。国内はおろか世界各国からやってくるおいしい食品に溢れる現代、これを好んで食べている人は少ないでしょうが、今より食べ物を大切にしていた頃の古き良き思い出の一つとして話題に登ることがあります。

パン生地の間にたっぷりラードを塗って折り込みます☆

パン生地の間にたっぷりラードを塗って折り込みます☆

さて、ラーディーケーキに話しを戻しましょう。ウイルトシャーのラーディーケーキはレーズン類をはじめオレンジピールなどのドライフルーツがたっぷり入り、さらにミックススパイスなどのスパイス類が加えられることが多いのですが、お隣ハンプシャーのものはドライフルーツが入らず、ノーザンバーランドのものはパン生地を作るときにお水の代わりに牛乳を使い、ドライフルーツはカランツのみのことが多いのだとか。その地方、作り手によってバリエーションは多そうです。イギリスに暮らし始めた頃、マーケットのパン屋さんに並ぶキャラメル状の艶を放つ美味しそうなパンを見つけ、よくラベルを眺めもせず「なになにレディーケーキ?美味しそうだから買ってみよう」と購入。ふむ、ぺたぺたしていて甘くて美味しいけれどちょっとお安めのバターでも使ったのかしら?なんて思って食べたのですが、それがラードを使ったラーディーケーキと知ったのはしばし経ってから(笑)。きちんと知ってからは「美味しいよ~うちの一番の人気商品なんだ」と山積みのラーディーケーキを前に笑顔でおススメされても、買うのはたま~ににしておきました。バターとカロリーは代わらないのに、「何か太りそう~」なんて思っちゃうのだから、やっぱり名前って大事です(^^;)

ラードとお砂糖とフルーツが溶け合いツヤツヤ☆

ラードとお砂糖とフルーツが溶け合いツヤツヤ☆

そうそう、『そそられない名前トップ3』 のもうひとつに挙げたいのは、先ほども登場したドリッピングを使う「Dripping cake (ドリッピングケーキ)」。こちらはイギリス中にバリエーションが存在するようです。ラーディーケーキのラードの代わりにドリッピングを使うフルーツブレッドタイプのもの、通常のフルーツケーキを作るときのバターの代わりにドリッピングを使うケーキタイプのものなどいろいろ。今もスーパーをよく探せばラードと並んできれいに商品化されたドリッピングを見つけることができますが、もともとは日々のローストやシチュー(煮込み料理)を作る際に出た余分な脂をためておいたもの。さぞやダシの効いたケーキやパンになったことでしょう(^^;)。1940年代の食糧配給制度の下、限られた材料でできるだけ効率よくやりくりしてもらおうと様々なアドバイスをのせたリーフレットなどが政府から出されていましたが、その中にこんなドリッピングの上手な利用法というのがあります~「お肉のローストに使ったバットやフライパンなどに残った脂を集めて漉したら、2オンスの脂に対して1パイントの熱湯を注ぎます。冷えて脂が固まったら取り出して、底の汚い部分をこそげとります。これをお鍋に入れて火にかけ溶かし、泡が出なくなるまで熱すると、余分な水分が抜け日持ちするようになるので、お料理はもちろん、ケーキにも使いましょう」。 ドリッピングは熱を加えなければ固形の状態なので、バターのように粉にrub in して(指先でぽろぽろにすること)使えます。そこにお砂糖やドライフルーツ、牛乳を加えて焼くというのが簡単なドリッピングケーキの作り方。でもこれはあくまで物のない時代のドリッピングケーキ。わたしはまだ実物にお目にかかったことはありませんが、今の時代のドリッピングケーキはきっと、ラーディーケーキ同様美味しくなっているはず。これは自分で作らず、いつか巡り会う時のお楽しみにとっておこう。。。

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/

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