第89話 Fool /Snow ~フール/ スノウ~

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okashi


<Fool / Snow フール/スノウ>

今日最初にご紹介するのはイギリスデザート界のかわいそうな名前2トップのうちひとつ、「Fool(フール)」。ご存知のとおり「fool」はエイプリルフールのフール、つまり「お馬鹿さん」の意。これがどんなデザートかを説明する前に~気になるもうひとつのかわいそうな名前を持つデザートは、そう、以前に登場した「トライフル(つまらないもの)」です。さて、今日のお題のフールですが、偶然か否かそのトライフルの親戚。クリームまたは卵入りのクリーム(カスタード)にフルーツのピュレを混ぜ込んだデザートです。ただ混ぜるだけでいいので、スポンジを敷いたり、綺麗な層を作ったりする必要がない分、トライフルよりさらに簡単。なるほどどんなお馬鹿さんでも作ることができるからこんな名前なのね~と納得してしまいそうになるほどお手軽。ですが、一応語源としてはmash(押しつぶす)を意味するフランス語の ‘fouler’ から来ていると言われています。

ルバーブフールは混ぜすぎずマーブル模様を残すとキレイ☆

ルバーブフールは混ぜすぎずマーブル模様を残すとキレイ☆

冷やしていただくデザートなので、夏になるとよく登場するフールですが、特にクローズアップされるのがグーズベリーの登場する初夏。それはフール=グーズベリー、グーズベリーと言えばフールを想像する位に定番の組み合わせだから。パイと言えばアップル、おにぎりと言えば梅干(?)それくらい切っても切れない間柄なのです。ちなみに2番手はルバーブフールでしょうか。お砂糖を加えて軽く煮崩れたグーズベリーを時には裏ごし、時にはそのまま、泡立てた生クリームにそっと混ぜ込んだフール。さらにグーズベリーのベストフレンド、エルダーフラワーで香りをプラスすればまさに夏の訪れを象徴する味。家庭で作る簡単デザートなので、意外とレストランなどでは遭遇しないのですが、スーパーの冷たいデザートコーナーなどにはおいてありますので、見かけたら是非一度お試しを。

フールと言えばグーズベリー☆

フールと言えばグーズベリー☆

17世紀から人気が出始めたというフール。当初は煮て柔らかくしたフルーツのピュレにお砂糖と卵を加えて濃度をつけたもので、クリームは入っていませんでした。そこにローズウォーターやオレンジフラワーウォーター、時にはムスクやりゅうぜんこうで香り付けをしたのだとか。18世紀に入ると生クリームが加わり、卵が抜けることも多くなり、現代のフールに近づいていきます。

スーパーのフールはいつもより濃厚なフルーツヨーグルトのよう、、、☆

スーパーのフールはいつもより濃厚なフルーツヨーグルトのよう、、、☆

今と違い冷蔵庫やましてや冷凍庫などない時代。冷たいデザートは豊かさの証、チューダー朝からヴィクトリア時代にかけて、華やかな場ではカスタードやクリーム系、ゼリーなど冷たいデザートがバンケットのテーブルを彩りました。その頃、フール同様テーブルに並んだものに「Snow(スノウ)」というものがあります。その名のとおりふんわりとした雪のような白いデザート。フールがフルーツピュレに卵黄や全卵を入れるとしたら、こちらはフルーツピュレにメレンゲ、もしくはメレンゲと生クリームを混ぜ合わせたもの。りんごのピュレがベースのアップルスノウがもっとも定番です。今でもごく稀に料理本などでは見かけますが、姿を消しつつある昔ながらのデザート。雪のように儚い食感はまさに名前のとおり。これもとても簡単に出来るので一度作ってみるのも楽しいかもしれません。

淡雪のようなスノウはふわっとお口での中で融けていきます☆

淡雪のようなスノウはふわっとお口での中で融けていきます☆

ビクトリア時代に一世を風靡したビートン婦人のレシピを載せておきますので、ご興味ある方は是非チャレンジを。

<APPLE SNOW>
Ingredients- 10 good-sized apples, the whites of 10 eggs, the rind of 1 lemon, 1/2lb.of pounded sugar.
Mode- Peel, core, and cut the apples into quarters, and put them into a saucepan with the lemon-peel and sufficient water to prevent them from burning- rather less than 1/2pint. When they are tender, take out of the peel, beat them to a pulp, let them cool, and stir them to the whites of the eggs, which should be previously beaten to a strong froth. Add the sifted sugar, and continue the whisking until the mixture becomes quite stiff; and either heap it on a glass dish, or serve it in small glasses. The dish may be garnished with preserved barberries, or strips of bright- colored jelly; and a dish of custards should be served with it, or a jug of cream.
Mrs. Beeton のHousehold management(1861)より

ビートン婦人のレシピは超シンプル。レモンの皮で風味付けして煮たりんごのピュレにしっかり泡立てたメレンゲを加えただけのもの。材料は10個のりんごと10個分の卵白、225gのお砂糖とレモンの皮1個分とこれだけです。ただそれだけでは寂しいと思ったのか、出来上がりにベリーのジャムや明るい色のジェリーを飾ったり、カスタードやクリームを脇に添えてもいいですよ~とサーブする時のアドバイスも加えられています。
時にはローズマリーの小枝を上に刺して、雪景色を表現することもあったという「スノウ」。茹でたり蒸したりと、重~いスイーツが主流だった時代、ふんわり、冷たく、お口の中で溶けていくデザートはさぞやもてはやされたことでしょう。もしも、タイムマシンに乗れるのなら、昔の王侯貴族のパーティーの様子をこっそり覗き見してみたい~あわよくばお味見も、、、(^^)。

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宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 、2022年6月「新版BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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