第100話 Regional gingerbread~地方のジンジャーブレッド~

0

okashi


<Regional gingerbread 地方のジンジャーブレッド>

おやおや気づくとイギリスおかし百科ももう100話め。随分ご紹介したお菓子の数も増えてきましたが、まだまだ存在するイギリスお菓子。思いつくままにピックアップしているため、あれ?まだこんなに有名なお菓子も抜けている、、、なんていう状況ですが~とりあえず今日はこれまで幾度となく登場してきたイギリス各地のジンジャーブレッド話しの〆として、せめて名前だけでも挙げておきたい、というものをセレクトしてみました。まずは北から参りましょう。

スコットランド本土から離れ、その北の海に浮かぶ70ほどの島で構成されるオークニー諸島。ここでは「Broonie」というジンジャーブレッドが有名です。こちらは前にご紹介したスコットランドのパーキンとは違い、ローフ形のしっとりモイストなケーキタイプのジンジャーブレッドで色は薄め。北部に行けば行くほどオーツを使用するお菓子は増えていくというセオリーどおり、これにもやはりオーツが入ります。特徴としてはたっぷり加えられるバターミルク。スライスしてバターを塗っていただくことも多いこのブルーニー、お茶の時間にはもちろんですが、これにミルクティーでもあれば軽い朝食としてもよさそう。もともとはケルトのお祭りの際に食べられていたというブルーニー、その名は北部の言葉で「thick bannock 分厚いバノック(バノック=平焼きのパンのようなもの)」を意味する bruniという単語に由来しているそう。

ブルーニーはジンジャーブレッドにしては色白のバターミルクとオーツ入りケーキ☆

ブルーニーはジンジャーブレッドにしては色白のバターミルクとオーツ入りケーキ☆

お次は「Fochabers Gingerbread」。Fochabersは人口2000人弱のスコットランド北東部の小さな町。この町の名を冠するジンジャーブレッドの特徴はたっぷり入るビールとドライフルーツ類。焼きあがってから乾燥しないように包んで数日置くと、ビールとドライフルーツがジンジャーと絶妙に馴染み、実に美味しいしっとりとしたケーキとなります。スコッチウイスキーで有名なスペイ川の東側に位置するこの町でどうしてこのビール入りジンジャーブレッドが生まれたのか定かではないのですが、その特徴あるジンジャーブレッドはイギリスジンジャーブレッド愛好家としては是非ご紹介したい一品。そう言えば、以前、オーツとビールが入るジンジャーブレッドとしてランカシャーの「Harcake( Soul-mass cake)」も登場しましたね。

ビールとドライフルーツ入りが珍しいfochabers gingerbread ☆

ビールとドライフルーツ入りが珍しいfochabers gingerbread ☆

「Kirriemuir gingerbread」。ピーターパンの作者 J.M.Barrie の生まれ故郷としても有名なこの町はスコットランド東部の町。こちらのキリミュアジンジャーブレッドはカランツ入りのしっとりケーキタイプ。もともとの生みの親はキリミュアのパン職人Walter Burnett氏。現在は彼のレシピを受け継いだBells社により製造販売されています。1975年にThe Kirriemuir Gingerbread company を吸収したBells社は立派なファクトリーを持つスコットランドのペイストリーメーカー、おかげでキリミュアジンジャーブレッドも袋入りのものがスーパーで気軽に手に入れることができます。
「Whitby gingerbread」。こちらも現在目にするのは老舗ベイカリーElizabeth Botham & Sons の袋入りのもの。Elizabeth Botham & Sons 社も創業は1865年とかなり古いのですが、ウイットビージンジャーブレッドの歴史はさらに古く、Whitby(ヨークシャー北東部の港町)に1700年代から伝わるというオリジナルはかなり独特なタイプのジンジャーブレッドです。Whitby block gingerbread とも呼ばれるそれは、昔は4lb(1lb=453g)の塊で焼かれ、その後4つのブロックにカットされていたとか。ケーキというよりは固いビスケットのようなブロックジンジャーブレッド、かつては同じくスコットランドの港町Dundeeはじめイギリス中で作られていました。それらの表面には木型でかたどる紋章や着飾った人物の装飾が施されていたり、非常に手の込んだものも多く、特にその村々のフェア(お祭り)の際には欠かせないものでした。しかしフェア自体の衰退とともにブロックジンジャーブレッドも次第に姿を消していったようです。当時の精巧な木製のジンジャーブレッドモールドはWhitby museumなどで見ることが出来ます。現在のBotham社のウイットビージンジャーブレッドはそこまで硬くはありませんが、やはりドライな食感、スライスして、バターかチーズを添えていただくのがおすすめだとか。

fochabers gingerbread はビールとフルーツ、ジンジャーの入り混じった香りが魅力☆

fochabers gingerbread はビールとフルーツ、ジンジャーの入り混じった香りが魅力☆

「Ormskirk Gingerbread」。Ormskirkはイングランド北西、リバプールから20km程北に位置するマーケットタウン。ここのジンジャーブレッドは色はやや薄め、直径6cm位の丸いビスケットタイプ。加えるスパイス類は作り手により微妙に違うようですが、ジンジャーはもちろんとして、ミックススパイスや、シトラスピールが入ることも。その歴史もやはり長く、1700年代には町の名物となっていました。味もさることながら、このオームスカークジンジャーブレッドの一番の特徴はなんと言ってもその売り方。営業許可をもつ女性たちがそれぞれ、町のハイストリートや駅舎などで、ジンジャーブレッドを詰めたかごを持ち、手売りしていたのです。1855年のEast Lancashire Railway companyの記録にその年1年の販売許可代を支払った5名の女性の名が残っているようですが、その中には特に有名なMill StreetのSally Woods やSarah Fylesの名も。なんでも、Sarah Fyles さんのジンジャーブレッドはEdward 7世の大のお気に入りだったとか。一度は消えてしまったOrmskirkのジンジャーブレッドの火ですが、現在はリバイバルしつつあり、町でジンジャーブレッドフェスティバルが開かれたりと、町おこしにも一役買っているようです。

ormskirk gingerbread は飽きのこない、優しい味のジンジャーブレッド☆

ormskirk gingerbread は飽きのこない、優しい味のジンジャーブレッド☆

イギリスジンジャーブレッドの歴史は有名なジンジャーブレッド「コーニッシュフェアリング」という名前も示すように fair(お祭り)と共にあるといっても過言ではないもの。そのため、その土地土地のフェアの名が付いたジンジャーブレッドも各地にたくさんあります。例えば~イングランド東部の海に面したカウンティー、ノーフォークではNorwich の Easter Fair や Great Yarmouthのpre-Lent Fair はじめ沢山のフェアが古くから開かれてきましたが、そこで売られていたのが「Norfolk fair button」というビスケットタイプの丸いジンジャーブレッド。18世紀、19世紀はたくさんのジンジャーブレッド売りが 「Come buy my Hot Spiced Gingerbread !」と呼び声高らかにお客さんを集めていたそうです。
「Nottingham goose fair gingerbread」は1284年から開かれているというGoose Fair 名物のジンジャーブレッド。こちらは700年以上も続く大きなフェアとして有名です。今でこそ、電飾きらきらの移動遊園地はじめさまざまなイベントが行われるにぎやかなお祭りですが、昔はその名のとおり、ノーフォークやリンカーンシャーも含め、周辺からたくさんのガチョウが運ばれてきて開かれるがちょう市。毎年10月に開かれるのはガチョウが一番美味しくなる季節だから。この辺りではガチョウは秋に食べるトラディッショナルな料理のひとつだったそうです。残念ながら肝心のグースフェアジンジャーブレッドは今はもう作られていません。残されたレシピを見てみると、トリークルとバターがたっぷり入ったしっとりケーキタイプのジンジャーブレッドのようです。

ノーフォークフェアボタンはジンジャーブレッドらしいブラックトリークルの風味の効いたしっかり食感☆

ノーフォークフェアボタンはジンジャーブレッドらしいブラックトリークルの風味の効いたしっかり食感☆

他にもイギリス南東部 Devonshire の Widecombe-in-the-Moor の町で開かれる有名なフェアWidecombe fairで売られていた「Widecombe fair gingerbread」。同じくDevonshireのBarnstaple のフェアで売られていた「Barnstaple fair gingerbread」などなど、各フェアの名のつくジンジャーブレッドは山のようにあります。ですがもうそれらの多くは姿を消し、名前のみしか残っていないものがほとんど。ヨーロッパやアメリカなどからどんどん目新しいおしゃれなお菓子が入り、昔ながらのお菓子が消えていくのは世の流れ、仕方のないことではありますが、その土地の文化が育み、みんなが愛したお菓子が忘れ去られてしまうのはやはり寂しいもの。せめて写真とは言わないまでも絵とレシピだけでも残していてくれればな~とよく思ってしまいます。でも家庭で当たり前のように作るものになればなるほど、レシピは残っていないもの。本当に知りたいのはそんなレシピなのですが~。キリがないので一応今日はこの辺りでジンジャーブレッド話しは止めておきますが、また美味しいジンジャーブレッドと巡りあったら、ご紹介いたしますね☆

Share.

About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

ウェブサイト ブログ

Leave A Reply

CAPTCHA