第110話 Apple pie~アップルパイ~

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okashi


<Apple pie アップルパイ >

「アップルパイ」、、、あえてイギリス菓子というにはあまりにも名前も構成もシンプルで、存在そのものがワールドワイドすぎるが故に、ここで取り上げるのをなんとなく先延ばしにしてきたお菓子。ですが、りんごと言えばイギリスを代表する果物、そしてパイと言えばイギリスの国民食、当然アップルパイはイギリスのデザートに、お茶のお供に欠かせない存在。やはりこれは誰がなんと言おうとイギリス菓子。フランスにも、ドイツにも美味しいアップルパイはあるし、アメリカには「とってもアメリカ的な」ということを表現するのに「As American as apple pie」なんて言い回しがあったりしますが、イギリスもアップルパイ愛とその歴史の長さではどこにも負けていません~ということを今日はご紹介(^^)

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まずは「アップルパイ」の歴史から。歴史といっても、誰が最初に作り始めたかなんて事までは分からないのですが、少なくとも最初に文献に登場したのは「The Forme of Cury(1381年)」というイギリスの料理本の中とされています。その本の中でFor to make Tartys in Applis~と題されたそれは、りんごやレーズンに加えて、いちじくや洋梨、サフランも入ったもので、当時 cofyn と呼ばれていたタルトケースのようなものに入れて焼くように~と記されています。これに限らず、現代のものとは少々姿は異なるかもしれませんが、15世紀にはアップルパイ(タルト)はイギリスで広く食べられていたよう。一方アップルパイで有名なアメリカではいつ頃から食べられていたのかというと~もともと北アメリカに自生していたのは生食やパイのフィリングにするには適さないクラブアップル。イギリスやヨーロッパ諸国から移民が入り、美味しいりんごを持ち込み栽培し、アップルパイを作ろう~と思い、それがレシピ本に載るまでなんと18世紀末まで待たなくてはなりません。イギリスに比べると大分短いアップルパイの歴史です。

アップルパイに添えるなら温かいカスタード?バニラアイス?

アップルパイに添えるなら温かいカスタード?バニラアイス?

さてそんな歴史はさておき、現代イギリスで食べられているアップルパイとはいかなるものか。日本の表面つやつや、薄いパイの層がきれいに浮いた格子模様のアップルパイとは違います。もちろん格子模様のこともありますが、全面隙間なく蓋をするようにペストリーで覆われていることが多く、生地は、もっぱらショートクラストペストリーと呼ばれる、あまり層のないさっくりしたタイプのもの。艶出し用の杏ジャムやナパージュなどを塗ることは決してなく、せいぜいグラニュー糖がかかっていたりする程度の素朴な外見です。フィリングは作り手により、地方によりさまざま。生のスライスしたりんごをお砂糖と共にパイに詰めて焼く場合もあれば、前もって砂糖を加えて加熱しておいたりんごをフィリングにすることも。使われるりんごの種類もさまざま。2000種を超えるといわれているイギリスのりんご、調理用のブラムリーアップルを好む人もいれば、デザートアップル、イーティングアップルと呼ばれる甘いりんごを使う人もいますし、もちろん、お庭に生えているりんごの木やその地方でよく採れるものを使うことも多いでしょう。他にフィリングに何か加えるとすれば、レモン、あるいはシナモンやナツメグなどのスパイス類。りんごと収穫のシーズンがかぶるブラックベリーを加えることもよくあります。また面白いところではチーズを加えることも。南西部ならチェダーチーズ、イングランド北部のウエンズリーデイルチーズなどがアップルパイに入れるチーズとしては有名です。また、チーズはフィリングに加えるだけではなく、パイクラストにバターと共に練りこんだり、出来上がったパイの脇にチーズの塊を添えてサーブすることも。甘酸っぱいりんごにちょっと塩気のあるチーズ、慣れるとこの組み合わせはなかなかな乙なもの。「An apple pie without the cheese is like a kiss without the squeeze(チーズのないアップルパイなんて、抱擁のないキスのようなものだ)」なんて諺があるくらいですから(笑)。でも、そんなちょっと複雑な味を求める人は別として、大抵の場合アップルパイに添えられるのは温かいカスタードか、生クリーム、もしくはバニラアイス。熱々の焼きたてアップルパイにバニラアイスはそれはもちろん最高ですが、黄色の温かいカスタードの海の中に常温のアップルパイの島が浮かぶお皿もまた至福です。。。。

アップルパイにブラックベリーはイギリス定番の組み合わせ☆

アップルパイにブラックベリーはイギリス定番の組み合わせ☆

さて、セイボリーからデザート系まで、星の数ほどあるイギリスのパイ。2016年のアンケートによると(OnePoll調べ)、全てのパイの中からナンバー1の座を獲得したのがなんとアップルパイ。2位はシェパーズパイ、3位はステーキ&エールパイ、4位がコテージパイで5位がステーキ&キドニーパイ。1位以外は全てセイボリー系が占めている中の王座です。ちなみにスイート系の次席は6位のレモンメレンゲパイ。調査する対象が女性か男性かや、地方によっても大分結果は変わるようなので、いつも同じ結果とは限りませんが、イギリスのアップルパイ人気を示すには充分。ちなみに今年2017年の結果はというと~1位がステーキ&エールパイ、アップルパイは5位でしたが、スイーツ系としてはやはり堂々のトップでした。

ペストリー自体に削ったチーズを加えたり、フィリングの中に加えることも。チーズの種類も様々です☆

ペストリー自体に削ったチーズを加えたり、フィリングの中に加えることも。チーズの種類も様々です☆

こうして広く深く14世紀よりイギリス国民に愛され続けてきたアップルパイですが、他にも美味しいお菓子が沢山あるせいか、これまで表立ってアップルパイがイギリスの国民的人気を誇るお菓子だとアピールされることはあまりありませんでした。が、2015年、イギリスのアップルパイが世界的に認められる出来事がおきます。ブラムリーアップル(イギリスの代表的なクッキングアップル)で作られたアップルパイのフィリングがEUより保護すべき伝統的な産品Traditional specialty guaranteed(TSG:伝統的特産品保護)に指定されたのです。スティルトンチーズや、メルトンモーブレイのポークパイなどと並んで、「Traditional Bramley Apple Pie Filling」という名も、定められた材料と手順で作られなければその名を使うことが出来なくなったというわけです。これがなかなかに細かい規定、使っていいのは規定のサイズのブラムリーアップル、砂糖、水、オプションでブラムリーのピュレとコーンスターチ、レモン果汁のみ。そのカットのサイズや、材料の割合はもちろん、粘度やpHまで決められているという徹底ぶり。これで当分は美味しいアップルパイが食べられそうですね。
あ~ひたすらアップルパイを頭に描きながら綴っていたので、無性にイギリスの素朴なアップルパイが食べたくなってしまいました~なんてわたしは毎度のことですが、いつも 「あ~これ食べてみたいかも」 そう皆さんにも思ってもらえたら嬉しいなと思いながら書いているのでした(^^

 

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/

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