第131話 Norfolk vinegar cake / Trench cake ~ノーフォークビネガーケーキ/ トレンチケーキ~

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okashi


<Norfolk vinegar cake/ Trench cake ノーフォークビネガーケーキ/トレンチケーキ>

「Norfolk vinegar cake(ノーフォークビネガーケーキ)」。その名もずばり、イングランド東部ノーフォークのお酢入りケーキ。酢飯ならいいけれど、酢ケーキはそそらないわね~と思われたあなた、大丈夫です、その名を言われなければお酢感は全くありません(^^)。お酢はひとつのホールケーキに大さじ1~2杯とそれなりに入ってはいるのですが、頑張って探ってみても痕跡を見つけられないほど、焼いている過程でその風味は飛んでいってしまいます。ケーキ自体は一見とってもシンプルないつもの干しぶどう入りのプレーンなケーキ、~に見えるのですが、実はこのビネガーケーキ、ケーキ作りには欠かすことの出来ないあるものが入っていません。それは、卵。でもちゃんと膨らんでいるし、食べてみても、まぁ、言われてみればいつものケーキに比べれば多少はしっかりしているような気もするけれど、でも卵が全く入っていないとは思わない食感。ひとさじふたさじ加えるお酢が、一緒に加える膨張剤としての重曹と反応し、ケーキにふっくら感を与え、卵の代わりをしてくれているのです。

卵の代わりにお酢入りだなんて全然気づきません☆

卵の代わりにお酢入りだなんて全然気づきません☆

ここでちょっと重曹について簡単におさらい。重曹は炭酸水素ナトリウムのこと。これにお水と熱を加えると、二酸化炭素を発生させ、このガスがケーキをぷ~っと膨らませてくれるわけですが~この炭酸水素ナトリウムはアルカリ性、ここに酸性のものを加えてあげると、よりガスの発生を促し、さらにケーキを持ちあげてくれるというわけです。後に発明されたベーキングパウダーはこの酸性の物質をはじめから重曹にまぜ合わせたもの。ですが、ただ混ぜただけだとすぐに反応が始まってしまうので、その隔離剤として、コーンスターチなどが一緒に配合されています。じゃあ今の時代はいつもベーキングパウダーでいいんじゃない?と思いますが、重曹は重曹で、ベーキングパウダーとはまた違う、独特の香りや食感を生む効果があり、それを利用したいお菓子もあるわけで、一概にそうとも言い切れないのです。もちろん細かいことは気にしないわ~という方は両者を置き代えていただいても構わないのですが、気をつけたい点がひとつだけ。ベーキングパウダーの重量のうちかなりの割合が隔離剤としての粉、実際に含まれる炭酸水素ナトリウム(重曹)の量はそう多くありません。ベーキングパウダーに比べて、いつもレシピの重曹の量が少ないのはそのため。粉に重曹を加えるときはいつものベーキングパウダーの半分くらいにしておかないと、膨らみすぎて妙な食感の苦~いケーキになってしまうのでご注意を。

お酢は重曹の苦みも押さえてくれるそう☆

お酢は重曹の苦みも押さえてくれるそう☆

さて、話しをビネガーケーキに戻しましょう。ノーフォークの名物として知られていたビネガーケーキですが、この卵を使わずケーキを作れるということから、第一次世界大戦から、第二次世界大戦中、そして戦後しばらく続いた食糧難の時代にイギリス中にいっきに広がり重宝されます。当時の食糧配給表を見てみると、成人ひとりあたり、一週間につき、お砂糖は8oz(225g)とそれなりにあったものの、卵はたった1個、もしくは2週間にひとつだけ。冬のにわとりがあまり卵を産まない季節には粉末状の乾燥卵だけということも多く、卵はとても貴重品だったのです。貴重な卵を何個も使うヴィクトリアスポンジなどは夢のまた夢。そんな中このビネガーケーキは救世主。小麦粉に油脂をラブイン(スコーン作りのように、粉とバターをさらさらのパン粉状にすること)して、お砂糖と少量のレーズン、重曹とお酢を混ぜた牛乳を加えて混ぜるだけで、それらしきケーキを作れたのですから。現代のリッチな配合のお菓子に慣れ親しんだ舌には少々物足りないかもしれませんが、当時の質素な暮らしの中では、子供たちはじめ大人も楽しみなケーキだったことでしょう。

ここでもうひとつご紹介しておきたいのが、「Trench cake (トレンチケーキ)」。みなさんトレンチケーキは聞いたことがなくとも、トレンチコートはご存知のことと思います。第1次世界大戦中、軍用コートとして開発されたそれは、頻発した塹壕戦で水と寒さへの耐久性が認められトレンチコートと名がついたのですが~そのトレンチとは日本語にすれば塹壕(ざんごう)。戦場の前線に掘るあの塹壕のことです。当時戦場に戦いに出ている家族や恋人のために、限られた材料の中から日持ちするケーキを焼き、手紙と共に送られたのがトレンチケーキ(塹壕ケーキ、、、すごい名前ですね)。材料や作り方はほぼビネガーケーキと一緒。ただ、ほんの少しココアパウダーが加えられることが多かったようです。質素なケーキではありますが、乾いたビスケットや缶詰の食事、死と隣り合わせの戦場の生活の中、遠く離れた家族から届いた甘いケーキはどれだけの喜びを与えたか計り知れません。レシピを載せておきますので、ご興味のある方は是非味わってみて下さい。

素朴なケーキ好きとしては、トレンチケーキも決して悪くないお味と思うのですが☆

素朴なケーキ好きとしては、トレンチケーキも決して悪くないお味と思うのですが☆

<トレンチケーキ>

  1. 薄力粉225gとココアパウダー小さじ2をボールにふるい入れ、110gのマーガリかバターを加えて、指先でこすり合わせ、さらさらのパン粉状にします。ここにブラウンシュガー75g、カランツ75g、好みでジンジャーやナツメグひとつまみも加えておきましょう。
  2. 牛乳140mlに小さじ半分の重曹と、小さじ1杯の酢を混ぜ合わせたものを①に加えて、粉っぽいところがなくなるまでよく混ぜ合わせます。
  3. 紙を敷いた直径18cmの型に流して、180℃のオーブンで50分ほど、竹串を刺して何もつかなくなるまで焼いたら完成です。

ノーフォークビネガーケーキと同じく、卵は使わず、お酢とドライフルーツを加えた質素なケーキ。ここではお酢の量もたった小さじ1杯だけですが、お酢を大さじ1~2杯加えるノーフォークビネガーケーキと変わらないくらいに膨らんでくれます。焼きあがったケーキは素朴ながらイギリス菓子らしいしみじみとした味わい。トレンチケーキ、その名前は平和に過ごせる現代の生活に感謝することを思い出させてくれます。

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本 「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」を出版

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