第152話 A quire of paper クワイア オブ ペーパー

0

okashi


<A Quire of paper  クワイア オブ ペーパー>

 

Quire of paper(クワイアオブペーパー)とは紙一帖、つまり紙24~25枚の束のこと。でもここで登場するのですから、これもまたイギリスの古いお菓子の名前。この名前からどんなお菓子を想像しますか?お皿の上に重なった24~25枚の紙…。きっとご想像のものと当たらずとも遠からず。

 

パンケーキというよりは~

パンケーキというよりは~

これがその姿。
「ミルクレープ?」ハイ、そんな感じです(笑)。

これは1700年代のレシピ本によく登場する、薄焼パンケーキを重ねたもの。現代のイギリスパンケーキもペラペラでほぼクレープのようですが、これはさらにさらに薄く、紙のように焼き、何枚も何枚も重ね、それをケーキのようにウエッジにカットしていただきます。ミルクレープはフランス語で1000枚のクレープという意味ですが、イギリス人はそんな誇張はせず、24~25枚重ねと妥当なネーミングなのがまた好ましいですね(笑)。ミルクレープの場合、間にクリームなどが塗られていますが、こちらはパンケーキとパンケーキの間にはグラニュー糖のみ、と潔いほどにシンプル。でもその分、生地はいつものパンケーキよりはずっとリッチな配合になっています。通常のパンケーキの材料は卵に小麦粉、卵、牛乳と一つまみのお塩、それだけ。でもこのクワイアオブペーパーには、クリームにバターやお砂糖、風味づけにオレンジフラワーウォーターやサック(シェリー酒のようなもの)まで入る豪華ぶり。

例えば、1783年出版の料理本、The London Art of Cookery, and Housekieeper’s Complete Assistant (John Farley著) のレシピを見てみると~

A Quire of Paper の材料はスプーン3杯の小麦粉に1パイントのクリーム、卵6個に、サックをスプーン3杯、オレンジフラワーウォータースプーン1杯、お砂糖少し、ナツメグ、半パウンドの冷ました溶かしバター。これらを全て混ぜ合わせたら、バターを塗ったフライパンでできる限り薄く焼きましょう~となっています。

他の18,19世紀の本にも時折登場するこのパンケーキですが、共通するのはリッチな配合と片面しか焼かずに重ねること。間にクリームなどがないので、確かにそのほうが上下の生地が程よくくっつきあって一体感が出ますし、ソフトな食感が保てます。どちらかというと、ミルクレープというより、甘み少なめのバウムクーヘン寄りともいえるかもしれません。仕上げには、お砂糖をふりかけるだけのこともありますが、ソースを添えることも。大抵はサックと溶かしバター、お砂糖で作ったソース。それにレモンの酸味を加えたりもします。まるでケーキのような見た目と食感になったパンケーキに、滴るソース。どこかで流行っている山のようなホイップクリームとベリーソースのパンケーキと対極にある、色合いも味わいもしっとりとした大人のパンケーキです。

 

シェリーとレモンのソースをかけるとまた大人の味わい☆

シェリーとレモンのソースをかけるとまた大人の味わい☆

「A Quire of Paper」~今回はなによりそのネーミングのセンスに心奪われたわけですが~
実は、ビートン夫人の家政書「Household Management(1861)」にもほぼ同じようなレシピが載っています。二つ載っているパンケーキのレシピのうちのひとつ、「Richer pancakes(よりリッチなパンケーキ)」と名付けられたそれは、 名前こそ違うもののほぼ前述のクワイアオブパンケーキ。配合も似ていれば、薄く焼いて間にお砂糖をふりながら重ねるところも同じ。一番違うのはその名前。そのレシピを試してみたくなるかならないかは名前によるところも、相当大きいということですね。
ということはこれまでスルーしてきたシンプルな名前のレシピの中にも、もしかしたらスペシャル美味しいレシピが隠れているかも? でも全てのレシピを試すには時間もお腹のキャパシティーも足りなさそう。。仕方ない、出会えるも、出会えぬもまた運命。数多あるイギリス菓子の中から、これからも何かしらアピールしてきてくれたお菓子たちを順次ご紹介していきます☆

Share.

About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

ウェブサイト ブログ

Leave A Reply

CAPTCHA