Sachi 幸
海外に住む日本人が、現地の和食レストランに求めるもの。人それぞれだと思います。故郷の味と懐かしさ。日本らしい雰囲気やおもてなし……。ただ日本外で独自に進化していく和食文化というのは確実にあって、ロンドンも例外ではありません。
ペルーのニッケイ料理やカリフォルニア文化の影響など、世界各地で新しいスタイルの和食がもてはやされています。日本食レストランと銘打つからにはあくまでも「日本らしさ」を追求するのですが、一方で現地の食材と嗜好を取り入れていくことも必須。何が「正統」か、もはや誰も何も言えない。現地の文化と融合し、その土地らしさが生まれたとき、その日本食レストランは「成功した」と言えるのではないでしょうか。
この7月21日にオープンしたばかりの和食レストラン Sachi は、そういう意味で「ロンドンらしさ」がキーだと思います。なぜってシェフたちが揃いも揃ってロンドンの日本食レストランの今を牽引する人気店の出身者ばかりなんです。しかもイギリスでもなんでもない、北欧とのフュージョンという、これまでにないコンセプトを体現しているから。なかなかロンドンっぽいでしょ? ^^
Sachiがあるのはこちらで〜す♪
ナイツブリッジの<北欧 x 日本>カルチャー・ビル、パンテクニコンの地下。ロックダウン前からジリジリと準備を進め、満を持してのオープンです!
パンテクと言えば、すでに北欧カルチャーを取り入れたレストランのEldrやRoof Gardenなどが先行オープンしているほか、1階には新オープンのSakayaバーなどもあり、全5フロアがそれぞれみっちりスタイリッシュで本当に素敵です。なにせ建物が1830年建造というパラディオ様式の壮麗さ。だからこそシンプル・モダンな<北欧 x 日本>テーマのインテリアが際立つのでしょうね。
Sachiの内装なんですけど、個人的に直球ど真ん中の好みでした^^ ここで食事をしている間中、不思議な心地よさに包まれていて・・・その感覚を分析してみようと思うのですが・・・写真をご覧いただきつつ、ちょっと言葉にしてみましょうか・・・
内装はパンテク・チームと、Café Kitsuneの時にもご紹介した日本の建築スタジオDEIKの協働で行われたそうです。長期にわたってデザイン・コンセプトを練って研究を重ね、ふさわしいマテリアルを選んで完成したのが、この素晴らしく日本的な空間美。天井が高いのですが、美しい木材を張って作られているため円やかさを感じます。全てが寸分の違いなく調和を保っている。むき出しのレンガも、水平さの実現に注力した家具類も、アートやデコレーションも。全てがあるべき場所に収まり、温かいハーモニーを奏でる空間は人のざわめきを画竜点睛として迎え入れるとき完成するのです。
お料理は、このレベルのレストランにしては若干リーズナブルに設定してあると感じました。もちろん素材はサセックスで育てている日本品種の有機野菜、ドーセットのわさび、スコットランドのマスなどをはじめ、地元産の最高級のものを使用。1ページに収められたシンプルなメニューに、シェフの意気込みを感じます。
ヘッド・シェフは高級和食 Diningsの厨房にいたカナダ人のコリン・ハドソンさん。日本でも修業されたことがあるそうです! 世界的に活躍するアーティスト、松岡亮さんのダイナミックな作品をバックに鮨を握る姿は、日本の寿司職人そのもの。あの独特のリズミカルな動きに惚れ惚れしました♡ エグゼクティブ・シェフのクリス・ゴールディングさんとともに取り仕切っておられるそうです。
お寿司はさすがにハイライト。ここまでで結構お腹が膨れていたのですが、じっくり味わいながらもパクパクっと美味しくいただいてしまいました^^ 大満足!
スペースは大きく4つに分かれています。寿司カウンターのあるメイン・ダイニング、その奥にある仕切りでプライベート利用ができる細長い空間、唯一自然光が入る回廊に並ぶ半個室、そしてバー・エリア。
実はこの日の連れが元ダイニングスのシェフで、Sachiのシェフやスタッフたちを知っていたので大同窓会のような様相を呈していたのがまた面白かったのです^^
ロンドンではNobu、Zuma、Roka、Diningsといった、モダン・ジャパニーズの英雄たちが業界を引っ張っり和食初心者への架け橋となっています。こういったファイン・レストランで経験を積んだシェフたちが切磋琢磨して入れ替わり、新たな地平を目指すことでロンドンの和食業界の質全体が向上していくのですよね。冒頭で「ロンドンらしさ」がSachiの持ち味だと書いたのは、そういう意味です。
もちろん、シェフたちはいったん一人立ちして自分のメニューを組み立てられるようになると、個性を発揮し、それまでやってみたかったことを形にしていくので、またまた新たな味が誕生するという仕組みです。Sachiのように北欧がテーマとして加えられると、またしても和食の幅が広がりますよね^^
もう一つ! アートやデザインがテーマのパンテクならでは、Sachiの玄関先を彩るアートもすごいものでした。現在、ミラノを拠点に世界的に活躍されているプラント・アーティストの川本諭さんの作品です!
グリーンがもつ本来の自然美と経年変化を魅せることが得意な川本さんの作品は、Sachiの入り口付近全体の空間をスタイリングしていました。自然・ナチュラルなどがキーワードの日本と北欧のカラーにぴったりの作品ですよね。段階を経て、何日もかけて丁寧に取り付けられたそうです! こだわりがそのまま美となって顕現しています。
パンテク内にはいろいろな飲食店が入っているのですが、その全ての空間デザインが、とびきり優れています。Sachiでは地下というロケーションを活かしつつ、最高に落ち着ける心地よさを創り上げたチームに拍手。またすぐに再訪したいお店です。