St Leonards セント・レオナルズ(閉店)
時代は変わる、レストランも変わる……ショーディッチの裏通りに佇むここは、かつてEyre Brothersというお気に入りのポルトガル・スペイン料理レストランがあった場所。少なくとも17年は営業していたと思うのだけれど、それが今年春、ついにクローズしてしまいました。このレストランは料理も好きでしたが、木材を上手に使ったシンプルで落ち着いた外観や内観が大好きで、大人のショーディッチを体現しているなぁと密かに感心していた場所でもあります。そこがクローズしてとても残念に思っていたら……次にオープンしたのがこちら、St Leonardsです。
通りの名前に引っ掛け、またすぐそばにある聖レオナルド教会から名前をいただき、ショーディッチの守護聖人を迎えてのオープン。嬉しかったのは、インテリアをほぼそのまま踏襲していたこと。もちろん細かいところは変わっていますが、広々としたミニマルな空間はそのままに、大好きだったミッドセンチュリー風の椅子を譲り受けていることと、レイアウトがほぼ変わっていないことで、受ける印象は“大人クール”なまま。ちょっぴり気軽なビストロ風タッチが施され、現代の風を呼び込んでいます。
さて、ここのシェフは南ロンドンのBrunswick Houseで働いていた同僚2人。8年の歳月の中でBrunswick Houseが大きく成長し、シェフたちにも注目が集まるようになって新しいプロジェクトへの希求が生まれてきてのスタートだったとのこと。Andrew ClarkeさんとJackson Boxerさんは二人とも今のロンドン・レストランの厨房を体現しているかのような若さと才能、そしてパッションを持っているお二人なんだなと感慨深くなります。
彼らのインタビューを読んでいると、これまでの人生が決して順風満帆ではなかったこともわかりますし、試行錯誤やプライベートでの思いなどを料理へと昇華していった軌跡も伺えます。シェフとしての矜持と才能、情熱のすべてを注ぎ込むことで生まれたイギリス人シェフの今を、ここでは味わえるようです。やっぱり料理って人間が生み出す芸術なんだなぁと、しみじみ^^ アンドリューさんの両腕にびっしり入ったタトゥーも、ロンドンのシェフ文化を物語っていますよね。今やロンドンのレストランはこういう若いシェフたちが中心となって盛り上げているのだと思います。
さて、お味ですが。今年訪れた庶民派・高級レストランいずれのレベルにおいてもトップクラスに美味しいです。それぞれプレゼンテーションを楽しみ、料理を口に運ぶと、食材選びや調理法、最終的な味や歯ごたえのフィニッシュまで、あらゆる側面に良い塩梅に配慮が行き届いていることがわかり、またそれが成功しています。繊細であると同時に、豪快さも感じられる。そんな生きた料理に出会える場所。
マグロのカルパッチョ風は、厚切りにした新鮮なマグロにピクルスしたキュウリとハーブソース、枝豆を合わせ、アクセントにクリーム系のソースを少し。マグロは上手に解凍されてあってまったりと美味しく、素晴らしいコンビネーションでした。スモークしたウナギとフォアグラ・カスタードという濃厚な一品は自分なら頼まないようなお皿だけれど、連れが選んでくれたおかげで彼らのスキルの一端を知ることができてよかった。フォアグラ・ベースの絹のように滑らかな茶碗蒸しを想像してみてください。そこに上品な燻製ウナギの小さなピースを散らして 、歯ごたえとしてパリパリのポークの皮が添えられています^^
メインとしていただいたのは「vegetable plate」と「tamworth chop」、つまり野菜の盛り合わせとポーク・チョップです。この野菜盛り合わせ(16ポンド)は、野菜好きなら注文マスト♡ この写真ではお分かりいただけないかもしれないですが、すごいボリュームで、5、6種類の野菜の炭火焼きをグリーン・ソースとともに、フレーバーマキシマムでいただけます。この日はタワシのような大きさに綺麗にトリミングされたアーティチョークが主役で、ほっこりとしたテクスチャーで食べ応えもたっぷり。その他の野菜も新鮮で彩りも美しく、豆が一緒にサーブされます。この一品があれば、前菜にもサイドに野菜はいらないほどのボリューム。野菜ラブな方はぜひ♪
一方のポーク・チョップはあくまでジューシーで、こちらもフレーバーが半端なく引き立っており、豚さんも豚冥利に尽きるだろうなぁと思える上等の出来栄えでした。26ポンドですが男性でも2人シェアで満足できそうな分量。女子なら3人くらいでシェアしてちょうど良い量かもしれません。
セント・レオナルズの料理を一言で表現するなら、「洗練されたコンフォート」。もちろんイギリス人が好きなコンフォート料理にマグロのカルパッチョやフォアグラのカスタードは含まれないかもしれないですが、メイン・コースは素材重視のシンプルさが際立つハートに響く料理たちです。モダン・ヨーロピアンの娯しみと、シンプル・ブリティッシュの愉しみ。両方を味わえる、イギリス人によるとっておきのレストランだと思います。