Brat ブラット
まずロケーションがいい。ショーディッチのスーパー・クールなRedchurch Streetの角地。その2階という隠れ家風情。渋めのインテリアも個人的には超好みでダークウッドを多用した落ち着ける空間です。
さながらショータイムといった趣の活気あるオープン・キッチンにも、ぐっと惹きつけられます。この日は今のロンドンにおけるトップシェフでもあるトモス・パリーさん自らが、火の魔法を操ってくださいました。
彼は2014年の英国の若手シェフに贈られるアワードを受賞して以来、レドベリー、リバー・カフェ、ノーマなど新しい厨房に入るごとに成長し、メイフェアのKitty Fisher’s ではキャメロン元首相も虜にした実力派シェフ。2018年3月、KilnやSmoking Goatなど2軒のレストランを大・大成功させているBen ChapmanさんとともにBratをオープンしたとき、シェフやフーディーの友人たちが我先にと訪れていたことも、今となっては懐かしく思い出されます。そんな彼らを横目でみつつも、なかなか予約も取れずという状況が続いていたのですが、コロナで予約枠にアクセスしやすくなったというわけ^^
お料理をいただいて驚きました。クオリティ高い! ここはトモスさんの好きなバスク料理を中核に据えたメニュー構成となっており、ピンチョス風のおつまみから直火グリル、そして後ほどあっと驚くことになるバスク風バーント・チーズケーキまで、一つひとつの料理が心地よく自らを主張し五感を刺激してくれて・・・私の中のロンドン・レストラン、トップ5に素早くランクインしてきたのでした。
メニューはもちろんその日の仕入れによって左右されます。でも定番品もちゃんとあります。濃厚な燻製タラコのディップをフィンガーサイズのパンにのせていただく定番おつまみは3本で4ポンドととってもお得。ウッド・ファイヤーで仕上げるグリル・ブレッドも定番品のはずです。その他、いい具合に焼き色がついたリークのサラダ、絶妙に火入れされたランゴスティンなど、火使いのマスターによる仕事はブレなく漏れなく美味なのです。
さ、ではいよいよ名物のお魚のグリルでもいただいてみましょう・・・
この日はレモンソールをメインにいただいてみました。シンプルに調理されたお魚は素材の持ち味が上手に引き出され、オリーブ・オイルと一緒にさっぱりといただきます。付け合わせとしてお願いしたチャードはこれまた火入れが完璧で歯ざわり良く味も良く、平凡に聞こえるミックス・サラダさえ、シャキーンとするようおそらく直前まで氷水につけられた後、葉っぱの隅々まで薄く特製ドレッシングでコーティングされるよう気配りされたプロの仕上がり。ミシュラン一つ星がついちゃった理由もわかりますね。
しかしバスク料理の矜持は最後の最後にやってきて、しっかり嬉しいとどめを刺してくれました。
プリンのように滑らかでシルキーだけれど、ベイクされたチーズケーキ本来の濃厚なテクスチャーを残し、均一に焦がした表面と周囲の歯ごたえが「ケーキ」の満足感を促してくれる。そんな完璧なベイクド・チーズケーキ。季節の桃のコンポートとの相性も抜群。「リピートしたい一品」があるって、レストランにとっては相当な強みです。Bratにおいては、間違いなくこのチーズケーキはその一品だと思います。
ところで我々がコーヒーを飲みながら「また来たいね〜」なんて話していると、私の斜め目の前から給仕の方が大皿を別のテーブルへと運ぶためにやって来ます。「あっ!」これはタルボットなのでは?
これを逃すまいと素早くカメラを向けると、給仕の方が親切にも一瞬止まってくださったではないですか。
実はBratの名物はこちらのタルボット=ヒラメの一種。Bratとは、イングランド北部、ノーサンバーランドにおけるタルボットの方言なんですって。つまりそれだけこの肉厚の高級魚への思い入れがあるということでしょうか。それとも直火でグリルするのに、これほど美味しく焼けるお魚はないってことなんでしょうか・・・^^
ともあれ、雰囲気も料理も、そしてデニムの給仕服で統一したスタッフの皆さんのフレンドリーさも、Bratを特別なレストランにしている要素であることに変わりありません。このカリスマがいつまでも続くといいな。