第104話 Iced buns/ Mothering buns/ Colston buns~アイストバンズ/マザリングバンズ/コルストンバンズ~

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okashi


<Iced buns / Mothering buns/Colston Buns  アイストバンズ/マザリングバンズ/コルストンバンズ>

イギリスの地元密着系パン屋さん~オシャレじゃないと言おうか、いえ失礼、ばりばりのフランス系じゃないってこと~でよく見かけるIced buns またはIced fingers。小型のパンに白またはピンクのアイシングがかかっていて、時には間にクリームやジャムがサンドされていたり、上にチェリーがのっていたりするレトロ感満載のパン。丸ければアイストバンで、細長ければアイストフィンガーと呼ばれるそれは食事パンというよりはお茶のお供。どこか昭和な風情のこの素朴で愛嬌があるパンを見ると思わず笑顔になってしまうのはわたしだけではないはず。

見ているだけで和むアイシングのかかった素朴なパン^^

見ているだけで和むアイシングのかかった素朴なパン^^

今日まずこのアイストバンズをご紹介したのは、次なる「Mothering buns (マザリングバンズ)」というパンをご紹介したかったから。これからいくつかパンをご紹介していきますが、それらはイギリス全国区のアイストバンズと違い、イングランド南西部Bristol という港町限定の地方パンです。まずは小型の丸いパンにアイシングとハンドレッズアンドサウザンズ(カラフルなプチプチシュガー飾り)がちりばめられたこちらがマザリングバンズ。

こちらもまたカラフルでキュートなマザリングパンズ☆

こちらもまたカラフルでキュートなマザリングパンズ☆

イギリスではイースター前のレントの期間に入って4週目の日曜日をMothering Sundayといって祝う習慣があります。詳しくはその時に食べる代表的なケーキ「シムネルケーキ」の時に説明しましたが、ブリストルではこのマザリングサンデー前の土曜日にこのマザリングパンズを食べる習慣がありました。でもちょっとこのカラフルなシュガーって今どきじゃない? と思われたあなた、そのとおり。昔はこのハンドレッズ&サウザンズではなくキャラウェイシードまたはアニシードのコンフィがアイシングの上にのせられていました。ここで思い出すのが、このブリストルのご近所の有名な町Bathの「バースバンズ」。あれにも昔キャラウェイシードのコンフィが入っていましたね。19世紀20世紀初頭まではパンにキャラウェイシードのコンフィを入れるのはとても人気のフレイバーだったそうです。ドライフルーツやマジパンたっぷりのリッチなシムネルケーキに比べると、プレーンな白い丸パンにアイシングとはいかにも質素なマザリングサンデー用のお菓子ですが、ブリストルのパン屋さんでこのパンが焼かれるのは、1年で本当にこの1日だけだったそうですから、スペシャル感では負けていません。カラフルなコロンとした姿はなかなか可愛いですし、普段よりちょっぴりお砂糖と油脂を加えてリッチにした生地にアイシングを施した甘いパンは、レントの節制期間中にしてみればうれしいご褒美です。シムネルケーキに押されて今ではほとんどその姿を見ることはなくなってしまいましたが、このキュートなマザリングバンズ、地元のパン屋さんにたま~に復活するとかしないとか、、。

スパイスとオレンジピール入りのStarvers はどこかホットクロスバンズにも似た香り☆

スパイスとオレンジピール入りのStarvers はどこかホットクロスバンズにも似た香り☆

さてイースターに関連したブリストルのパンがもうひとつあります。「Ha’penny Starvers」「Tupenny Starvers」と呼ばれるそれは、ブリストルにあるSt Michael on the Mount Without Church でイースターマンデーの次の火曜日に行われる礼拝で配られていたもの。もともとはイースターで引っ張りだこの聖歌隊の労をねぎらうために配られていたのが、のちに礼拝に参加した教区の人全てに配るようになったのだとか。ドライフルーツとスパイスが入った香りの良いこのパンはまずはお腹をすかせた聖歌隊がすぐに食べられるようにちいさなタイプのHa’penny Starvers 、そしておうちに持って帰って家族で食べられるように大きなタイプのTupenny Starversの二つが配られていました。最も古い部分は15世紀に建てられたというSt Michael on the Mount Without 教会、今は老朽化のためクローズしておりさらに昨年10月におきた火災では残念なことに一部焼失してしまいましたが、お隣にあるSt Michel on the Mount school では伝統が引き継がれ、子供たちに今もこのパンが配られているとのことです。

このパンが一人1つもらえたら嬉しいですね(^^

このパンが一人1つもらえたら嬉しいですね(^^

ところでブリストルではもうひとつ、前述のStarversとよく似た「Colsoton Buns」と呼ばれるパンが毎年11月にColston School の生徒たちに配られます。そのパンにもスパイスとシトラスピール、ドライフルーツ類がはいっており、やはり生徒たちがその場で食べる小さなものと、おうちに持って帰る用の大きなものとの2つ。小さいほうのコルストンバンズは単にStarvers あるいは Ha’penny Starvers と呼ばれ、大きなほうの別名はDinner plates 。こちらは8分割できるようになっているのが特徴でその名のとおりディナープレートサイズ。300年も続くこの伝統、子供たちはこの時10ペンス硬貨もパンと一緒にもらえたので(今の時代は分かりませんが)、まるでお年玉とお餅がもらえる年に一度のお正月のよう(^^)。このコルストンバンズの名前の由来はブリストルの貿易商Edward Colston(1636-1721)。当時のブリストルは西インド諸島などとの貿易で大いに盛り上がっていた時代。コルストンスクールは彼が貧しい100人の子供たちを集めて1710年に創設した学校で、毎年11月のCharter Day(ブリストルのMerchant Venturers Society が1639年にチャールズ1世から憲章を与えられたことを祝う日)の礼拝で、生徒たちにこのコルストンバンズが配られていたのです。なんでもEdward Colstonが子供の頃通っていたロンドンのChrist’s Hospital school では毎年イースターに Starver と呼ばれる小さなパンを配っていたらしく、そこからこの伝統が来ているのではないかと言われています。

今回ご紹介した3種類のバンズ、どれもブリストルの地に深く根ざしたものばかり。ここではブリストルの歴史や文化まで詳しくご紹介するスペースはありませんが(もちろんそんな知識もありませんが ^^;)、パンひとつ説明しようと思っただけで、大きな網の端っこの糸を手繰り寄せるように、気をつけないと話しがどこまでも広がっていってしまいそう。今日のところはこの糸は手放して、また違う甘い糸を探しに出かけましょう~☆

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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