第130話 Jumbles / Bosworth jumbles ジャンブルズ/ボズワースジャンブルズ

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イギリスおかし百科


<Jumbles/Bosworth jumbles ジャンブル/ボズワースジャンブル>

「Jumble=ごちゃ混ぜにする」。そんな名前のついた今日のお菓子は、なかなか長~い歴史を持つ、由緒正しき生まれのお菓子。Bosworth jubles(ボズワースジャンブル) という名でも呼ばれていますが、これは1485年、LeicestershireのBosworthで繰り広げられた、ランカスター家とヨーク家の有名な戦い「Battle of Bosworth(ボズワースの戦い)」に由来しています。この戦いで勝利を収めたランカスター家のHenry Tudor が後のイングランド王ヘンリー7世となり、テューダー朝の幕開けとなるわけですが~今日の主役「ジャンブル」は戦いに負けたヨーク家のリチャード三世のお気に入り。この戦で戦死したリチャード三世や彼のお抱え料理人と共にボズワースの戦場で見つかったのがこのビスケットのレシピだったと言われています。

現代版ジャンブルはS字シェイプのビスケット☆

現代版ジャンブルはS字シェイプのビスケット☆

現代のレシピではjumble(ごちゃ混ぜにする)という名のとおり、材料を全て混ぜ合わせて生地を作り、棒状にのばしたそれをS字型に形作ってオーブンで焼くというもの。材料も、バターにお砂糖、卵に小麦粉、それにレモンの皮で風味付けという、リッチで食べやすい配合のビスケットタイプのことが多いのですが、リチャード三世がお気に入りだったという当時のものとは大分違うようです。

昔のジャンブルは形が凝っています☆

昔のジャンブルは形が凝っています☆

今のところ見つかっている中で最も古いジャンブルのレシピのひとつとされているのがThomas Dowsonによる「The good Huswifes Jewells(1585)」のもの。これによると~20個の卵に1パウンドの砂糖、1/4ペック(1peck=8quart)の小麦粉で生地を作り、それにアニシードを加えて長く伸ばしたら、結び目をつくり、その両端にはローズウォーターを塗ってしめらせてつないでおきます。お鍋にお湯を沸かしてこれを茹で、布にのせて水気を切ったら、オイルを塗った天板にのせてオーブンで焼きましょう~というもの。現代版との大きな違いは、香り付けにアニシードを使うこと、一度焼く前にゆでる点、そして形。この後も多くの本にジャンブルは載っているのですが、それぞれ少しずつ違っています。スペルもJambles、Jumbals,、Jumbolds・・・などなどいろいろなのですが、例えば1672年の「The Queen Like Closet or Rich Cabinet」Hannah Wolley 著に登場する「Jumbolds」 はキャラウェイシードとコリアンダーシード、アニシードにローズウォーター入りで、茹でずにオーブンで焼くだけ。形は Tie them in Knots となっているので、やはり結んだ形。焼く前にゆでるタイプのもは初期の間だけで見かけなくなるのですが、このKnot(結び目)というのはジャンブルの特徴として、この後もつづいていくため、S字シェイプが主流となった今もジャンブルはKnots(ノッツ)と呼ばれることも。さて、その結び方ですが、ダブルノッツと呼ばれる二回結びからいわゆるプレッツェル形、迷路のように複雑に組まれたものものまで、形は実にさまざま。あまりに難しく組んでしまうと茹でるのは一苦労ですが、ただオーブンで焼くタイプなら相当凝っていてもいけたでしょう。

下の写真の上2つが茹でてから焼いたもの、下ふたつがただ焼いたもの。

下の写真の上2つが茹でてから焼いたもの、下ふたつがただ焼いたもの。

18世紀にもっとも人気があったというジャンブルはかなり硬く焼き、ワインとともに供することが多かったよう。ヴィンサントに浸して食べるイタリアのビスコッティーのような感覚。このように硬く焼きしめられたビスケットは長い移動に最適、そのため似たようなタイプのビスケットはイタリアはじめヨーロッパ各地で見受けられます。先ほど、このジャンブルと言う語には、「ごた混ぜ」という意味があると言いましたが、実は名前の由来は別にあります。Twins(双子)を意味するラテン語のgemellus、これが語源と言われています。やはり同じ語源を持つものにgimell ring(二つのリングが組み合わさった形の指輪)がありますが、これは15~16世紀当時の権力者の象徴。そして砂糖やスパイスも同じく富裕層しか手に入れることの出来なかった富の証。このジメルリング、ジャンブル共にその形からついたラテン語ベースの名前なのでした。

そう言えば、先ほど言及するのを忘れていましたが、あの一度茹でるタイプのジャンブル。これが思ったより美味。お湯に入れるとむにゅっと膨らんで、まるで生茹での太いうどんの様な見た目になりますが、その後オーブンで焼くと、表面が張って、まるでベーグルのような肌艶感。ただ焼いたものより若干歯ごたえが増し、これは日持ちしそう。そうですよね、イーストこそ入らないものの、茹でて焼くという手法はベーグルと一緒ですから。キャラウェイの香りも、好みはありますが、わたしは好きなので問題なし。日持ちしそうなんて言っておきながら、あっという間にどこかに消えてしまいました。薔薇戦争に思いを馳せながら(お勉強しなおしながら)、ワインと共にゆっくりいただこうかな、なんて思っていたはずなのに(笑)

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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