第199話 Vegetable plum pudding~ベジタブルプラムプディング~

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<Vegetable plum pudding  ベジタブルプラムプディング>

今年最初のお菓子はちょっとヘルシーにお野菜を使ったプディング。
イギリス菓子にはキャロットケーキやズッキーニケーキを筆頭に、ビーツやパースニップなどお野菜を利用したお菓子が沢山ありますが、なにもそれは現代のヘルシー志向、ヴィーガンブームなどに始まったことではありません。お砂糖はじめ、食料がひっ迫していた戦中戦後の食糧配給時代や、もっと昔のヴィクトリア時代、それ以前から庶民の間ではお野菜をデザート用のプディングを作る際に利用してきました。
それはきっと、お砂糖や蜂蜜などの甘味料を手に入れづらかったから、ボリュームをアップさせたかったから、ただそれだけではなく、味、栄養面でも入れる価値があると思っていたから。

 

甘いプディングとは思えない材料です☆

レシピ本というとプロの料理人向けのものが主流だった時代、家庭の主婦向けに、実用的でお財布に優しく、かつ健康にも良い料理を集めたイライザ・アクトンのレシピ本「Modern Cookery for Private Families(1845)」に登場する、「Vegetable plum pudding」が今日ご紹介するプディング。
前回もご紹介しましたが、これまでプラムプディングと呼ばれていたレーズンなどのドライフルーツがぎっしり入ったプディングを「クリスマスプディング」と最初に呼び代えたのがイライザ・アクトンと言われています。この本にはクリスマスプディングと名の付いたものが2種、プラムプディングと名の付いたものが2種載っており、この「べジタブルプラムプディング」がそのひとつ。
タイトルの後ろには(cheap & goodお安く出来て美味しい!)とも添え書きがありますから、これは作らないではいられません。どれどれ、、

 

どろどろの生地を布に包み、お湯にドボンとつけて茹で上げます

「1パウンド(450g)のマッシュしたポテトに、同じく茹でてペースト状につぶした人参半パウンド、1パウンドの小麦粉に、カランツとレーズンをそれぞれ1パウンドずつ、3/4パウンドのお砂糖に半パウンドのスエット、ナツメグ一個に、塩小さじ1/4を混ぜ合わせて、しっかり粉をふった布に包んで4時間茹でましょう。」となっています。
要は食事で残ってしまったマッシュポテトや人参に小麦粉やドライフルーツ、お砂糖を足して、今度はプディングにしてしまおう!そんなレシピ。主婦としてはなんとも大助かり。さて、レシピには続きが。
「材料代はハーフクラウン以内に収まり、かつ16人分は優にあります。とても優れたプディングなのですが、布から出す時に崩れやすいので、卵を数個加えるとさらによくなります。冷たくても美味しく、砂糖漬けのフルーツやブランデー、スパイスなどを加えてみるのもいいでしょう。」

なんて優しいレシピでしょう。定型どおり型にはまった、ただ材料と作り方が理路整然と並ぶレシピ本よりずっと魅力的です。例えきれいな挿絵や写真がなくとも(ないからこそかな)、想像が膨らんで作ってみたくなってしまいます。出来上がりが正解かどうかは怪しい場合もあるけれど(笑)。

 

茹で上がりは大きな大きなダンプリングのよう☆

ちなみにクラウンとはイギリスの古い通貨単位で、1クラウン=1/4ポンド=5シリングのこと。当時、労働者の週賃金は工場労働者などが18~21シリング、大工や機械工など技術のある労働者で週40シリング程だったといいますから、レシピ本を買える程度の生活水準の人たちにとっては「お安い」プディングだったのでしょう。
さて、肝心のお味の程は~

恐る恐る食べてみたのですが、なかなかいけます。ちなみに今回は半分量でかつ、卵を一つ加えて作ってみました。マッシュポテトがしっとり感とつなぎの役割を果たして、ドライフルーツがプラムプディング感を演出。確かに茹で上がりもマッシュポテトの香りはかすかに残るので、アクトンさんのアドバイスのように、ミックススパイスかブランデーを足すとさらにいつものプラムプディングに近づきそうです。いつもはパン粉が入るところをじゃが芋と人参で置き換え、当時値の張った卵を減らしたこのプディング、栄養もあるし、ボリュームアップは図れるし、いいことづくし。さすがに前回ご紹介したクリスマスプディングに比べるとリッチ感は減るものの、これはこれで充分満足できるプディングです。お味も、お財布にも優しいプラムプディングと言ったところ。どっしりして食べ応えはありますが、冷めてからも他のプディングより、じゃが芋のおかげか固くなりづらいようです。

じゃが芋も人参も特に違和感のない優しい甘さのプディングです☆

ところでこういった、ボイルドプディングと呼ばれるお湯にドボンとつけて茹でるタイプのものは、布から出したばかりの時は、布にふるった粉やプディングの表面の生地が水分を吸ってベトベトしているのですが、しばらくするとふやけていた部分がだんだん乾いて多少色が濃くなってきます。当時は炉の火の前において乾かしたりしたようですが、今ならオーブンにちょっと入れて乾かしても。暖房も調理も兼ねた一つの炉の火に、大きな鍋をつるし、プディングも、お肉も、野菜もそれぞれ包んで入れておけば、一度にすべてが調理できるというわけです。

軽い食感が好まれる飽食の現代、こういったずっしりとしたボイルドプディングは消えつつありますが、たまになら、特に今日のように凍えるほど寒い日なら悪くありません。温まるのは胃袋だけでなく、なにせ4時間も蒸気が上がっているので部屋はポカポカ。かつ外に出掛けずしてイギリスのしかもヴィクトリア時代の食卓にタイムトラベルできるのですから。

VEGETABLE PLUM PUDDING. (Cheap and good.)

Mix well together one pound of smoothly-mashed potatoes, half a pound of carrots boiled quite tender, and beaten to a paste, one pound of flour, one of currants, and one of raisins (full weight after they are stoned), three quarters of a pound of sugar, eight ounces of suet, one nutmeg, and a quarter of a teaspoonful of salt. Put the pudding into a well-floured cloth, tie it up very closely, and boil it for four hours. The correspondent to whom we are indebted for this receipt says, that the cost of the ingredients does not exceed half a crown, and that the pudding is of sufficient size for a party of sixteen persons. We can vouch for its excellence, but as it is rather apt to break when turned out of the cloth, a couple of eggs would perhaps improve it. It is excellent cold. Sweetmeats, brandy, and spices can be added at pleasure.
Mashed potatoes, 1 lb.; carrots, 8 oz.; flour, 1 lb.; suet, \ lb.; sugar, lb.; currants and raisins, 1 lb. each; nutmeg, 1; little salt: 4 hours.

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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