第203話 St.Edmund’s buns ~セントエドマンドバンズ~

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<St Edmund’s buns セントエドマンドバンズ>

11月20日はSt Edmund’s Day(セントエドマンズデイ)。
今日はこの日に伝統的に食べられていたSt Edmund’s buns(セントエドマンドバンズ)について。

イギリス南東部サフォーク州、ロンドンから電車で1時間半ほどのところに、Bury St Edmunds(ベリーセントエドマンズ)という名の町があります。この町で昔から作られてきたのが、セントエドマンドバンズまたはSt Edmund’s Suffolk buns(セントエドマンズサフォークバンズ)と呼ばれるバンズ(小型パン)。今では滅多に作られることもなくなり、ベリーの町に行ってもなかなか出会うのは難しいようですが、レシピを調べていくと大きく分けて2タイプあります。ひとつはイーストを使うパンタイプ、もうひとつはベーキングパウダーで膨らませるスコーンタイプ。なんだかどちらも美味しそう!

スコーンタイプのほうはキャラウェイシード、あるいはカランツが入るのですが、ちょっと面白いのは粉のうち1/3量ほどライスフラワー(米粉)が入る点。そのためスコーンほどは膨らみがなくどっしりとした食感に。そしてまだ焼き上がりの温かいうちに、表面に蜂蜜を上に塗って仕上げます。

ちょっと重めのスコーン的な食感のベーキングパウダーバージョン

イーストタイプも作ってみます。
こちらはミックススパイスとサルタナなどのドライフルーツ入り。ほぼホットクロスバンズのクロスなしバージョンといったところ。こちらも焼き上がりはグレーズで仕上げるため、表面はぺたぺた。そのため、どちらのタイプも簡単に「スティッキーバンズ」と呼ばれることも。
真偽のほどは定かではありませんが、このバンズが聖エドモンドと結びつけられた訳は、実はこのスティッキーさにあると言います。なんでも、彼のsticky end(むごい死に方)を表しているというのです。

お決まりはつやつやのグレーズ☆

ここでちょっと簡単に聖エドマンドについて。
彼の別名はエドマンド殉教王。
855年エドマンドは弱冠14歳にしてイーストアングリアの王位につきます。そしてその14年後の869年、ヴァイキング率いる大異教軍に捕らえられ、拷問の末に悲惨な最期を遂げます。最後までキリスト信仰を貫き、殉教者として殺されることを選んだエドマンドは後に列聖され、イングランドの守護聖人となります。今でこそイングランドの守護聖人は聖ジョージですが、それはエドワード3世(1312-1377)が変えたこと、それ以前は聖エドマンドがイングランドの守護聖人だったのです。

まるでハリネズミのように体中に矢を受けたうえに首をはねられるという凄惨さとその信仰の深さ、彼のはねられた頭部は味方が見つけるまでオオカミが守っていたという伝説などエドマンドを巡る物語は非常に人気があり、彼が埋葬されたBeadoriceworth(後のBury St Edmunds)の墓は人気の巡礼地となります。

バターをたっぷり塗って、お茶のお供に朝食に。

食糧難に陥った戦中戦後期に一度忘れ去られてしまったこのセントエドマンドバンズですが、セントエドマンド教会では1988年より再び、11月20日にSouthwold小学校の子供たちにこのお菓子を配り始めました。Sticky Bun Service と名付けられたその日、子供たちは地元イーストアングリアの若き殉教王について学び、甘いご褒美を貰えます。
美味しいお菓子と結びついた幼少期の思い出は自然と記憶に残るもの。こういう行事を続けていくことが、生まれ育った地の歴史や食文化についてしっかり語れる大人を作る大事な一歩なのかもしれません。

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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