第200話 St. Clement’s Cake~セントクレメントケーキ~

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<St. Clement’s Cake セントクレメンツケーキ>

 

毎年3月の第三木曜日は「オレンジ&レモンデイ」。今年は今日16日(木)。
この日が祝われるようになった始まりはロンドンのSt. Clement Danes 教会によるところが大きいとされています。

セントクレメント教会と聞いてイギリス人が真っ先に頭に浮かべるのは、街に鳴り響く鐘の音とオレンジとレモン。というのも、イギリス人ならだれもが子供の頃に歌ったであろうナーサリーライム(マザーグース)に「Oranges and Lemons(オレンジとレモン)」というものがあるから。

Oranges and lemons, オレンジとレモン
Say the bells of St.Clement’s 鐘を鳴らすよセントクレメント

とはじまるこの童謡、日本の「とおりゃんせ」のような遊び歌にもなっています。二人が手をつないで作ったアーチの下を次々と子供たちがくぐりぬけていき、歌の最後でアーチが下された時に捕まった子が抜けていく~という遊び。何度も何度も繰り返される歌詞とぐるぐると回る動き、オレンジとレモン=セントクレメント教会という言葉が脳に刷り込まれるのも当然といえば当然のこと。
とおりゃんせ同様にちょっと不気味なその歌詞中では、ロンドンに沢山ある教会の鐘が擬人化され、おしゃべりをしながら鐘を鳴らします。

Oranges and lemons, 「オレンジとレモン」
Say the bells of St.Clement’s 鐘を鳴らすよ セントクレメント

You owe me five farthings, 「お前に5ファージングの貸しがある」
Say the bells of St Martin’s. とセントマーティンが鐘を鳴らす

When will you pay me? 「いつになったら返すつもりだ?」
Say the bells of Old Bailey. とオールドベイリーが鐘鳴らす

When I grow rich, 「お金持ちになったらね」
Say the bells of Shoreditch. とショーディッチが鐘を鳴らす

When will that be? 「それはいったいいつなんだい?」
Say the bells of Stepney. とステプニーが鐘鳴らす

I’m sure I don’t know, 「そんなの分かるわけがない」
Says the great bell at Bow. とボウが鐘鳴らす

Here comes a candle to light you to bed, さぁお前をベッドへと導くろうそくが来るぞ
Here comes a chopper to chop off your head. さぁ首切り役人がお前の首をちょん切るぞ
Chop, chop, chop,…..chop!  チョキン、チョキン、チョキン…チョキン!

 

実はロンドンには我こそがと名乗りを上げているセントクレメント教会が二つあります。一つが前述の St. Clement Danes教会。この教会はオレンジ&レモンの曲が鐘で奏でられることで知られています。1920年改修を終えた教会の鐘を祝して、教会をオレンジとレモンで飾り、特別な礼拝が行われました。この礼拝の後子供たちにはオレンジとレモンが配られたのですが、これが「オレンジ&レモン礼拝」と呼ばれ、その後も毎年続いていきます。その昔テムズ川から荷下ろしされた柑橘類を、この近くにあったクレアマーケットに運ぶ途中ポーターたちがオレンジやレモンを人々に手渡ししたのが起源とも。
そしてもう一つ、我こそがと主張している教会が、ロンドンブリッジにもほど近いSt. Clement Eastcheap教会。この辺りは中世の時代からロンドンの中心として賑わっていた辺りで、イーストチープのcheapは古英語でマーケット(市場)の意味。地中海沿岸より輸入されたオレンジやレモンはこの教会そばにあったテムズ川の船着場から運びこまれ、ここからロンドン中に卸されていたのだそう。そういった理由からこのイーストチープの教会を「オレンジ&レモン」の歌詞に登場するセントクレメント教会とする説が有力なようです。

 

茹でたオレンジとレモンで作るタイプはまるでプディングのような食感☆

で、いつお菓子が登場するの?と言われそうなほど前置きが長くなってしまいましたが~
今日のお菓子は「セントクレメンツケーキ」。
上記の理由から、セントクレメントといえばもう誰もが頭に浮かべるのは「オレンジ&レモン味」。セントクレメンツジュースといえばオレンジ&レモンのジュース、セントクレメンツマーマレードといえばオレンジとレモンのマーマレード、セントクレメンツケーキはオレンジとレモンのケーキです。

このケーキにはこうでなくてはいけないという決まったスタイルがあるわけではなく、とにかくオレンジとレモンを使っていればOK。パウンドケーキのようなローフ型の時もあれば、クリームがサンドされた丸いケーキの時もあります。とは言え、おそらくもっとも多いのはオレンジとレモン両方の果汁を染み込ませたドリズルケーキタイプ。両方の柑橘を使うことで、レモンドリズルケーキより酸味は穏やかで、オレンジの香りが漂うしっとり食べやすいケーキになります。他にも、ヴィクトリアサンドイッチのようにスポンジケーキにオレンジ&レモン風味のバタークリームをサンドしたものもありますし、丸ごとボイルしたオレンジやレモン(またはクレメンタインという小型のオレンジ)をフードプロセッサーにかけピュレ状にしたものをたっぷり加える「ボイルドオレンジケーキ」タイプなどもあります。

 

ドリズルタイプはやっぱり王道の美味しさ☆

今日は数あるセントクレメンツケーキの中から、簡単で美味しいレシピをご紹介します。国産のまたはノーワックスの美味しそうなオレンジとレモンを見つけたら是非作ってみてくださいね。

<セントクレメンツケーキ>

① ボールに薄力粉175gベーキングパウダー小さじ2を合わせてふるい入れます。すっと指が入るほどに柔らかくした無塩バター125gグラニュー糖150g、室温に戻した卵2個牛乳大さじ4レモンとオレンジの皮のすりおろし各1個分をボールに加えます。
ハンドミキサーで全体が均一で滑らかな生地になるまで攪拌します。

② オーブンペーパーを敷いた丸型(直径18㎝)に流し入れ、170℃に予熱したオーブンで50分程焼きます。

③ オレンジの果汁1個分レモンの果汁1個分(アイシング用に小さじ2はとり置く)グラニュー糖70gを小鍋に入れて火にかけ、2~3分ほど静かに沸騰させて軽く煮詰めます。②のケーキが焼きあがったらすぐに竹串でぷすぷすと穴をあけ、熱いうちに刷毛でシロップを染み込ませます。

④ ③のケーキが冷めたら粉砂糖50gレモン果汁小さじ2を加えてゴムベラでよく練り、固めのアイシングを作ります(ゆるい時は粉砂糖を、固い時はレモンまたは少量の水を加えて調節を)。
細く線を描くように上からアイシングを垂らして出来上がり。
アイシングをたっぷりかけたいときは量を増やしてくださいね。

 

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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