<Yorkshire curd tart ヨークシャーカードタルト>
イングランド北部、ヨークシャー地方のお菓子。名前のとおり、ヨークシャーのカードチーズを使ったタルトです。ショートクラストペストリーというプレーンな生地をケースとし、フィリングはカードチーズにバターに卵、カランツやオレンジピールなどのドライフルーツを混ぜ合わせたもの。風味付けにはレモンの皮、あるいはオールスパイスやナツメグなどのスパイスを加える人も。お砂糖はわりと控えめでイギリス菓子にしては珍しく(?)さっぱりしたお菓子です。
ところで、メイン材料のカードチーズ(Curd cheese)ですが、「Curd=凝結させる」という意味どおり、乳に酸や酵素を加えて凝固させたもののこと。これに塩を加えて熟成させればいわゆるナチュラルチーズになるし、そのままカッテージチーズのように食べることもあります。ヨークシャーと言えば大きな国立公園二つを抱えた風光明媚で自然が豊富な地方。牧草も豊富で酪農が盛ん。昔は牛を飼う家庭も多かったそうで、チーズを作る際に余ってしまったカードを使ってよくこのタルトを作っていたとか。17世紀半ば頃にはもうすでに存在していたようです。ただし、この頃のレシピでは風味付けに使われていたのはローズウォーター。今でこそおしゃれに聞こえるローズウォーターですが、イギリスではエリザベス朝の頃にはすでに一般的なものだったとか。確かに、バニラやレモンをイギリスで手に入れるのは難しくとも、バラの花ならいくらでもありますものね。。
さて話を戻して、このヨークシャーカードタルト、当時はWhitsun(聖霊降臨祭)に作られるお菓子だったとか。Whitsunとは十字架上で受難を受けたイエスが復活した後、40日間弟子たちと過ごして昇天し、その10日後(つまり復活の後50日後)に聖霊が降りてきたことを記念する日。今でこそ特別に祝う人も少なくなってしまったようですが、Whitsun またはペンテコステとも呼ばれるこの日の翌日は、イーターマンデーが祝日のように、Whit Monday として40年ほど前まではイギリスでも移動祝祭日でした。~と話しが少々長くなってしまいましたが、この季節はちょうど子牛たちが生まれるシーズン。そのためお母さん牛達はせっせと母乳をだし、人間たちはせっせとチーズを作り、あまったカードでカードタルトを作るというわけです。中でもスペシャルなカードタルトというものもあり、なんでもそれは子牛を生んだ後すぐの初乳を使って作ったカードで作られたものだったとか。栄養と脂肪分に富むという初乳、、せっかくの赤ちゃん牛のためのスペシャルドリンクがカードタルトに、、、ちょっぴりかわいそうな気もしたりして(^^;)
このカードチーズ、カッテージチーズと似ていますが、ヨークシャーの人に言わせると、このタルトには「カッテージチーズではなくカードチーズじゃないとおいしく作れないのよ」との事。新鮮なカードチーズが手に入らないのなら、手作りが一番だそうです。温めた牛乳に、レモン果汁、あるいはレンネット(チーズ作りに使う酵素)、そして私が教えてもらったのはエプソムソルトを入れる方法。いずれもホエーとカードに分離するので、水気を切って使用します。
脂肪分の少ないカードを使う分、軽くて食べやすいお菓子なのですが、なぜかヨークシャー以外ではあまり見かけないのが少々残念。地元ではティールームでもベーカリーでも大小さまざま沢山売られているのですが。。。つぶつぶっとした表面が特徴の素朴なカードタルト、ヨークシャーにお出かけの際は是非お試しを☆