第53話 Bread pudding ~ブレッドプディング~

0

okashi


<Bread pudding ブレッドプディング>

「ブレッドプディング」。固くなってしまったパンの美味しい再利用法として、昔から作り続けられてきたトラディッショナルなプディング。小さくちぎったパンに卵や牛乳、お砂糖を混ぜたカスタード液を流して染み込ませ、バターやドライフルーツ、スパイスなどを好みで加えてオーブンで焼いたもの。焼き上がりはブレッド&バタープディングよりも水分が少なめでしっかり固まっているので、お店では切り分けて売られていることもよくあります。ずっしりとお腹にたまり、スパイスも効いたそれは、寒い冬凍えてお腹ペコペコで外出から戻った時のおやつにまさにぴったり。かなり素朴で懐かしい味わいです。
breadpud1

これまでご紹介してきた「クィーンオブプディング」「アップルシャルロット」「サマープディング」他パンを再利用するプディングはパンの歴史とともに昔から数え切れないほどあるのですが、パンをちぎって卵や牛乳と混ぜて加熱するというこのブレッドプディングが一番シンプルなタイプ。そのため上記のプディングたちよりさらに古くから存在します。ただしオーブンが普及する前は、かまどに火を炊き、その上に鍋を吊るしてゆでるか蒸すかが基本の調理法だったため、はじめはこのブレッドプディングも茹でるか、蒸すという加熱法でした。

パンは小さくちぎって使うので、ブレッド&バタープディングとはまたぜんぜん違った食感に☆

パンは小さくちぎって使うので、ブレッド&バタープディングとはまたぜんぜん違った食感に☆

Hannah Glasse 著の「The art of cookery made plain and easy(1747)」には3つのブレッドプディングのレシピが掲載されています。まずは基本の「Bread pudding」から~パンは耳をカットし、温めた牛乳に浸したら、卵、少量の砂糖と塩とバター、ナツメグとローズウォーターを加えてよく混ぜて30分茹でること~ととてもシンプル。お次のちょっと上質なブレッドプディング「Fine bread pudding」と題されたそれは~牛乳がクリームに代わり、茹でたビターアーモンドをペースト状にして、ローズウォーターと合わせたものを風味付けに使い、さらにサーブする際はバターとワインで作ったソース、そしてお砂糖を全体にかけること~大分ランクアップしていますね。最後に「Ordinary bread pudding」と名づけられたそれは~パンの耳もつけたまま、卵の個数も減り、お砂糖もなし。茹で上がりに少量の溶かしバターとお砂糖で仕上げという、非常にエノコノミカルなプディングとなっています。しかし、さらにさらに質素に徹した驚きレシピも。それが「Boiled loaf」。それは小さなローフ状のパンに熱した牛乳半パイントを注ぎ染み込ませたら、布に包んで15分熱湯でゆでるというもの。あまり茹ですぎるとパンが崩壊してしまうので要注意。さっと茹でたパンにお砂糖と、ワインか溶かしバターあるいはローズウォーターを少量たらして召し上がれ~牛乳すら使わずお水を染み込ませて茹でるというレシピもあるこの「茹でパン」。はたしてどんなお味なのでしょう、、、。

しっかりずっしりした焼き上がりなので、ティールームやベイカリーではカット売りしていることも☆

しっかりずっしりした焼き上がりなので、ティールームやベイカリーではカット売りしていることも☆

現代のレシピ本と違い、昔のものは出来上がりの写真がないため、味や姿が想像できないものほど作って確かめたくなるのですが、そのレシピの名前が面白いが故に作ってみたくなるものもあります。それがEliza Acton (1799-1859)のブレッドプディングたち。「The poor author’s pudding」「The printer’s pudding」「The publisher’s pudding」。どれもブレッドプディングの名前なのですが、「貧しい執筆家の~」、「印刷屋の~」、「出版者の~」の順に材料がリッチになっていくという、実にウイットに富んだネーミング(笑)。これらのブレッドプディングのレシピが載っているのが「Modern cookery for private families(1845)」。有名なビートン婦人の「Household Management(1861)」に数年先んじて出版されたこの本は、レシピとは別枠に材料の分量と調理時間などを示したイギリスで最初の調理本と言われています。今でこそ当たり前の材料の分量表示ですが、昔のイギリスのレシピ本はずらずらと調理法が書かれている中に簡単な分量がかかれているだけだったものですから、当時としてはとても画期的で分かり易いと評判になったのです。もともとは詩人として詩集を出版していたエリザ・アクトンですが、イギリス料理本の礎を築いた人物として今はその名を残しています。想像を働かせてお菓子を作るのも楽しいのですが、彼女のレシピ本だけは、出来上がりの写真があったらどんなにうれしいだろうといつも思ってしまいます。

 

Share.

About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

ウェブサイト ブログ

Leave A Reply

CAPTCHA