第62話 Canary pudding & Sponge pudding ~カナリープディング&スポンジプディング~

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okashi


<Canary pudding & Sponge pudding  ~カナリープディング&スポンジプディング~>

前回、プレーンなケーキの代名詞的存在として、「マデイラケーキ」をご紹介しましたが、今回はほぼ同じようなプレーンな生地を、オーブンで焼くのではなく、蒸して作るお菓子をご紹介します。その名は「カナリープディング」。配合も作り方もマデイラケーキとほぼ同じ、バターにお砂糖、卵に粉の基本の生地に香りづけのレモンの皮を加える点も一緒。唯一違うのは加熱法。プディングベイスンという陶器の型に入れてお鍋で蒸し上げます。しかもマデイラ島のご近所の島、カナリア諸島(Canary Islands)を思い起こさせるこの名前。何かマデイラケーキとも関係あるのかしら?と思うところですが、そんな暇なことを考えている人はどうやら私の他にはいないよう、、、。マデイラケーキ同様その名が冠せられてはいるもののカナリア諸島生まれのケーキではなく、その名前の由来はカナリアはカナリアでも「鳥のカナリアのように黄色いから」というのがもっぱらの定説です。でも黄色いものなんて他にもいくらでもあるし、イギリスのケーキとカナリアという組み合わせがどうもしっくり来ないのは私だけではないようで、一説によると昔のカナリープディングはカナリア諸島で作られるマデイラ酒のような酒精強化ワインで風味付けされていたからこの名がついた~という人も。

ビートン婦人レシピで作ったカナリープディング☆

ビートン婦人レシピで作ったカナリープディング☆

さて、そんな名前の由来はともかく、このカナリープディング、今は「スポンジプディング」と呼ばれることがほとんど。配合はヴィクトリアスポンジのようにバター・砂糖・卵・粉同割りのこともあれば、マデイラケーキのように粉が多めのこともありますが、いずれそういったスポンジ生地を蒸して作ったものが「スポンジプディング」。器の底にジャムを敷いておけばひっくり返したときにジャムがたらりとたれる「ジャムスポンジプディング」。それがゴールデンシロップになれば「シロップスポンジプディング」または「トリークルプディング」。バリエーションは星の数ほど。レモンカードを敷けば「レモンカードスポンジプディング」、カランツを底に敷き詰めてからスポンジ生地を流せば、お皿にひっくり返したその見た目から「Black cap sponge pudding」と呼ばれたり、とにかく枚挙に暇がありません。

何とあわせても、蒸すからこそのふんわり優しい味に☆

何とあわせても、蒸すからこそのふんわり優しい味に☆

生地を蒸すための陶器のプディングベイスンが使われるようになったのが17世紀。それまではプディングクロスと呼ばれる布で生地を包んで、茹でるか蒸すかという調理法。それと比べると格段に便利に、格段に姿よくプディングを作れるようになったわけです。しかもスエットの代わりにバターを使ったこの生地はスポンジと呼ばれるように軽~い仕上がり。ヴィクトリア時代には一世を風靡します。ではここでビートン婦人の家政書(1861)のレシピに従って当時のカナリープディングを作ってみましょうか。

CANARY PUDDING

Inglidients- The weight of 3eggs in sugar and butter, the weight of 2 eggs in flour, the rind of 1 small lemon, 3eggs.
Mode- Melt the butter to a liquid state, but do not allow it to oil; stir to this the sugar and finely- minced lemon-peel, and gradually dredge in the flour, keeping the mixture well stirred; whisk the eggs; add these to the pudding; beat all the ingredients until thoroughly blended, and put them into a buttered mould or basin; boil for 2 hours, and serve with sweet sauce.
(材料― 卵3個分の重さの砂糖とバター、卵2個分の重さの小麦粉、小さなレモン一個分の皮、卵3個。作り方―  バターを溶かし(オイル状にならない程度)、砂糖とレモンの皮を加え混ぜ、粉を徐々に加えます。溶いた卵も加え全てよく混ざったら、バターを塗った型に入れます。2時間茹で、甘いソースを添えて供します。)

さてこのとおりに作ってみると~ベイキングパウダーが入らないので今の時代のスポンジプディングと比べると大分締まった食感。それでもスポンジはスポンジ、当時にすればこれでも充分な軽さでしょう。

お手軽スポンジプディングは電子レンジで温めるだけ☆

お手軽スポンジプディングは電子レンジで温めるだけ☆

長い間イギリスの家庭で愛され続けてきたスポンジプディング。時代の流れとともに20世紀中頃には缶詰のプディングが生まれ、1990年代には電子レンジで温めるだけで食べられるスポンジプディングが登場しています。こうしてどんどん手軽になり、さらに人気も上がるのかと思いきや、ライバル出現。1980年代頃からはチーズケーキやティラミス、パンナコッタやタルト・オ・シトロンといった目新しいケーキが登場、定番だったスチームプディングの人気は徐々に衰えていきます。そして数年前までは「古臭いプディング」そんなポジションに甘んじていたスポンジプディング、それがここ数年のベイキングブームにより、トラディッショナルなプディングにスポットライトが当てられるようになると~レストランのデザートに、スーパーのデザートコーナーに続々再登場。今では、「スイスチョコレートスポンジプディング」に「ソルトキャラメルスポンジプディング」、シシリアンレモンフレイバーにアマレット風味などなど、おしゃれに生まれ変わって魅力倍増。新たな地位を確立したようです。私的にはシンプルにジャムスポンジやレモンカードスポンジくらいで充分においしい!と思ってしまいますが、ちょっぴり今どきな味付けがされていようと、クラシカルなスポンジプディングが再度注目され、小さな子供たちや若い人たちの間でまた受け入れられ、受け継がれていくのは非常にうれしいことです☆

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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