第79話 Lemon meringue pie・Chester pudding~レモンメレンゲパイ・チェスタープディング~

0

okashi


<Lemon meringue pie ・Chester pudding レモンメレンゲパイとチェスタープディング>

日本より緯度的には北に位置するイギリス。柑橘類がたわわに実るわけでは決してないのに、日本よりずっとレモンやオレンジを使ったお菓子が豊富です。燦燦と降り注ぐ日差しをいっぱい受けて育ったフルーツを食べると、太陽のエネルギーごと吸収できるようなそんな気がするからかもしれません。お菓子だけでなく、マーマレードやレモンカードがあるだけで、暗い冬の食卓はぱっと明るくなり、不足しがちなビタミンも多少は補ってくれたことでしょう。レモンを使ったイギリスのお菓子の代表選手といえば「レモンドリズルケーキ」が筆頭に挙がりますが、次席はおそらく「レモンメレンゲパイ」。 ショートクラストペストリーにきりりと甘酸っぱいレモンのクリーム。そしてこれでもかとたっぷりとのせられたふわふわの雲のようなメレンゲ。バターたっぷり濃厚フィリングのフランス版タルト・オ・シトロンとの違いは、フィリングのレモン果汁に水とコーンスターチが入る点。独特のぷるんと固まった食感が特徴です。くどすぎず、かつ酸味しっかりのレモンフィリングは、甘~いメレンゲとのコントラストも絶妙で、大きなカットもぺろりといけてしまいます。メレンゲを作る際は、わざわざ手間の掛かるイタリアンメレンゲなんかにはしませんから、時間が経てばメレンゲが離水して水分が出始めますが、そんなことはお構いなし。第一あっという間にみんなのお腹へと消えてなくなってしまうから、そんな心配をする暇もないのでしょう~。

コーンスターチ入りのぷるんと爽やかなレモンフィリングが特徴です☆

コーンスターチ入りのぷるんと爽やかなレモンフィリングが特徴です☆

爽やかレモンフィリングとフワフワメレンゲ、こんな幸せな組み合わせを考えたのは一体どこの国の誰なのかについては諸説ありはっきりしていませんが、レモンメレンゲパイがイギリスで長いこと人気のお菓子であることは間違いありません。「レモンメレンゲパイ」というと、ピーカンパイやキーライムパイ同様アメリカンな香りが若干漂いますが、「Chester pudding(チェスタープディング)」、こう呼ぶとどうでしょう?一気にイギリス菓子っぽくなりますね。チェスタープディングとはヴィクトリア時代に人気の出たプディングのひとつ。プディングと名がつきますが、ほとんど今のレモンメレンゲパイと構成は一緒。ペストリーの上に、レモンフィリングとメレンゲののったパイです。フィリングはバターとレモン、お砂糖と卵黄で作るレモンカードのようなクリーム、そこにアーモンドパウダーが少し入り、コクとテクスチャーが加わえられています。これがイギリスの元祖レモンメレンゲパイと言われています。同じく「チェスタープディング」という名でブラックカラントジャム入りのパン粉とスエット、卵で作るスチームタイプのプディングも存在しますが、この名前としては、前者のレモンメレンゲパイタイプのほうがより一般的だったようです。lemon meringue pie1

このヴィクトリア時代から人気のあったレモンメレンゲパイが一時食べられなくなってしまったことがあります。それが第二次世界大戦下と終戦後しばらくの間、イギリスで食糧配給制度が採られたときのこと。お砂糖より卵がずっとずっと貴重品だったこの時代、卵を3~4個も使うレモンメレンゲパイは夢のまた夢のデザート。当時、政府からの食生活アドバイザーとして活躍していたMarguerite Patten 氏は、後にBBCテレビで「Real lemon meringue pie(卵を使った本物のレモンメレンゲパイ)」をデモンストレーションできた時は本当に喜びを感じたと述べています。それもそのはず、食糧配給制度下のレモンカード(卵なし)の作り方を見てみると~なんと卵の代わりにマーロー(大きなズッキーニのような野菜)を蒸してピュレにし、それに砂糖とレモンを加えて煮詰めてレモンカードを作りましょう~と書いてあるのですから。。。

黄色と白の組合せもなんて爽やか☆

黄色と白の組合せもなんて爽やか☆

さて、マーローで作るレモンカードにも若干興味はありますが、今日は卵を使った美味しいレモンカードを作りましょうか。

  1. 小鍋に卵80gとグラニュー糖80gを入れて軽くすり混ぜます。
  2. レモン果汁2個分(約75cc)とレモンの皮のすりおろし1個分、小さくカットした無塩バター60gも加えて極弱火にかけて絶えずかき混ぜます。
  3. とろみが付いてきたら火から下ろしてすぐに裏ごし、煮沸消毒した瓶に詰めればできあがり。冷蔵庫保存で2週間以内に食べきりましょう。

※ 加熱しすぎると卵が固まってレモン風味のスクランブルエッグになってしまうので、心配な方は材料全部をガラスのボールに入れて、湯煎でゆっくり加熱しながら、しっかりとろみが付くまでかき混ぜてもOKですよ。

ホームメイドのレモンカードは一度食べたら病みつきに☆

ホームメイドのレモンカードは一度食べたら病みつきに☆

スコーンに塗って、トーストに塗って、はたまたヴィクトリアサンドにサンドしてもおいしいこのレモンカード。本当にお役立ちなので是非お試しを。ただし、一度ホームメイドを味わってしまったら二度とスーパーの瓶入りには戻れませんのでご注意を(^^)

 

Share.

About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

ウェブサイト ブログ

Leave A Reply

CAPTCHA