第108話 Shrewsbury cake(Shrewsbury biscuits)~シュルズベリーケーキ(シュルズベリービスケット)~

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<Shrewsbury cake(Shrewsbury biscuits) シュルズベリーケーキ(シュルズベリービスケット)>

イングランド西部Shropshire の州庁所在地Shrewsbury。イギリスには多くある古いマーケットタウンですが、この町の名を一躍有名にしているのが「シュルズベリーケーキ(またはシュルーズベリービスケットと呼ばれることも)」。その歴史は古く、一説によると1500年代まで遡れるのだとか。その当時のレシピはよく分かっていないのですが、現代、シュルズベリーケーキ(ビスケット)として知られているのは、フリルつきの丸型で直径7~8cm、色白に焼き上げられたさっくりと軽い、バターたっぷりショートブレッドタイプのお菓子。ほのかにレモン風味で、時にはカランツなどのドライフルーツ入り~というものです。

オールドファッションに、キャラウェイシードとシェリー酒入りのシュルズベリーケーキ☆

オールドファッションに、キャラウェイシードとシェリー酒入りのシュルズベリーケーキ☆

よく耳にするお菓子ではあるので、シュルズベリーの町に行けば、さぞやこの甘い名物お菓子が溢れているのかと思いきや、さにあらず。このシュルズベリーケーキが一世を風靡したのは相当昔の話。劇作家William Congreve(1670-1729) が「The Way of The Worlds (世の習い)」の中で ”you may as short as a Shrewsbury cake (あなたはまるでシュルズベリーケーキのように気が短い)“という表現を使ったのは1700年。シュルズベリーケーキの生みの親と言われている伝説の(実在の人物かどうか定かでないので)James Palin がシュルズベリーの町のCastle Street に店を構えたと言われているのが1760年。彼が生みの親だとすると、もっと以前のレシピ本にも登場しているシュルズベリーケーキは??とは突っ込まないことにして、、、。19世紀に入ってからもシュロプシャーに限らず、全国区のレシピ本にちょいちょい顔を出しているので、当時からイギリス中で知られたお菓子だったことは間違いありません。その後も、このMr.Palinのオリジナルレシピを継承したと言うシュルズベリーのThomas Plimmer&Sons がシュルズベリーケーキを販売していたのですが、世界大戦が始まってからは、材料不足から製造は中止、シュルズベリーケーキの火は消えてしまいます。それでもここ数年でちらほらまた市販のシュルズベリーケーキを見かけるようになってきました。それが先に述べた今どきのレモン風味のショートブレッドタイプのもの。これはこれでおいしいのですが、17世紀や18世紀のレシピと見比べてみると、かなり今のものと違いがあることが分かります。

ローズウォーターとナツメグ入りの19世紀のレシピで焼いたシュルズベリーケーキ☆

ローズウォーターとナツメグ入りの19世紀のレシピで焼いたシュルズベリーケーキ☆

例えば、Hannah Woolley の「The Queen-like Closet or Rich Cabinet(1672)」のシュルズベリーケーキのレシピを見てみると~4ポンドの小麦粉に2ポンドのパター、1.5ポンドのお砂糖に、卵4つ、シナモンとローズウオーターで少々で風味付けした生地を36個の薄い丸型(thin round cake)に整えて焼きましょうというもの。この分量からいくと、薄いといいつつもそれはビスケットと言うよりはケーキの厚さ。Hannah Glasse の「The Art of Cookery Made Plain and Easy(1747)」に登場するシュルズベリーケーキにいたっては2パウンドの小麦粉に1パウンドの砂糖、4つの卵にスプーン4杯のクリームとスプーン2杯のローズウォーターという生地。バターは入っていません。これらを混ぜ合わせて延ばし、薄いケーキ状にして(roll them into thin Cakes)オーブンで焼きましょう~というもの。こちらは出来上がり数が書いていないので、はて、どのくらいの薄さにすればいいのか、どんな形のケーキにすればいいのか分かりませんが、、。いずれ、現代の明らかにビスケット状のシュルズベリーケーキと違い、昔のものはビスケットのような、ケーキのような、そのどちらとも言えそうなお菓子。どうりで、両方の名で呼ばれてきたはず。そして昔の生地に加えるフレイバーの主流はレモンではなく、ローズウォーター。そしてシナモンやナツメグ、キャラウェイと言ったスパイス類。時にはサック(マデイラ酒のような酒精強化ワイン)やシェリーが加えられることも。

ローズウォーター、キャラウェイシードにサック、どの風味もそれぞれ美味しそう☆

ローズウォーター、キャラウェイシードにサック、どの風味もそれぞれ美味しそう☆

懇切丁寧にプロセスごとの写真があるような日本のレシピ本と違い、全てがざっくりな昔のイギリスレシピ本。想像は膨らみますが、作ってみても果たしてこれが正解なのか否か分からないので、答えのないクロスワードを解いた後のような、ちょっとしたモヤモヤ感が残るものもよくあります。まぁ最終的にそれでおいしいティータイムがが出来ればそんなモヤモヤもすぐに消えてしまうのですが(笑)
今日はモヤモヤなし、作ってすっきり、食べてさっくり、現代のビスケット風シュルズベリーケーキをご紹介します。

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<シュルズベリービスケット>

① 柔らかくした無塩バター100gにグラニュー糖100gを加えて白っぽくなるまでよくすり混ぜます。卵1個も少しずつ加えながらさらによく混ぜ合わせます。
② すりおろしたレモンの皮1個分と薄力粉225g、(好みでカランツ50g)も加えて混ぜ合わせ、ひとかたまりの生地にします。ラップに包んで冷蔵庫で30分ほど冷やしましょう。
③ 冷えた生地をめん棒で5mmほどの厚さに伸ばし、直径6~7cmくらいのフリフリの丸型で生地を抜き、180℃に予熱したオーブンで12分ほど、周囲が軽く色づく程度に焼けたら出来上がり☆

※ レモンの代わりに、キャラウェイシードやナツメグ、ちょっぴりローズウォーターなどを加えてみて、在りし日の香り漂うシュルズベリービスケットを楽しんでみるのもいいかもしれません☆

 

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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