第178話 Norfolk rusks/ Suffolk rusks ノーフォークラスク/サフォークラスク

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<Norfolk rusks/Suffolk rusksノーフォークラスク/ サフォークラスク>

イングランド東部ノーフォーク州とサフォーク州、イーストアングリアと呼ばれるこの辺りの名物として知られているのが「ノーフォークラスク(またはサフォークラスク)」。
ラスクというくらいですから、ご想像のとおり、乾いたパンのようなものには違いないのですが、日本のようにフランスパンや食パンで作るのではありません。実にイギリスらしいことになんとスコーンで作ってしまうのです。

小麦粉の半量ほどバターが入るリッチなタイプから、バター少なめ、卵が入ったり入らなかったりと、作り手によって多少差があるのはスコーンと一緒。生地の作り方も通常のスコーンと一緒ですが、スコーンがラスクに変身するのはここから。オーブンに入れたら、いつもより気持ち早めに取り出して、横半分に割ります。その内側部分を上にして再度オーブンに戻し、今度はその面がカリッとするまで焼き上げて完成。イメージするラスクとは少々異なる姿ですが、これがノーフォークラスク(サフォークラスク)。

食べ方は~バターとジャムを塗ってお茶菓子にすることもありますが、バターやチーズ、チャツネなどを添えてセイボリーとしていただくほうが人気だったよう。殊に人気だったのは 「Bloater paste(ブローターペースト)」を塗る食べ方。
北海に面したこの地方、特にノーフォークのGreat Yarmouth(グレートヤーマス)はニシン漁で栄えた港町。港には数千というニシン漁の漁船がひしめき、シーズンにはニシンの加工のために多くの女性たちが近隣から出稼ぎに集まっていました。
ブローターペーストのブローターとは、ニシンの燻製のこと。通常は開きにして内臓を取り去ってから作りますが、ブローターは内臓をそのまま残した丸の姿のまま、低温で18時間かけて燻製にされます。そのしっとりとしたブローターの身を使って作るブローターペーストは、1900年代前半までは絶大な人気で、イギリス中に販売されていました。
アンティークやヴィンテージものがお好きの方ならこの器を目にしたことがあるかもしれませんね。

大手老舗スーパー・セインズベリーのオウンブラウンドとして作られていた、ブローターペーストの陶器の器です。

通常は焼いた薄いトーストにのせて食べるブローターペースト、ここノーフォーク、サフォークではラスクにのせ、アペタイザーや午後のお茶のお供の定番でした。
一世を風靡したノーフォークのニシン産業ですが、世界大戦を境に一気に衰退、このペーストも、以前はベイカリーでもふつうに売られていたというノーフォークラスク(サフォークラスク)も、今はめったに目にすることはありません。簡単に作れますから、今も手作りでおうちで楽しんでいる人はいるかもしれませんが。

 

 

ただ、今回自分で作って思ったのは、せっかくの焼き立ての美味しいスコーンを、すぐにラスクにしてしまうのはいささかもったいない。どうせなら、お茶の時間に余ってしまったスコーンで作れば一石二鳥。きっとノーフォークラスクも、始まりはあまりのもののスコーンだったはず。なんていったって、残り物のパンを無駄にしないことにかけては天才的なイギリスですから。

皆さんもスコーンが余ってしまったら是非試してみてください。半分に割ってオーブンでカリッとするまで焼けばOK。缶などに入れてしばらくは取っておけますから、これまで捨ててしまっていたスコーンを再利用できるナイスアイディアです。

さて、ヴィクトリア時代、そしてエドワーディアンにかけて人気があったという、このノーフォークラスク。ビートン夫人の家政書にもやはりそのレシピが載っています。
が、こちらはさらに古いレシピ。スコーンの代わりに、イーストを使ったシンプルな丸パンを作り、それを半分に割って、同じようにオーブンに戻してカリカリに焼くタイプです。

 

 

作ってみると、こちらのほうはスコーンバージョンより、より軽く、イメージするラスクにより近い味。お味はもちろん悪くありませんが、やはり焼き立てホカホカのパンをすぐにラスクにしてしまうのは、どうにも抵抗が、、、。こちらもやはり、パンが余った時に作るのがおススメです。

 

~ビートン夫人のレシピ~

3456.—RUSKS. (Suffolk Recipe.)

Ingredients.—1 lb. of flour, 2 ozs of butter, ¼ of a pint of milk, 2 ozs. of loaf sugar, 3 eggs, ½ an oz. of distiller’s yeast.

Method.—Put the milk and butter into a saucepan, and keep stirring it round with a wooden spoon until the latter is melted. Put the flour into a basin with the sugar, mix these well together, and pour the beaten eggs into the centre. Add the yeast dissolved in a little tepid water to the milk and butter, and with this liquid work the flour into a smooth dough. Lay a cloth over the basin, and leave the dough to rise by the side of the fire; then knead it and divide it into 12 pieces, mould up round, set on to a clean greased plate; prove well; then place them in a brisk oven and bake for about 20 minutes. Take the rusks out, break them into halves, and then set them in the oven to get crisp on the other side. When cold, they should be put into tin canisters to get dry. If the rusks are intended for the cheese course, the sifted sugar must be omitted.

Time.—20 minutes, to bake the rusks; 5 minutes to render them crisp after being divided. Average Cost, 9d. Sufficient to make 2 dozen rusks.

ラスク(サフォークのレシピ)

小麦粉1パウンド、バター2オンス、牛乳1/4パイント、砂糖2オンス、
卵3個、イースト1/2オンス。
(パウンド=450g・オンス=28g・パイント=568ml)

牛乳とバターを温めて溶かし、少しのぬるま湯で溶いたイーストを加えます。
小麦粉と砂糖をボールに入れ、中央に溶いた卵を入れ、先ほどの牛乳を加えて良く練ります。
暖かいところにおいて発酵させたら、12分割して丸めます。
もう一度発酵させたら、オーブンで20分焼き、取り出して半割に。
開いた面もカリっとするようさらに5分焼いて出来上がり。
冷めたら容器に入れて乾燥させて保存を。
チーズに添えたいのなら、お砂糖は省きましょう。

ちなみに今回使用したスコーンタイプのノーフォークラスクのレシピも記しておきますね~

薄力粉225gにベーキングパウダー小さじ2、お塩小さじ1/2をボールに入れ、バターを75gすり混ぜ、サラサラの状態にします。卵1個と牛乳大さじ2を混ぜたものを加え、固めにまとまるまで牛乳を加えて生地を作り、2㎝厚さに伸ばします。直径5㎝の型で抜いて、200℃のオーブンで10分焼いて取り出し、半分に割って180℃のオーブンで10分焼くというもの。

是非お試しを☆

 

 

 

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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