第138話 Jersey wonder/ Aberdeen crullas/ Yum yums~ジャージーワンダー/アバディーンクルーラ/ヤムヤム~

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okashi


<Jersey wonders/ Aberdeen crullas/ Yum yums ジャージーワンダー/アバディーンクルーラ/ヤムヤム>

これまで、蒸したり焼いたり、茹でたり冷やしたり、さまざまな調理法のお菓子が登場してきましたが、今日はもっと気取らない、日々のおやつに最適な調理法「油で揚げる」お菓子にスポットライトを当ててみます。

揚げるお菓子の代表選手と言えば、今の時代はなんと言っても「Doughnuts(ドーナッツ)」。穴のあいたアメリカンタイプもありますが、イギリスでよく見かけるのはジャムドーナッツ。丸くて中央にラズベリーなどの赤いジャムが入った、ふんわりイースト生地タイプ。まぶしてある白いお砂糖を口の周りにつけながら頬張るそれは大人も子供も思わず笑顔。日本でもおなじみですね、きっとこれは想像に違わない味です。

お次は「Yum yums(ヤムヤム)」。

甘~いグレーズのかかったyum yum は危険だけれどたまに食べたくなるのです☆

甘~いグレーズのかかったyum yum は危険だけれどたまに食べたくなるのです☆

耳慣れない名前ですが、これも言ってしまえばドーナッツの一種。ねじりが効いた棒状で、周りには甘いグレーズ、というのがお決まりスタイル。チェーン店のパン屋さんはじめ、スーパーでもパック入りが売られているので、手軽なおやつや軽食として人気です。近頃はバタースコッチ味やトフィー風味のグレーズがかかっていたり、ミニサイズだったりと、さまざまなアレンジも増殖中。基本の生地は前述のジャムドーナッツ同様イースト生地、ただしこちらはデニッシュのようにバターを幾重にも折り込んで層を作ります。これを油で揚げ、かつたっぷりのグレーズ、、自分で作るとそのハイカロリーぶりにちょっぴり罪悪感、でも生地がそれほど甘くないのでつい手が伸びちゃう危険なお菓子。このヤムヤム、今でこそ全国区のお菓子ですが、もともとはスコットランド発のお菓子と言われています。そのラブリーな名前の由来はじめ、不明な点も多いのですが、よく言われているのは、オランダでクリスマスやレントの時期に食べられていた揚げ菓子が原型になっているということ。

Aberdeen crulla は世界中にきっとあるよね、と思う、素朴で懐かしい味わい☆

Aberdeen crulla は世界中にきっとあるよね、と思う、素朴で懐かしい味わい☆

さぁ、どんどん参りましょう。次にご紹介したいのが、スコットランドに伝わるもうひとつの揚げ菓子「Aberdeen crullas(アバディーンクルーラ)」。スコットランド北東部の港町アバディーンの名前のついたこのお菓子はバターとお砂糖、卵と小麦粉で作った生地を、平たく延ばして油で揚げたもの。こちらはイーストの代わりにベーキングパウダーを使うので、生地作りはよりお手軽。日本の素朴なかりんとうをも彷彿とさせる味と見た目です。ただし、材料がシンプルな分、揚げる油によって大分風味が変わったことでしょう。今のように、「油といえばサラダ油(菜種やひまわりなどの植物油)よね」、なんて時代が来る前は、イギリスで庶民の揚げ油と言えば、ラードに、ドリッピング(お肉を焼くときに出る脂)、スエットなどを溶かしたものでしたから。さて、このお菓子、独特なのはその形です。作り手により、三つ編みや、手綱こんにゃくのように中央に切り目を入れてぐるりとねじるなど様々ですが、必ず 生地に「ねじり」が入ります。あとは、「ねじり」よりは重要ではないですが、レシピによってはナツメグなどのスパイスが入ることも。 Crullasの名前の由来は、ゲール語でSmall cake、Bannockを意味する Krilから、あるいはオランダ語でCurl(カール)を意味するKrullen からきているとのこと。日本でもおなじみのねじりの効いたアメリカのドーナッツCruller(クルーラー/フレンチクルーラー)の語源も同じ流れのようです。

ジャージー島の潮の満ち引きのすごさ、フランスの文化なども秘めたジャージーワンダー☆

ジャージー島の潮の満ち引きのすごさ、フランスの文化なども秘めたジャージーワンダー☆

さてもうひとつ、アバディーンクルーラと共通点の多いお菓子がイギリスにあります。地理的にはスコットランドと全くの反対側、イギリス本土よりよほどフランスのほうが近いところにある、ジャージー島の名物地方菓子「Jersey wonder(ジャージーワンダー)」です。何が似ているのかと言いますと~どちらも古い郷土菓子なので、家庭により多少の違いはありますが、生地の配合から、ねじるという成型法、そして油で揚げるという、全体においてそっくり。バターにお砂糖をすり混ぜて、卵を混ぜ、小麦粉を加え、めん棒で伸ばせる程度の堅さの生地を作るところも、手のひらサイズに伸ばした生地の中央にスリットを入れて、くるりと生地をくぐらせてねじるところも一緒(ジャージーワンダーは3本の縦スリットを入れて、上の部分をくるりとその中央の穴にくぐらせることが多いよう)。そしてこちらも最後はラードで揚げるのがオリジナルスタイル。違いと言えば、ジャージーワンダーは揚げたあと、お砂糖などはふりかけず、プレーンが基本、という点。そして、潮の満ち引きが極端に激しいジャージー島らしく、揚げるときは必ず、潮が引いていくタイミングで、というのが島の慣わし。万が一満ち潮の時に揚げると、油が鍋からあふれでてくる、という言い伝えがあるのだとか。また英語のほかにフランス語が公用語でもあるジャージー島、ジャージーワンダーはフランス風にMerveilleとも呼ばれます。そう言えば、フランス南西部で食べられている同じような揚げ菓子の名もメルベイユ。年間通して食べられてはいるのですが、祭りごと、特にレント(イースター前の40日間)が始まる前のカーニバルの時期に登場するフランスのメルベイユもジャージーワンダーもきっと同じ起源なのでしょう。ジャージー島に行ったとき、何の気なしにお土産に買った袋入りのジャージーワンダーは、食べやすい軽いドーナッツといった雰囲気だったので、きっとあれは植物油で揚げたものだったのかな。

他にも揚げたい、もとい、挙げたい揚げ菓子は沢山あれど、長くなりそうなので今日はこの辺で。。

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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2件のコメント

  1. potako さん こんにちは☆
    全部一気にとは!ありがとうございます(^^)
    そうですね~おかし百科なんて名前ですから、その内容に辞書的な信憑性などを求められても仕方ないのかもしれませんが、あくまで「おかし百科」という名のイギリスお菓子についての個人的な思いを綴ったエッセイと捉えていただけると嬉しいです。
    自分が食べたり、聞いたり、読んだりして忘れたくないことを書いており、かつ、「こんなお菓子もあるんだ」とイギリス菓子に興味を持っていだければいいなというスタンスです。「何年のこの本に最初にこのお菓子が登場しますよ」的なことも時折書いていると思いますが、きっとこれからも、この程度のゆるい感じで続くと思います、どうぞお許しを。。
    もちろん、書籍になどする時はできるだけ参考図書なども挙げるつもりでいますので、お待ちいただければ幸いです☆

  2. こんにちわ。イギリスのお菓子を検索していたときにこのサイトに出会いました。情報量が多く、読み易いため、過去のものも全部一気に読ませていただきました。ところで、記事を書く際にご参考にされている本など、内容の出典を記載していただくことはできないでしょうか。出典が分かれば、記事の内容についてより深く知りたい場合に読者が自分でアクセスできます。また、お書きになっている内容が資料に基づいた客観的なものであり、信頼性が高いことを示すことができるかと思います。どうぞご検討ください。

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