<Shortbread ショートブレッド>
日本で最も知られているイギリス菓子といえばこの「ショートブレッド」かスコーンでしょう。名前の由来にもなっているShort(=くだけやすく、サクサクとした)という語のとおりザクっとしながらも口の中でもろく砕けていく食感と素朴なのにリッチなバターの風味は紅茶と合うことこの上なし。マグカップ1杯の紅茶とショートブレッドさえあれば、気分はスコットランドへトリップ。そう、ショートブレッドの故郷はスコットランド。赤いタータンチェックの箱、あるいはThistle(アザミはスコットランドの国花)のマーク、パッケージからもうスコットランドアイデンティティーがあふれています。
今ではイギリス中で親しまれているショートブレッドですが、スコットランドでのその歴史はさらに長く、中世まで遡れます。余ったパンに砂糖やスパイスで風味をつけてもう一度低温のオーブンで固くなるまで焼いたrusk (ラスク)から始まり、いつしかイーストがバターにとって代わり、今のショートブレッドの姿になったと言われています。今でこそお茶の時間に欠かせない日常のおやつとなったショートブレッドですが、昔は非常に高価な存在だったため、結婚式やクリスマス、新年などのお祝いの際に食べるものでした。今でもスコットランドでは新年最初の来客 ‘First footer ’ にショートブレッドをふるまうしきたりが残っているのだとか。もうひとつショートブレッドに関する面白いしきたりがシェットランド地方にも伝わっています。なんでも花嫁が初めて新居の敷居をまたぐ際、装飾の施されたショートブレッドを頭上で割るのだそうです。ライスシャワーならぬショートブレッドシャワー?
さて、このショートブレッドを一躍有名にしたのがスコットランド女王メアリー。16世紀半ば、「ペチコートテイル」と呼ばれる円形を放射線状にカットしたショートブレッド(特にキャラウェイシード風味)がお気に入りだったことで知られています。この「Petticoat tail」の名前の由来ですが、フランス語で小さなケーキを意味する petites gauteless、petites galettes がなまり、ペチコートテイルとなったという説。そしてもう1説は~女王お付きの女官たちのペチコートが3角形の布を縫い合わせて円形にして作られており、その柄がtallyと呼ばれていたため、その形から ‘petticoat tallies’ と呼ばれるようになり、Petticoat tail へと変化したとも。今ではいろいろな形をしたショートブレッドが売られていますが、ベースのスタイルは3つ。「ペチコートテイル」、私たちが一番馴染み深い、穴のぽつぽとあいたバー状の「ショートブレッドフィンガーズ」(カロリーメイトのモデルにもなったとか)、そして小さな円形の「ショートブレッドラウンド」。
基本材料は小麦粉とバターと砂糖、そして塩、これだけ。もろい食感を出すために小麦粉の一部を米粉に変えることもありますが。スコットランドの老舗メーカー「Walkers」では1898年の創業当時から基本の材料のみでショートブレッドを作り続けています。この上なくシンプルな材料だからこそ、上質な材料と変わらぬレシピにこだわり、そしてそれが長く愛され続ける所以なのでしょう。あの赤いタータンチェックを開けさえすれば、いつものほっとする味に出会えるという「変わらないものへの愛着と安心感」をこよなく愛するイギリス人のこと、きっとこれからもずっと定番の位置を保ち続けることでしょう。~といいつつも、売り手側としては目先が変わらないと新たな購買層を増やせないのも悩ましいところ。Walkers では味を変えられないならパッケージで消費者を惹きつけようというかのように、あの手この手のパーッケージで購買意欲をそそってきます。かわいい缶や箱に目のない日本人女子(?)は思う壺。中身は一緒と知っていつつもついつい策略にのってしまうのです(笑)
変わらぬ美味しさの基本のショートブレッドとは別に、様々なバリエーションも巷には溢れるショートブレッド。チョコチップ入り、チェリー入り、ジンジャー入り、ラベンダー入りとベースがシンプルなだけになんでも加えられますが、バリエーションと言うよりは、ひとつのお菓子としてまた確固とした地位を築いているのが、「ミリオネアショートブレッド」。「Millionaire = 百万長者」の名のとおり、とにかくリッチ。ショートブレッドをベースに、キャラメル、チョコレートと、3層に重なりあったそれは、子供たちに、甘党イギリス人たちに大人気。ですが、お味はご想像のとおり、さしもの私もこの甘さのトリプルパンチにはノックダウン寸前(笑)。我こそはと甘いものに自信のあるあなた、是非いつかチャレンジあれ☆