<Crumpet クランペット>
イギリスで最もトラディッショナルなお茶菓子と言っても過言でないのがバター付きパン。パンだとおやつというより食事みたいね、と思われるかもしれませんが、もともとアフタヌーンティーも夕食までの空腹を満たすために始まったものですから、伝統的なお茶菓子の軽食的要素が強いのも当然のこと。かりっとトーストしたパンにたっぷりのバター、試してみると案外紅茶によく合うものです。現代この役割を担っているのは「ティーケーキ」と呼ばれる干しぶどう入りの丸い小型パン、あるいはプツプツと表面に沢山の穴の開いた1cmくらいの厚みの平たいパン「クランペット」。どちらもティールームではおなじみのメニューで、オーダーするとトーストされバターや蜂蜜などが添えられて出てきます。
クランペットの特徴はなんといっても表面に開いた無数の穴。そしてもちもちの食感。朝食にも人気のクランペットは焼きたてにその穴が埋まるくらいにたっぷりのバターとゴールデンシロップをかけていただくと、朝のエネルギー補給もばっちり、ご機嫌なスタートを切れること間違いなし(^^)。この特徴的な穴をあける秘訣はイーストと共に加える重曹またはベイキングパウダー。パンケーキのようにゆるい生地をグリドル(鉄板)の上にのせたリングに流して焼くと、無数の気泡が浮いてきては弾け、それが穴となって残るのです。ですからはじめに鉄板に接している底面には穴はなし。よってたっぷりかけたシロップや蜂蜜も逃さずキャッチしてくれると言うわけです。
クランペットの歴史はあまりはっきりとはしていないのですが、「crumpet」として文献に残る最古のレシピは1769年のElizabeth Raffaldによる The Experienced English Housekeeper に載っているものと言われています。もちろんベイキングパウダーは加えられていませんが、イースト入りの濃いめの生地をベイクストーンに落とし、ティーソーサーサイズになるように焼くよう書かれています。それ以前のものはCrompid cake あるいは Crumpit などと記載されており、鉄板でもっとずっと薄く焼かれ、材料にはそば粉を使うことも多かったようです。その語源は古英語のcrumpやcrumb(ねじれた、曲がったの意)から来ているとか、あるいは薄いケーキを意味する、ブルトン語のkrampouezhやコーニッシュの krampoeth、ウエルッシュでパンケーキを意味するcrempog かも~などなど諸説存在。いずれ、熱く熱された鉄板で薄く焼かれ周囲が反り返った姿に由来しているようです。
今でこそクランペットと言えば、型を使って厚みを出すタイプが主流ですが、地方によっては昔のように鉄板に生地をそのまま流して焼くところもあります。とくにミッドランド地方でよく見られるこのタイプは名前も変わり、「パイクレット(pikelet)」と呼ばれています。直径はクランペットよりひとまわり大きくなり、パンケーキのような薄さ。でも食べ方やポジションは一緒。温めてバターを塗ってお茶のお供に、朝食にいただきます。ヨークシャーにある有名ティールームBettysのメニューにも載っていますので、機会があれば是非お試しを。見た目同様、塩味だけのなんともイギリス的なシンプルさがかえって新鮮かもしれません。さらに所変わればで、スコットランドにいくと、「スコティッシュクランペット」なるものも存在します。こちらはほぼパンケーキのようなもの。イーストは使わずベイキングパウダーで膨らまし片面だけ強めに焼くので、上面に穴が多く開いているところだけはやや似ていますが、、、。今ではスコットランドでもクランペットと言えばもちもち厚みのあるイングリッシュクランペットが主流のようです。
できれば焼いたその日に食べたいクランペット。スコーンと一緒でどなたかへの旅のお土産に~というのは難しくとも、スーパーものなら数日は日持ちがしますから、自分用くらいになら大丈夫。旅の最後にスーパーに立ち寄り購入し、おうちでイギリス旅行の余韻に浸るのも一興かも知れません(^^