第82話 Rich tea / Marie (Biscuits)~リッチティー/ マリー(ビスケット)~

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okashi


<Rich tea / Marie (Biscuits)リッチティー/マリー(ビスケット)>

「リッチティー」この言葉から想像するものは~お砂糖やミルクたっぷりの栄養リッチな紅茶?それとも見目麗しいお茶菓子が添えられたリッチなティータイム?とにかく何かプラスα感のあるちょっぴりいいものが頭に浮かびますね。実はこれ、イギリスのビスケットの名前。しかもイギリス1シンプルと言っても過言でないほどに飾り気がないビスケットというのだからおやっと首を傾げてしまいます。

richtea 1

王道マクヴィティーのリッチティー☆

イギリスでは、焼き菓子をあれもこれも「ビスケット」と称するので、日本人は混乱してしまうこともあるのですが、リッチティーはシンプルな分、私たち日本人がイメージする「ビスケット」という単語に一番フィットするものでもあります。お味は日本でもよく見かける「マリービスケット」にそっくりと言えば誰もが容易に想像できるはず。ただし紛らわしいことに、イギリスにはこのリッチティーとは別に、比較的少ないものの「Marie(マリービスケット)」も売られていたりします。ではマリーとリッチティーはどう違うのか?正直それほど大差はありません(笑)。マクヴィティー社の両者を比べてみると、カロリーも一緒、材料もほぼ一緒、強いて違いを見つければ、サンフラワーオイルかパームオイルかの違いくらい。恐らく一番違うのは表面の模様でしょう。リッチティーのほうは大抵、各社「RICH TEA 」や「ROUND」の刻印、一方マリーは判で押したようにどのメーカーも中央に「MARIE」の文字とその周りにぐるりと同じような幾何学模様(カギ模様)が描かれています。まるでこの柄でなければマリーと呼んではいけないと法律があるかのように。

所変われど誰もが見覚えのあるマリービスケット☆

所変われど誰もが見覚えのあるマリービスケット☆

リッチティーはビスケットを作るのが大好きな私もこれだけは作ろうとは思わない、同じものが作れるとも思えない、ある意味市販ビスケット界の空気的な存在(なくてはならないけれど、あるのが当たり前すぎるもの)。昔は名前もさらにシンプルに「ティービスケット」と呼ばれていました。市販のsemi-sweet ジャンルのビスケットの中でもあまりに基本的なビスケットのため、どの店がとかあるいは誰が作り出したのかなどの詳細は定かではありませんが、17世紀にYorkshire で富裕層の間食用として生まれたと言われています。一方マリーはと言うと、こちらの素性は大分明らか。時は産業革命後ビスケットの大規模ファクトリー生産の競争もそろそろ激しくなってきた頃。ガリバルディを生み出したビスケットファクトリー界の雄Peak Freans社は次なる新商品を売り出す機会を図っていました。そして1874年、ロシア大公女Maria Alexandrovnaとヴィクトリア女王の次男エディンバラ公Alfredの婚儀が執り行われるやいなや、この機を逃すまいと売り出されたのがマリー。現代のイギリスでもそうですがロイヤルファミリーのお祝い事は商品を売り出すのに絶好の機会。ビスケットそのものはプレーンでしたが、中央にMARIA(またはMARIE)の刻印、そしてそれをぐるりと囲むロシア帝国をイメージさせるカギ模様のそのビスケットは好評を博します。国内はおろかスペインやオランダなどの西欧諸国をはじめ、北欧や遠くインドやアフリカでもMarie またはMariaの名で広がっていったのですから、その人気の程が伺い知れますね。

素朴さが持ち味のリッチティー☆

素朴さが持ち味のリッチティー☆

飽きが来ないシンプルな美味しさが身上のリッチティーとマリー。そのシンプルさゆえに、砕いてチーズケーキやバノフィーパイのベースにしたり、他のケーキの副材料として利用されることもよくあります。イギリスでリッチティーを使って作るお菓子の最たるものが「Fridge cake(フリッジケーキ)」。これはどういうものかというと、砕いたビスケットに溶かしたチョコレートやバターなどを混ぜて型に詰め、冷蔵庫で固めるという簡単なもの。オーブンではなく冷蔵庫で出来てしまうので、「Fridge=冷蔵庫」ケーキという名がつけられているのです。手軽に出来るので、子供たちのおやつに家庭でよく登場するのですが、この子供の頃の思い出の味を忘れられずにGroom’s cake(結婚式のメインのケーキのほかに用意する「花婿さんケーキ」)にしてしまったのが、かのウイリアム王子。2011年の披露宴の際に振舞われたそれはリッチティー1700枚、チョコレート17Kgも使用したとてもフリッジケーキとは思えない豪華なケーキでした。素朴きわまるアヒルの子のようなフリッジケーキを優雅な白鳥に変身させたのはロイヤルワラントを保有するマクヴィティー社。過去にも王室のウエディングケーキを手がけてきた社ならではのロイヤルウエディングにふさわしい、ホワイトチョコレートの睡蓮の花が飾られた3段重ねのフリッジケーキでありました。

気軽に作れる「フリッジケーキ」は手作りおやつの大定番☆

気軽に作れる「フリッジケーキ」は手作りおやつの大定番☆

手の込んだ美しいお菓子や流行最先端のお菓子もそれはそれで美味しく、その時は感動しますが、ふと疲れた時などに「あ~食べたいな」と思うのはシンプルなもの。子供の頃から親しんだお菓子や、楽しい思い出と結びついたお菓子の味は、手作り、市販品にかかわらず、また戻りたくなる自分の中のお菓子原点。リッチティーとマリーはまさにそんな存在なのかもしれません。
一生懸命書いたらわたしも少々疲れてきたので、ちょっと失礼してお菓子原点に戻りマリーでお茶してきます~。

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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