第136話 Maids of Honour~メイズオブオナー~

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<Maids of Honour  メイズオブオナー >

ロンドン西部、キューガーデンを訪れたら忘れずに立ち寄りたいのが「Newens」。いかにも趣のあるこのティールームの名物はその看板にも誇らしげに掲げてある「The Original of Maids of Honour(元祖メイズオブオナー)」。
メイズ・オブ・オナーとは本来、女王や王妃付きの女官をさす言葉ですが、今はもっぱらこの美味しいお菓子を指す言葉。イギリスには珍しく、ハラハラさくさくのパフペストリーに黄色の甘さ控えめのカードチーズベースのフィリングが詰まった直径8cm位の小型のパイで、このパイを求め、ひいひいおじいさんの代から食べ続けていそうなご近所さんから、イギリスのみならず世界中から訪れる観光客で毎日大盛況。このメイズオブオナーのペストリーのさくさくぶりから想像が堅くないように、他のパイ類も(特にセイボリー系)ご自慢の老舗ティールームです。

キューガーデン散策の後はNewens でティータイムを☆

キューガーデン散策の後はNewens でティータイムを☆

長いこと門外不出だったメイズオブオナーですが、18世紀のある時、王室からその秘密のレシピが流流出し、リッチモンド周辺で一躍人気のお菓子となります。当時若い見習いベイカーでそのレシピを知ることの出来たRobert Newens 氏が今の「ニューエンズ」の創業者。独立し1850年にベイカリーを立ち上げ、その息子のAlfred 氏が1887年に現在の場所にティールームもオープンし、今に至ります。
リッチモンドカウンシルのHPによると~
このメイズオブオナーのレシピが最初に文献に登場するのはR. Mayによる The Accomplisht Cook の 2nd edition (1665 )。そして最初にメイズオブオナーを商品として世に売り出したのは、1750年、リッチモンドのHill StreetにあったThomas Burdekin氏の店なのだとか。メイズオブオナーはたちまちリッチモンド名物となり、長い間絶えることなく作り続けられます。1790年以降その店の持ち主はWilliam Hester氏、John Lea氏、John Thomas Billett氏へと受け継がれていくのですが、このBillettファミリーの代は特に「The original shop of the Maids of Honour」として繁盛したそうで、なんでも一日に8000個も売り上げた日があったとか。その後、Billet ファミリーの手も離れ、地元の大手ベイカリーの手に渡り、1957年ついにその幕を閉じます。

そして、このHill Streetの店というのがNewens の創業者ロバートさんが見習いをしていた店だったというわけです。
話しを今のニューエンズに戻します。代々ニューエンズファミリーによって受け継がれてきた店舗は第二次世界大戦で大きなダメージを受けます。それをロバート 氏の曾孫に当たるPeterさんが今の姿に建て直しました。今でこそニューエンズファミリーの手は離れましたが、そのレシピは今もトップシークレット、キューを訪れる人たちを魅了してやみません。

アフタヌーンティーもセイボリーのパイでランチもおススメです☆

アフタヌーンティーもセイボリーのパイでランチもおススメです☆

ところで、このニューエンズの壁に掲げられているプラークにはこう記してあります。
“IN THIS SHOP ARE MADE THE ORIGIAL MAIDS OF HONOUR WHICH WERE SERVED TO HENRY VIII AND THE ROYAL HOUSEHOLD(この店ではヘンリー8世と王室のために作られていた元祖メイズオブオナーが作られています)“

メイズオブオナーの始まり物語として有名なものがいくつかあります。
ヘンリー8世の後の妃、アン・ブーリンが他のメイズオブオナーたち(女王様付き女官)と銀のお皿に入ったこのお菓子をつまんでいるところに、とおりかかったヘンリー8世。ご相伴にあずかると、その美味しさに大感動、それをメイズオブオナーと名付けた、とか。
あるいは~ハンプトンコートのキッチンで鍵のかかった箱の中からこのお菓子のレシピを見つけたヘンリー8世、アン・ブーリンにそのレシピで作らせてみたところ、とっても美味しくてメイズオブオナーと名付けた~というものもあります。
はたまた、メイズオブオナー(女王様付き女官)の一人がこのお菓子を考案したところ、あまりに美味しすぎたため、レシピを守ろうと、その女官を幽閉して、一生王室のためだけに作らせたなんて話しも、まことしやかに語り継がれています。

maids of honour3

ヘンリー8世(1491-1547)といえばテューダー朝のイングランド王。現代のような金属製のタルト型などなく、coffinと呼ばれる堅く焼いたペストリーを型代わりにしていた時代、果たして今と同じようなメイズオブオナーを作れたのかはなはだ疑問ですが、ここでそんな無粋なことを言っても始まりません。長い年月をかけて、きっと少しずつその時代時代の調理法に適応させながら受け継がれてきた今のメイズオブオナーが美味しいことは間違いないのですから、良しとしましょう。
物語のあるお菓子はそれだけで、味わいが数倍にも増すことは、皆さんもよ~くご存知のとおり。。。

 

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宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 、2022年6月「新版BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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