<Rice cake/ Sand cake ライスケーキ/サンドケーキ>
「ライスケーキ」 ってお餅のことよね?と心配になったあなた、いよいよイギリスお菓子のネタがつきてしまった、というわけではないのでご安心を、興味深いイギリスお菓子はまだまだ存在します(^^)。今日はイギリスに古くから見られる別の「ライスケーキ」について。
小麦粉とジャガイモだけは豊富なイメージのあるイギリスですが、もちろん昔からそうだったわけではありません。イングランド北部やスコットランドでは、冷涼な気候のため、小麦粉作りにあまり向いているとは言えませんし、今のように効率の良い大量生産が出来るようになったのは極最近のこと。小麦の採れる地方でも、もとは小麦は高価な穀物。真っ白な小麦粉を使って作るパンやケーキは、裕福な人しか食べることの出来ない富の象徴。普通の人々は胚芽分たっぷりの茶色の小麦か、それに大麦やカラス麦、ライやそば粉などの雑穀が混ざったもの、あるいはとうもろもろこしの粉や米、じゃが芋などを加えてパンを作ることも珍しくはありませんでした。ケーキも然り、特にイングランド北部、スコットランド地方や北アイルランドのレシピには、そういった小麦粉以外の穀物を使ったケーキ類が多く見られます。
米を粒のまま使うライスプディングとは違い、ライスケーキは基本、米を挽いて粉にしたライスフラワー(米粉)を使います。それを小麦粉に置き換えてケーキを作ったものが、「ライスケーキ」の名で呼ばれたので、いろいろなレシピが存在し得るわけですが~まずは古いレシピからご紹介してみましょう。Elizabeth Raffard 著「The experienced English housekeeper」(1769) に登場するライスケーキはとっても大変そうです。風味付けにオレンジウォーターやレモンの皮も入り、出来上がりはとっても美味しそうではあるのですが、なんとそのレシピの始まりは「15個の卵を用意します。卵白を1時間泡立てたら、次に卵黄を30分泡立てましょう~」・・・いくら美味しいケーキのためでもさすがに1時間はきつ過ぎるというもの。その数十年後のEliza Acton さんのライスケーキ(「Modern cookery for private families (1845) 」)は大分お手軽になっています。材料も6個の卵にそれと同量の砂糖とバター、その半量のライスフラワーと小麦粉。Mrs Raffardのライスケーキの粉類は全量ライスフラワーでしたが、この半々くらいの割合のほうが口どけもよく、脆くなりすぎず、より食べやすい食感になるでしょう。以前、Northumberlandで購入したNorthumbria ライスケーキは、小麦粉とライスフラワーにくわえてアーモンドパウダーも入った、シンプルながらも美味しいケーキでした。イギリス北東部、ノーサンバーランド周辺に伝わる伝統的なレシピだということでしたが、今もまだその辺りの家庭で手作りされているかは不明。似た食感のもので、米粉の代わりにコーンフラワー(コーンスターチ)を使う、「Sand cake サンドケーキ」は今もたまにイギリスのレシピ本に見かけますが、ライスケーキはなかなかお目にかからないので、消えかかっている存在かもしれません。ちなみにサンドケーキはライスケーキよりさらに、口の中でサラサラほどけていくような食感になるので、その舌触りから、「Sand cake=砂のような舌触りのケーキ」なんて名前になっています。
このライスケーキやサンドケーキは粉にしたお米やとうもろこしを使っていますが、19世紀初頭の穀物が不足した時代や第1次、2次世界大戦下の食糧難の時代には、よりかさを増やすために、米やじゃが芋、とうもろこしなどを粉にはせずに、そのまま茹でてマッシュし、小麦粉に加えてパンなどをよく作っていたようです。戦時中のレシピをみて見ると、マッシュポテトを加えた、ポテトスコーンやポテトケーキと並んで、茹でて潰したり、時にはうら漉してなめらかにしたご飯を入れた、ライススコーンやライスブレッドなどのレシピが多く見受けられます。ちなみに前述のActon 婦人はかさをますという目的はさておき、ライスブレッドに関してはお米を加えることによりパンが軽く仕上がり、長い間しっとり感を保てるとお気に入りだったよう。
近頃は日本でも米粉を使ったパンやお菓子などが流行っていますが、イギリス風ライスケーキもなかなかおつなもの。
手軽に作れる Rice cake をご紹介しておくので、皆さんも是非お試しあれ☆
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<Rice Cake>
① 室温に戻した無塩バター175gにグラニュー糖175gを加えて白っぽくなるまでよくかき混ぜます。
② 溶きほぐした卵3個を少しずつ加えながらさらによく混ぜます。すりおろしたレモンの皮1個分も加えましょう。
③薄力粉115g、米粉175g、ベーキングパウダー小さじ1.5を合わせてふるいながら加え、粉が見えなくなるまでへらで混ぜたら、生地の完成。
紙を敷いた直径20cmの丸型に流し入れて、180℃のオーブンで約50分、中央に弾力が出るまで焼いたら出来上がり。
*オーブンによって焼ける時間は違うので、中央に竹串を刺してみて、チェックも忘れずに。
2件のコメント
potako さん☆
そのとおり~イギリスのご飯、美味しいですよね☆
戦中、戦後と豊かじゃない時代に広まった料理がイギリス料理の全てみたいな印象になってしまったのが、今の「イギリス料理=まずい」の原因なのかなと、、それ以前は確かに昔からレシピ本も沢山あったし、なかなか創意工夫に富んだお料理いっぱいだし。今、一気にみな食に目覚めている感があるので、これからがまた楽しみですね♪
本のご紹介、ありがとうございます。
イギリスって、ご飯美味しくないとか言われながらも(イギリス人ですら時々自虐的に言うし)、
レシピ本って日本よりも古くからあって、いまでもたくさん残っている(復刻されたり)ような気がしているのですが、先生はどう思われますか?
日本語は言葉が100年でかなり変化してしまったけれど、英語はそれほどでもないからかな、と思ったりしています。
イギリスのご飯、美味しいですよね。