第146話 Tottenham cake/ Liverpool tart トッテナムケーキ/リヴァプールタルト

0

okashi


<Tottenham cake / Liverpool tartトッテナムケーキ/リヴァプールタルト>

イギリスのベイカリーで、ピンク色のアイシングがかかった素朴なトレイベイク(長方形のトレーで焼き、切り分けたケーキ)を見つけたら、それはトッテナムケーキかもしれません。

トッテナムはロンドン北部の地域の名前。でも、この名前を有名にしているのはなにはさておき、有名なフットボールチーム「トッテナム(トッテナムホットスパーFC)」。サッカーにまったく興味のない私ですらもその名前くらいは知っている、ここ40年間ずっとプレミアリーグに所属し続けている超ビッグクラブです。1882年に創設されたというそのフットボールクラブと、このケーキの誕生とが直接関係しているわけではありませんが、このクラブが1901年に初めてFAカップを制した時、このトッテナムケーキが地元の子供たちに無料でふるまわれたというのは有名なお話し。ということはもう100年以上愛されているケーキというわけですね。

ペールピンクからフューシャピンクまで、加える果汁の量で調節を☆

ペールピンクからフューシャピンクまで、加える果汁の量で調節を☆

もともと、トッテナムの地元ベイカリーHenry Chalkley氏によって売り出されたというこのケーキは実にシンプルなつくり。バターとお砂糖、卵と小麦粉で作るプレーンなスポンジにピンクのアイシングをかけただけのもの。時にはアイシングの上にココナッツが振りかけられることもありますが、特徴は何といってもこのラブリーなピンク。この色はトッテナムにあるクエーカー教徒の共同墓地に実っていたマルベリーの果汁を加えていたから。クエーカー教徒でもあったHenryさんが地元の子供たちでも買える安くて美味しいケーキを、との思いから作ったのが始まりだそうです。確かにこれは子供たちが大喜びしそうなお菓子です。そのひと切れは1ペニー、端っこの小さな一切れは半ペニーで売られていたそう。今でもこの地域のクエーカーの人たちの集まりでは、紅茶のお供に手作りのトッテナムケーキが欠かせないのだとか。シンプルな材料で作ることができ、何人いても平等に分け合えるこのケーキはクエーカー教の教えにも沿うものなのでしょう。一口頬張れば思わず笑顔になれる、優しい味のケーキです。

ココナッツのせバージョンもおすすめです☆

ココナッツのせバージョンもおすすめです☆

 

珍しくフットボールの話題が出たついでに、今日はもうひとお菓子。イギリスのプレミアリーグといえばマンチェスターユナイテッドFCやリヴァプールFCも有名ですね。先日はマンチェスタータルトをご紹介しましたが、実はリヴァプールタルトなるものも存在します。そのタルトのレシピが残されていたのは1790年代に書かれた手書きのファミリーレシピブック。そして、場所はリヴァプールかと思いきや、遠く離れたドーセットにあるEvershotという小さな村。ある日この村のウェブサイトに、そのタルトのレシピが取り上げられたのをきっかけに、長い間家族の間でだけ食べられていたそのお菓子が日の目を見ることになります。 どんなお菓子かといいますと~一言でいえばレモンタルトの一種。ですが見た目は真っ黒でとてもレモンタルトには見えません。オリジナルのレシピはこんな感じ。

< Liverpool tart >
1/2lb moist sugar
2oz butter
1egg
1lemon
Pastry
Put the butter and sugar into a moderate oven to melt. When melted, let it cool. Boil your lemon whole very slowly(or it will break) until quite soft. Mince it whole as it is, saving the juice as much as possible and taking out the pips. Mince very fine. Beat the egg well. Mix all well together. Line a flat open tart dish with good paste( ie pastry) and pour in the mixture to one uniform thickness (about half an  inch), cross bar over and bake. Serve hot or cold.

フィリングは丸のままゆっくり茹でて皮まで柔らかくなったレモン1個を細かく刻んだもの、moist sugar (モスコバドシュガー)8オンス、卵1個、溶かしバターン2オンスを混ぜ合わせたもの。これをペストリーを敷いた型に流し、クロスにペストリーを渡して焼きましょう~となっています。

リヴァプールタルトは甘くて、ほのかに酸っぱい濃厚なお味☆

リヴァプールタルトは甘くて、ほのかに酸っぱい濃厚なお味☆

レモンのタルトではありますが、大分風変りな作り方。肝心のお味のほうはといいますと、お砂糖の量の割には丸ごと入ったレモンの香りと酸味が効いていて、甘さの中にも爽やかさがあり、私は好きな味。ねっとりとしたフィリングはノーフォークトリークルタルトエクルフェカンタルトを足して割ったような感じです…分かりづらいですね、ピーカンパイのピーカン抜きにレモンを足したような…すみません、材料から想像力を美味しい方向に働かせてください(笑)。
謎なのはどうしてこのレシピがドーセットの小さな村に伝えられているのか。このファミリーに誰かリヴァプールにゆかりのある人がいたのかもしれませんが、何せ古い話なのでもはや知るすべはなし。でもそんなことより、リヴァプールっ子にとって大事なのは、うちにも名前の付いたタルトがあった!ということ。ただ如何せん、マンチェスタータルトなどと比べると地味な見かけなので、リヴァプールFCのエンブレムにもなっているLiver Bird (リヴァプールのシンボル) の柄が浮かび上がるようにデコレーションをしてみたり、なんとかリヴァプールの名物にしようと頑張っています。果たしてどうなることやら、要経過観察といったところ。日本でもB級グルメやら、にわかに作り出した名物料理で地域活性化が図られていますが、何百年も前の手書きのレシピブックからリヴァイバル、なんていうところがイギリスっぽくていいなぁと思ってしまいます。

Share.

About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

ウェブサイト ブログ

Leave A Reply

CAPTCHA